4月8日に横須賀でスタートしたHKT48の全国ツアー『Under the Spotlight』。2019年に開催された九州ツアー以来、じつに2年半ぶりのツアーとなる。
コロナ禍で演出が制限され、さらに村重杏奈田島芽瑠など1期生、2期生の卒業が相次いだ今、どんな新しいステージを見せてくれるのか。神奈川・東京・愛知を回り、5月7日には田中美久の地元・熊本に凱旋を果たしたツアーの模様をグループをグループを長年取材し続けている小島和宏記者がレポートする(前後編の前編)。

【写真】新曲披露&6期生お披露目も、HKT48全国ツアー熊本公演の模様【13点】

かねてから「HKT48のコンサートは楽しい!」という定評があった。その評判が広がり、グループの人気が高まっていった、という側面もある。それだけに2年以上、ツアーができない、というのはメンバーにとっても、ファンにとっても厳しすぎる日々だった。昨年、森保まどか宮脇咲良の卒業コンサートが行なわれ「やっぱりHKT48のコンサートは面白い!」と再確認したばかりなので、まさに今回のツアーはファン待望だった。
初日の横須賀公演は平日開催だったのに、昼公演から満員の観客が押しかけたことでも、いかに待ち望まれていたかがわかる。

ただ、これまでとは状況が大きく変わってしまった。

HKT48のコンサートの楽しさは会場が一体となるところ。ファン時代、横須賀でのコンサートを見に来た渡部愛加里が「さっしーさんがトロッコですぐそばまで来てくれた」と目を輝かせながら語っていたが、ホール規模のライブでもそこまでやってくれたし、時には2階席や3階席にいきなりメンバーが登場する、という演出まであった。

コロナ禍では、そういった客席に降りていくような演出は難しい。つまり、コンサートはステージ上で完結し、それをスタンディングなし、声援なし、マスク着用という状況で見てもらうことになる。
これで「楽しい!」と思ってもらうのはかなりハードルが高い。

その分、ステージ上はかなり充実したセットが組まれた。

3段重ねのステージのうしろには複数のパネル型のスクリーンが設置され、そこには事前に撮影したメンバーのリップシーンなどが映しだされる。わざわざ、このためだけに撮り下ろされた映像。日替わりで登場するメンバーもいて、そのメンバーの映像もしっかりと確認できたので、これは相当な手間ひまがかかっている。

ただ、ステージの様子を映し出すスクリーンはない(ライブ配信されている公演に関しては、その映像は流されている)。
どうしてもメンバーの表情がどアップになっているスクリーンを注視してしまうが、ふと視線を落として驚愕した。全員でのパフォーマンスでのフォーメーションが非常に美しい! センターには矢吹奈子が立っているのだが、センターというよりも先頭に立ってメンバー全員をけん引しているような構図に見えた。特に横須賀と渋谷は田中美久が出演できなかったため、矢吹奈子への負担が大きくなっていたはずなのだが、もはや貫禄すら感じさせる存在感で魅了してくれた。

これが新しい「HKT48のコンサートは楽しい!」のカタチ。

新しい、といえば1期生、2期生の卒業が続いたことで、過去の楽曲のオリジナルメンバーがかなり減ってしまった。特に田島芽瑠の卒業により、初期のシングル曲のセンターは全員、いなくなったことになる。


こうなるとHKT48のメンバーがHKT48の楽曲を歌っていても「コレジャナイ感」が出てしまう恐れがある。これはメンバーの入れ替わりがあるグループの宿命でもあり、これまでも何度となく、複雑な気持ちになったものだが、それを打破するためにHKT48はおもいったことを仕掛けてきた。 

それはアレンジをおもいっきり変えて、新解釈ともいうべきものにしてしまう、というもの。特にバンドコーナー(生バンドではないが、事前にバンドによる演奏を録りおろしている)で披露された『74億分の1の君へ』は、歌い出しの時点で「?」となってしまうほどの転生ぶり。豊永阿紀の歌声で、新しいスタイルが動き出した。

豊永だけでなく今回のツアーは4期生の活躍が目立つ。
アルバム『アウトスタンディング』収録曲の『あっけない粉雪』では運上弘菜が、そして『HAKATA吸血鬼』では地頭江音々がセンターを務めた。もっといえば、MCコーナーも若いメンバーが仕切るシーンがこれまで以上に多くなっている。

1期生の松岡菜摘が「もう後輩にすべて任せられる」とツアー前に語っていたが、まさにそれが現実のものとなっていた。ちなみに松岡菜摘は「必死になりすぎて忘れてしまったことがあるような気がする。なんにも考えないでひたすら楽しんでみようかな」とも語っていたが、まさにキレッキレでバッキバキのパフォーマンスでステージ上を伸びやかに舞っていた。この相乗効果はなかなか面白いものがある。


中盤には他のアーティストの楽曲をカバーするチャレンジコーナーも設けられたが、いわゆる歌うまメンバーだけでなく、さまざまなメンバーがトライ。それも1人1曲ではなく、他の公演では同じメンバーが別の曲にチャレンジしていたりもしている。これは相当なプレッシャーになりそうだが、ステージ上でコンサートを成立するためには歌声はより重要なパーツになってくる。これもまた新しいHKT48のコンサートの流儀、である。

座って見ているだけでも、十分、楽しくて満足感も高いツアーだが、初日に客席が高まったのが、本編のラストの楽曲のとき、矢吹奈子が「この曲だけ、みなさん立ちましょう!」と声をかけてくれた瞬間。もちろん、コールはできない。ペンライトも振れない。みんなで立ちあがって手拍子をしてください、というものだったが、2年半ものあいだ、コロナ禍で縛りつけられていた鎖から解き放たれたようで、本当に心が晴れた。メンバーが客席に降りていかなくても会場が一体となった喜び……やっぱりHKT48のコンサートは楽しい!

そして、5月からは田中美久が戻ってきた。

5月7日の熊本城ホールは田中美久の凱旋公演でもある(もうひとり田中伊桜莉も熊本出身で感無量の地元凱旋を果たした)。なこみくでセンターを務めた『早送りカレンダー』や、彼女のセンター曲である『君とどこかへ行きたい』は、やっぱりみくりんがいてこそ、なのである。回を重ねて、充実度が増していた内容に田中美久が加わったことで、このツアーの完成度はさらに高くなった。

しかし、熊本城ホールでのプラスアルファはこんなものではなかったのである。(後編へつづく)

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