“ひとり芸日本一”を決める『R―1グランプリ2021』(カンテレ・フジテレビ/3月7日放送)で、敗者復活から決勝に進み、トップバッターで爪痕を残したマツモトクラブ。結果ファイナルステージ進出は叶わなかったが、SNSでは「マツモトクラブが個人的には優勝だった」など絶賛の声が飛び交い、Twitterのトレンド入りも果たした。
「芸歴10年以内」ルールで、今年で「R-1」最後の年となったマツモトクラブに、改めて自身のキャリアを聞いた。(前後編の後編)

【前篇はこちら】マツモトクラブが語る最後のR-1「僕みたいなおじさんは必要とされていないんじゃないか」

【写真】R―1ラストイヤーで決勝進出したマツモトクラブ

――これまでのキャリアについてお伺いしたいのですが、小さい頃から人を笑わせるのが好きだったそうですね。

マツモト そうですね。ただ小学生のときまでは目立ちたがり屋だったんですけど、中学生になるとヤンキーが怖くて、中・高と目立たないように生きていたんです。一方で、お笑いやテレビは好きだったので、メディア関係に携わるような仕事をしたいと思っていました。

――高校時代は自作自演したラジオ番組をカセットテープに吹き込んで、友達に渡して聞いてもらっていたそうですが、ラジオも好きだったんですか?

マツモト そんなにたくさん聴いていたわけではないんですけど、すごく記憶に残っているのは三宅裕司さんの『ヤングパラダイス』(ニッポン放送)です。意識していたわけではないんですけど、頭の中のどこかに『ヤングパラダイス』があって、ラジオってこういうものだと思いながら作っていたと思います。

――高校卒業後は放送系の専門学校に進学したそうですが、どのように進路を決めたんですか?

マツモト 演者になろうという気持ちは全くなくて、テレビのディレクターさんや放送作家さんに憧れて、裏方の専門学校を選んだんです。でも在学中に裏方よりも表に出る仕事のほうがおいしいなと思って、卒業後は劇団シェイクスピア・シアターに入団しました。

――なぜ劇団シェイクスピア・シアターを選んだんですか?

マツモト 役者になりたいと思うようになってから、専門学校に通いながら、俳優養成所のクラスにも週1で通っていました。でも、どうやって役者になっていいのか分からなくて、俳優座を受けたんですけど、そこは落ちて。養成所で知り合った友達が劇団シェイクスピア・シアターに入ると聞いて、僕も受けたら合格しました。


――それほど演技経験がないのに合格したのはすごいですね。

マツモト 劇団シェイクスピア・シアターは普通に文字が読めれば受かるんです(笑)。ただ間口は広いんですけど、どんどん辞めていくんですよね。同期は、高校演劇をやっていたとか、別の劇団でやっていたとかで、僕だけが未経験でした。でも、フラットに入った人のほうが何も分からず進んでいくので長続きして、理想を持って入ってきた人の大半は壁にぶち当たって辞めていくんです。

演出家の先生から「松本はバカだからいいよ」と言われることが多くて、それを誉め言葉と解釈していたんですが、余計なことを考えずに、ストレートに演じているところが良かったのかもしれません。

――入団して13年後、30歳を過ぎて退団したそうですが、理由は何だったのでしょうか。

マツモト 劇団だけでは食べて行けず、30歳を過ぎても生活が変わらない。だったら一旦辞めて、自分に何ができるかを模索しようと考えたんです。と言っても1年間は何も動かず、フリーター生活を送っていたんですけど、パチンコに連続で勝つ日が続いて、それまで持ったことのないまとまったお金が手に入ったんです。そのお金でiPhoneを買って、ボイスメモを使って遊んでいるうちに、今やっているようなネタの形ができあがりました。

それをYouTubeで公開したら、面白いと言ってくれる友達が多くて。
そのうちの一人が劇団の後輩で、お笑い好きだったんです。この方向性でお笑いをやったらどうですかと勧めてきて、ソニー(・ミュージックアーティスツ、通称SMA)だったら簡単に所属できると教えてくれて。それでソニーの事務所ライブを観に行ったら、すごく楽しそうで、自分と年齢の近い人たちも頑張っているので、ここだったらやってみたいと思いました。その後、履歴書を持って事務所に行ったら、1週間後には事務所ライブに出ていました(笑)。

――パチンコが転機になったんですね(笑)。30歳を過ぎて、未知の世界に飛び込む不安はなかったんですか?

マツモト もちろんありました。ただ、劇団の頃は何を目指してお芝居をやっているのかが分からなかったんですけど、お笑いの世界に入ったら、事務所ライブで上を目指したり、R-1のような賞レースに出場したり、明確な光に向かって進んでいくことの充実感があったんですよね。

――4回目の挑戦で、R-1の決勝に進出しましたが、過去の3回とは違う手ごたえは感じていたんですか?

マツモト それまで僕のネタに何も言わなかった事務所のチーフマネージャーが、そのネタを事務所ライブでやったときだけは「今日のネタはR-1まで隠しておけ」と言ってきましたし、周りの芸人からも「今日のネタはめちゃくちゃいいぞ」と言ってもらいました。

自分の中でもいいネタができたなという手ごたえはあったんですけど、周りの反応を見て確信して、このネタで行こうと心に決めたことで、復活ステージを勝ち上がって初めて決勝に進出できたんです。

――芸人同士でアドバイスし合うことも多いんですか?

マツモト 他の事務所さんは分からないですけど、ソニー(ハリウッドザコシショウバイきんぐ、錦鯉などが所属)は芸人同士でアドバイスを言い合います。みんなどこかで傷付いてきたおじさんが集まっているところなので、先輩・後輩関係なく意見を言えますし、みんなでネタを作っているような雰囲気があります。それがソニーの強みかもしれないですね。


――今後はどのような活動を考えていますか。

マツモト 今年で最後の出場になったR-1を一つの区切りとして、今までチャレンジしたいと思いながらできなかったことをやりたいですね。今までと変わらずネタ作りをしていくのはもちろんですが、長編の脚本も書いていきたいです。

それが舞台なのかドラマなのか映画なのか分からないですけど、自分が脚本として書いたものを、自分以外の人に演じてもらいたいんです。役者としても、もっとテレビや映画に出たいですね。

――ちなみに今年のR-1で決勝進出したことで仕事は増えましたか?

マツモト 全然増えてないです(笑)。だから、自ら新しい道を切り開いていくしかないんですよね。

マツモトクラブ
Twitter @nationaldog
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