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オリンピック挟むか〜『ナイト・ドクター』第5話
月9『ナイト・ドクター』(フジテレビ 系 月曜よる9時〜)はベイエリアにあるあさひ海浜病院が新たにはじめた夜間専門の緊急救命が舞台。ニューヨーク帰りの指導医・本郷亨(沢村一樹)の元で働く若者たちの悩みながらも前を向いていく姿が1話完結で描かれる。【前話レビュー】『ナイト・ドクター』恋に仕事に“リア充”な高岡(岡崎紗絵)が恋人に依存する理由 第4話
第4話までは、恋より仕事、救命に情熱を燃やす朝倉美月(波瑠)、持病を抱えた妹・心美(原菜乃華)を親代わりのように世話する優しさが弱さにもなり「チキン」とか「ハムスター」と呼ばれてしまう深澤新(岸優太)、あさひ海浜病院の本院・柏桜会グループの桜庭会長(真矢ミキ)の息子で心臓に疾患のある桜庭瞬(北村匠海)、恋も仕事もと欲張って、けっきょく恋に依存していた高岡幸保(岡崎紗絵)の物語が綴られた。
第5話は彼らより少し年長で上級医、「筋トレバカ」(by朝倉)の成瀬暁人(田中圭)の物語だ。そこに、「働き方改革」と「インフォームドコンセント」の問題が絡んでくる。
ある日の日中、届いた郵便物を見て浮かない顔をしている成瀬が気になって、朝倉が封筒を奪うと、差出人は東京地方裁判所。「先輩、もしかして訴えられてるんですか」と訊ねる朝倉。郵便を奪うことも、「訴えられてる?」と聞くことも、すべてにデリカシーのない朝倉。
彼女は「働き方改革」のせいで労働時間が短くなり、学べる機会が減って、日本の医療のレベルは落ちる一方と国の制度に文句を言い、挙げ句「たいして誰の役にも立てないまま長生きするくらいだったら太く短く生きたほうがマシ」と極端なことを言い出し、「ハイパーストイック」と高岡に呆れられる。
ある日、朝倉は運ばれてきた患者が副業をしていると聞いて副業を意識しはじめる。……あれ? 第5話は成瀬の回ではないのか? と疑問に思いながら見進める。
朝倉の受け入れた患者を成瀬が奪う。以前から成瀬はなんでも自分でやって仕事を任せてくれないと朝倉は不満に感じていて、ますます苛立つ。
成瀬はそんなことおかまいなしにきびきび処置していく。「絶対に助ける」と患者に言った深澤にうかつなことを言うなと咎め、「医療に絶対はない」と厳しい成瀬。
朝倉がいちいちうざい
気になった朝倉は、八雲院長(小野武彦)から成瀬の過去の話を聞きだす。そんなに細かいことを聞きだしていいのだろうか……。この回、朝倉がいちいちうざい。あとで「人のプライベートにそこまで首つっこんで楽しいか」と成瀬に言われるのは当たり前である。でも「元気だしてください」と無神経に励ます朝倉に成瀬は怒ることもない。なんて大人な成瀬。そうか、朝倉がうざければうざいほど、成瀬の人として優れたところが際立つという狙いなのかもしれない。うざい朝倉が院長から聞いた話によると、ある患者の親が治療した成瀬を訴えているのだった。医療ミスで死んでしまったというわけではなく、医療ミスはなく患者も助かったのだが、そこに出てくる「インフォームドコンセント」問題。治療に際してあらかじめ家族に同意書を書いてもらうための文言は家族にとって親切なものではなく、あくまで病院側の責任を回避するためのものである。これはよくわかる。医者に行くと、何かあったときに責められる可能性をあらかじめ潰そうとするような逃げの言い方をされ、不安になることがよくある。
成瀬の場合、患者に後遺症が残ったことに対して、親が訴えを起こしていた。成瀬には責任はなく、むしろできる限りのことをやったが、もっとやれたかもしれないと責任を感じている成瀬。
