※本文にはネタバレがあります

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『ナイト・ドクター』第6話 深澤(岸優太)チキン卒業! 仲間の存在が力になり成長につながる
イラスト/AYAMI

2週間ぶり放送『ナイト・ドクター』第6話

オリンピックで2週間休止していた月9『ナイト・ドクター』(フジテレビ 系 月曜よる9時〜)第6話は15分拡大バージョン。ベイエリアにあるあさひ海浜病院の夜間専門の緊急救命に配属された年齢も経歴もバラバラの5人が、働き方改革という矛盾に満ちた制度下、夜の病院を守ろうと奮闘する。

【前話レビュー】『ナイト・ドクター』成瀬(田中圭)の問題解決も、美月(波瑠)がピンチに

2週空いたのと、ここから後半戦に突入するので、改めて5人の救急医たちを復習しておこう。
朝倉美月(波瑠)は恋より仕事――救命に情熱を燃やす。バイタリティー旺盛で、副業までして医療の知識と技術を学ぼうとしている。

深澤新(岸優太)は持病を抱えた妹・心美(原菜乃華)を親代わりのように世話する優しい人物。でもそれが弱さにもなり、医療の現場で尻込みしがち。「チキン」「ハムスター」と呼ばれている。

桜庭瞬(北村匠海)はあさひ海浜病院の本院・柏桜会グループの桜庭会長(真矢ミキ)の御曹司。恵まれて見えるが心臓に疾患があり、思うように仕事ができないことをコンプレックスに感じている。

高岡幸保(岡崎紗絵)は恋も仕事もと欲張って、けっきょく恋に依存していたことに気づき、考えを改めたところ。

成瀬暁人(田中圭)は5人の中では少し年長の上級医。腕が立つ頼もしい人物ながら、前の職場で患者の親に訴えられていたが、ひたむきに誠実に接することでようやく理解を得ることができた。

完璧な人物はひとりもいない。この5人をニューヨーク帰りの指導医・本郷亨(沢村一樹)が懐広く見守る。


※初出時、一部に誤解を招く表現がございました。お詫びして訂正いたします

朝倉はどうなった!?

休止前の第5話の終盤、工場で重機の誤作動による事故が起こり、複数の傷病者が出た。成瀬と深澤、朝倉が駆けつけるも、かなりの凄惨な現場に深澤はビビる。

彼に比べて朝倉はきびきびと行動する。だが、副業もはじめて相当オーバーワークだった朝倉がふらついた拍子に高所から落ちてしまう。第5話ではかなりやばそうなところで「つづく」になってやきもきした2週間であったが、第6話では朝倉が倒れる前から描かれ、転落したもののすぐに立ち上がり治療を続ける。

無理がたたって仕事を終えると、再び倒れてしまう朝倉。ここまでが第6話のアヴァン(タイトルバックが出るまでのさわり)10分ほど。

朝倉は肋骨を3本骨折して入院。彼女の就労時間を見ると。副業も含めると過労死レベルだと本郷の監視責任が問われる。経験を積みたかったのだと弁解する朝倉に、ともすれば患者の命を奪ったかもしれないと指摘した成瀬は「今のおまえは救急医失格だ」と厳しく断じる。

小柄で華奢な波瑠が不死身レベルの体力保持者として描かれているところがこのドラマの面白さのひとつ。
一見そうは見えないのだが、朝倉はがむしゃらで、やや思慮が浅い。悪気はないものの他人の話にずけずけ踏み込むような無神経さもある。ひとりで突き進み、けっきょく上司やいろんな人に迷惑をかけてしまう。医者というものは思慮深く繊細さが必要な仕事なのではないか。

話を聞き及んだ桜庭会長は由々しき事態であると本郷に厳重注意する。

朝倉が死ぬ展開じゃなかった

成瀬は、深澤を住まいの屋上に呼び出して、過去、朝倉のような熱心な後輩が無理して亡くなってしまったことを語る。そう、第1話のレビューで書いたあのドラマのようなことは悲劇以外の何ものでもない。『救命病棟24時』シリーズ(99、01、05、09、13年)の第2シリーズで渡辺いっけいが演じた医局長・小田切が働き過ぎて倒れてしまう、あの衝撃は20年経過した今も忘れられない。



朝倉は主人公である。主人公がドラマの前半で亡くなって、後半から主人公が交代したら画期的過ぎる。幸いそういうことにはならなかった。

だが朝倉の負傷は深澤が頑張るきっかけになる。朝倉が辛そうな雰囲気はうすうす感じていたが、何もできなかったことに責任を感じていた深澤。
再び、大変な現場に立ち向かうことになったとき、朝倉に頼ることなくひとりでやりきる。朝倉が主人公を降りたわけではないけれど、少し弱いところのあった深澤が一人前になるという儀式が行われたといえるだろう。

『ナイト・ドクター』は各話で主人公が変わっていく群像劇で、各回の終盤に次の主人公にバトンタッチするような構成になっているが、それは単に主人公が入れ替わるのではなく、人と人の関わりが次の物語に影響を与えることが狙いなのだろうということが第6話ではうまく描けていた。


『おかえりモネ』の菅波がいなくてよかった

コンプレックスを解消し「チキン」「ハムスター」をようやく卒業した深澤。「おまえのおかげで患者が助かった」と成瀬に言われ、いい気分になる。これ、朝ドラ『おかえりモネ』だったら菅波(坂口健太郎)に「あなたのおかげで助かったという言葉は麻薬です」と釘を刺される案件である。でも『ナイト・ドクター』には菅波はいない。

オムライスを作ってうきうきしていたら、朝倉が部屋を訪ねて来る。男女逆転じゃないが、深澤が朝食を作って、朝倉がそれをむしゃむしゃ食べる。従来の男女の役割が、朝倉と深澤は逆になっているところがジェンダーフリーを意識する昨今らしいドラマである。

朝倉は深澤の部屋で、桜庭から借りた医療雑誌、高岡から借りた手術のDVDなどを見つける。みんなそれぞれ協力しあって勉強していた。ただがむしゃらに働き続けるのではなく、働き方改革で失われた学びの時間をいかに工夫で補っていくかに目覚めた朝倉は仲間たちに影響されてさらに向上心を高めていく。


常に共に行動していなくても、仲間を感じながら頑張っていく。このスタイルは、コロナ禍、大人数の群集劇を作りにくいための苦肉の策かもしれない。桜庭のいない代わりのように看護士・新村(櫻井海音)がいたりして、スケジュール調整が大変なのかなとか思ってしまったりもするのだが……。ひとりひとりが仲間のことも思いながらバトンタッチしていくリレー方式に温もりを感じるのは俳優たちの人柄であろうか。
(木俣冬)

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番組情報

フジテレビ 系
『ナイト・ドクター』
毎週月曜よる9時〜

出演:波瑠 田中圭 岸優太 岡崎紗絵 北村匠海
一ノ瀬 颯 野呂佳代 櫻井海音 梶原善 真矢ミキ 小野武彦 沢村一樹、ほか

脚本:大北はるか
音楽:得田真裕
プロデュース:野田悠介
演出:関野宗紀 澤田鎌作

制作著作:フジテレビ

番組サイト:https://www.fujitv.co.jp/NightDoctor/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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