その中の一人が、ある日ぽつりとAさんに話しかけてきた。
「こんにちは、◯◯ちゃんママですよね?」
それは突然の出来事だった。
でも、なぜだろう。どこか、“この人はちょっと違う”と感じた。
心の隙間に差し込むような、優しい声。
Aさんは初めて、「私もここにいていいのかもしれない」と思えた。
けれどその夜――
夫に打ち明けたとき、思いがけない孤独が再び訪れる。
「こんにちは、◯◯ちゃんママですよね?」
Aさんが驚いて顔を上げると、声をかけてきたのは、
これまでママグループの輪にいた一人――Dさんだった。
ボスママ・Bさんの隣でよく笑っていたあの人。
Aさんは少し戸惑ったが、Dさんの声は柔らかく、表情にも尖った印象はなかった。
「実は、あの輪の中…ちょっと苦手なんですよね。
いつもBさんの言葉に合わせなきゃいけなくて疲れちゃって」
そう言って笑うDさんに、Aさんもつられて笑った。
“この人も、無理してたんだ”
そう思ったら、ほんの少し、心がほどけた。
「今度、園の近くのカフェでも行きませんか?
あんまり人と深く関わらないタイプなんですけど、Aさんとは話しやすそうで」
その言葉に、Aさんはうれしかった。
ようやく誰かに“選ばれた”気がした。
でもその夜――
夫にその話をした時、返ってきたのは、まるで温度のない一言だった。
「気にするなよ、そんなの。
ママ友付き合いでいちいち落ち込むなんて、もったいないぞ?」
Aさんは、スマホを見たままの夫の顔を見つめて、何も言えなくなった。