黙々と体を鍛えている成瀬。自室に帰るとプロテインを飲む。それによって上腕二頭筋がいい感じに育つ。これは、成瀬が医療に関して日夜勉強し技術を磨いていることを筋トレという形で表現したものと考えていいだろう。医学書を読みふけったり、縫合の練習したりする画面が出てくると説明的になりすぎるから、こういうのがあっていい。ちなみに、朝ドラ『おかえりモネ』では気象予報士の勉強に励む姿を縄跳びで表していた。
偽母子だった
そんな折、朝倉から成瀬が奪った患者である日向の母親・法子(紺野まひる)にあやしい節が見られる。問い詰めると、親に虐待されていた子を見かねて連れて逃げているのだった。かつて坂元裕二脚本の連ドラ『Mother』(日本テレビ)で丁寧に繊細に描かれた虐待されている子供と連れて逃げる女性の連帯と共闘の物語がここではわずか数分の説明セリフで済む物語になる。もっとも『ナイトドクター』は医療ものであって、偽母子の物語ではなく、あくまで子どもの病気をどう治療するかの話なのである。と、ここで再び、「インフォームドコンセント」問題。
「日向くんを助けるためなら犯罪者にでもなります」と言う法子の覚悟に打たれた成瀬は同意書なしに手術をしようとする(同意書の問題と、虐待親から子どもを守る問題が混ざってしまっている印象で、なんだかセリフに無理があるように感じた)。もし失敗したら実の親に訴えられるおそれがあるが、成功させる気満々な成瀬。
幸い手術は成功したが、病院は成瀬の強行を咎める。そこで本郷が、マニュアル通りの同意書の危険性を説く。前述したように、病院側の同意書は、患者の不安を取り除くものではなく、万が一、治療に失敗したときに病院が責任を負わないためのものである。専門家側(医者)の視点で書かれた文章は素人(患者)にはわかりづらい。世にはびこる契約書なんかもだいたい一方的に専門用語で書かれている。やたらと難しいからよくわからないまま契約してしまう。滅多に大変なことにはならないが、なかには大変なことになることもある。
「働き方改革」も過重労働の責任を負わされたくないという逃げの発想で推し進めればいいってものでもない。「働き方改革」といい「インフォームドコンセント」といい、上からの一方的な押し付け。
成瀬の絶妙演技
本郷の話を聞いた成瀬は、訴えられている親の元に、当時の説明をしに行く。丁寧に事情を説明することで、あの時、難しい手術に同意したからこそ今、子どもは生きていることが認識された。「毎日は選択の連続だ」とぶつぶつつぶやきながら街を歩く成瀬。彼をまとうものすごく重たい空気が、訴訟が取り下げられたと聞いたときに、ぷしゅっと空気が抜けたようになる。その落差が絶妙である。これまでの成瀬のクールさはこの訴訟問題にがんじがらめになっていたのかと思うほどに。でも、問題が解決したといって、簡単に陽気な人になるわけではなく、心配していろいろ助力してくれた朝倉たちへの御礼の代わりに、医療のアドバイスをはじめる。斜に構えたところは性分のようである。
こうして成瀬の物語は終了。終盤は、副業をはじめて過重労働になった朝倉が事故現場でピンチに……。「どうしてこのとき彼女の異変にきづかなかったんだろう」と不安になる深澤のモノローグ。
まだ5話にもかかわらず主人公クラスの大事故はなかなか早い展開である。
もうちょっと成瀬に時間を割いてほしかったのと、桜庭と高岡がいるだけ過ぎないだろうか。
(木俣冬)
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番組情報
フジテレビ 系『ナイト・ドクター』
毎週月曜よる9時〜
出演:波瑠 田中圭 岸優太 岡崎紗絵 北村匠海
一ノ瀬 颯 野呂佳代 櫻井海音 梶原善 真矢ミキ 小野武彦 沢村一樹、ほか
脚本:大北はるか
音楽:得田真裕
プロデュース:野田悠介
演出:関野宗紀 澤田鎌作
制作著作:フジテレビ
番組サイト:https://www.fujitv.co.jp/NightDoctor/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami