ネットでの連載が好評を博したことで、『敗北からの芸人論』(新潮社)を上梓した平成ノブシコブシ徳井健太。その愛ある芸人考察は、2020年に吉本芸人への愛を一冊にした東野幸治からも後継者としてお墨付きだ。
千鳥、かまいたちなどの売れっ子芸人から、衝撃を受けた渡辺直美の存在、人気急上昇中のオズワルドなど、徳井が劇場や共演で観て来た、才能ある芸人が絶望から這い上がる姿を、その熱い文章とは裏腹に淡々と語った。(前編後編の前編)

【写真】愛ある芸人考察に定評がある平成ノブシコブシの徳井健太

──『敗北からの芸人論』を拝見し、芸人への考察眼や愛情が溢れていると感動しました。と共に現役の芸人でいながら、どうして他の芸人の素晴らしさを公に出していこうと思ったのか? とも。 
徳井 公に出してね、確かに(笑)。昔は、少しは僕も尖っていて、芸人はベラベラ喋らずに面白いことだけを言えばいいみたいな、大喜利がうまけりゃカッコいいという考え方だったんですよね。

──きっかけがあったのですか?

徳井 先輩で元・ハローバイバイの金成公信さん(現・吉本新喜劇・千葉公平)が舞台でMCをやっているのを観ていて、「こんなに視野が広くて若手に振ったり、フォローもできる先輩がなんで売れないんだろう?」みたいなことを同期と話すことがよくあったんです。
本番中にそういうことを言うのはさすがにタブーだけど、最近は年も取ったせいか、面白い大喜利のギャグを思いつく前に、「もっとこうしたほうがいいのにな」というのが先に頭に浮かんできちゃう。そこで言ったことを文字に起こしてみたら、こういうことになりました(笑)。

──徳井さんは、東野幸治さんから、「何をモチベーションにしているの?」と聞かれたときに、「自分が才能あると思う先輩や、後輩が売れること」「もっと影響力を持って、好きな先輩や後輩を助けることができたらと思います」と答えています。

徳井 「いいものは、いい」とは、ちゃんと言いたいんです。最初に渡辺直美に出会ったときは衝撃でした。圧倒的に華があるし、男女問わずにあんなに面白いヤツはいなかった。
でも、(相方の)吉村(崇)がテレビで直美をフィーチャーすれば話題になるし、例えばさんまさんが「こんな面白いやつがおるんや」って言えばテレビに出られるのに、僕が、「こんな面白い人がいるんですよ」と言っても売れないのが歯がゆくて。

でも東野さんは、「それでいい」って、「喫茶店のマスターみたいになったらええんちゃうの?」と言ってくれました。「疲れた人、喉が渇いた人に美味しいコーヒーを出す。そんな人が芸能界に1人ぐらいいたっておもろい」と。

──今回、芸人21組の生き様が紹介されています。ここは絶対に伝えたかった芸人を挙げるなら?

徳井 実はあまり接点のないEXITと霜降り明星だと思います。
EXITでいうと兼近(大樹)の、社会の中での子どもへの考え方は凄いと思ったのと、霜降り明星のせいやの折り紙がうまく折れないという弱点をプラスに持っていったというところはちゃんと書きたかった。これはナイーブなところで、書き方を間違えると迷惑がかかると思ったので気を使って書きました。本人たちは喜んでくれましたけどね。

──コラムにするにあたり、さらに取材を?

徳井 これが本当に恐ろしいことにやってないんです。だから書かれた本人が読むと「その時俺言ったかもしれないけど、そんな深い意味はないよ」というのはめっちゃあると思うんです(笑)。でも、僕はそう感じたので嘘ではない。
聖書もキリストさんの凄いことを弟子が書いているじゃないですか? そんな感覚ではいます。「皆さんどうぞ聞いてください、ありがたいお話ですよ、こんな凄い人がいたんですよ」というように、広く多くの人に知って欲しいという感じです。

──誰を書こうかなど、セレクトは難しかったですか?

徳井 後輩が特に難しかったかな。お世話になった先輩方はやっぱり僕の心の衛生上、いろいろと助けてもらったし、同じ番組にも立っている分、「ここ、凄い」って言えるんですけど、あまり交流がない、例えば若手のコンビ・コウテイについては「単純に面白い」だけで書いています。10歳以上も上の先輩がファンレターみたいなコラムを後輩に書いているというのは、本人たちにとっては怖いことかもしれないですけど。でもここはやらしい話、「俺、コウテイのこと褒めていた感」は出したかったんです(笑)。
コウテイは絶対に売れると思ったから。

──文章で、「醜態をさらしでも生き続け語る」という表現をされていたり、ご自身の死生観みたいなものも感じました。

徳井 確かに。僕はたぶん小さい時から死ぬということが人よりあまり怖くなくて。「人はいずれみんな死ぬ」と無意識にいつも思っていて、「辛くて死ぬ、かわいそう」っていうよりも「どうしても辛かったら死ねるから、頑張れる」という感じがどこかあるのかもしれない。だから死ねば楽になるのに、それでも生きている人はそれだけで凄いと僕は思っている。


「これだけ恥を掻いて、笑われているのに生きているって、そんなカッコいいことあるのかよ」って。どん底から這い上がって、それを笑いにしているってことほどカッコいいものはないとも思っているので、うまくいかなくなったときにどうあがくか、そんな生き様を見るたびに、「芸人っていいな」と思います。(後編につづく)

取材・文/富田陽美

▽徳井健太
1980年、北海道出身。NSC東京校5期出身の同期であった吉村崇と2000年、お笑いコンビ『コブシトザンギ』を結成、その後コンビ名を『平成ノブシコブシ』とする。2005年には、ピース、ハイキングウォーキングら若手ユニット「ラ・ゴリスターズ」で当時は男前コンビとしても活躍。『ピカルの定理』(フジテレビ系)などのコント番組、数々のバラエティ番組に出演。芸人愛には定評があり、近年では、『ゴッドタン』(テレビ東京)の「腐り芸人セラピー」で、心に闇を抱え孤独の中で腐ってしまった芸人たちに的確な考察と熱いメッセージで視聴者から大好評を博している。

【後編はこちら】平成ノブシコブシ徳井が語る芸人考察「単純にネタだけで売れるほど甘くない世界、結局は人間性」