HKT48が8月14日に六本木ヒルズアリーナで開催された「サマーステーション音楽ライブ」に出演した。卒業を控えた松岡菜摘神志那結衣も出演し、絶好の野外ライブ日和となった当日。
ライブに強いHKT48が本領発揮、奇跡のようなステージが繰り広げられた。SNSなどで「神セトリ!」と叫ばれた伝説のライブを、グループを長年取材する小島和宏記者がレポートする。

【写真】HKT48の「サマーステーション音楽ライブ」ステージ【8点】

卒業の季節といったら、言うまでもなく春が定番なのだが、今年のHKT48に限っては夏にそのピークがやってきてしまった。

8月28日に2期生の神志那結衣が、そして8月31日には1期生でチームHのキャプテンでもある松岡菜摘がHKT48劇場で卒業公演をおこなうこととなった。すでに7月12日に福岡で開催された全国ツアーの千秋楽において、メンバー全員でふたりを送り出すコーナーも設けられたりもしているのだが、卒業当日まで時間はある。

そう思っていたら、東京でふたりが出演するイベントが決定した。
本当の首都圏ラストステージとなるのは8月26日、27日に横浜アリーナで開催される『@JAM EXPO2022』になるのだが、その前にテレビ朝日で開催中のサマーステーション音楽ライブに出演することになった。

出演日は8月14日。正午からと15時からの2回公演なのだが、メンバーを見て、思わず『おおっ!』となった。第1部と第2部ではメンバーがまったく違うのだ。第1部は4期生以降の若手メンバー、第2部は1期生からドラフト2期生までで構成されており、卒業を控えた松岡菜摘と神志那結衣はもちろんのこと、彼女たちの同期メンバーもしっかりと名前が入っている。これはもうなにがなんでも現場に行かなくてはいけない、という気持ちになった。
おそらく福岡で行なわれる卒業公演には足を運べないので、しっかりとふたりの姿を目に焼きつけておきたかったし、その横に同期がいるというシチュエーションは想像しただけでグッとくるではないか。

前日、台風8号が関東を直撃。野外ステージなので開催が危ぶまれたが、前夜のうちに台風は通過してくれた。台風一過で快晴、とまではいかなかったが、日差しがない分、絶好の野外ライブ日和となった。

だが、それは見る側の論理。第1部がはじまってすぐにメンバーの表情を見て、ステージ上が異常に蒸していることを察知した。
客席の後方は風が通るので、非常に快適だったのだが、まったく逆の現象がステージ上には広がっていた。

そういうことがわかってしまうのは今回のステージの特色。横に広い形状の会場なので、最後列でもかなりステージに近い。僕は最後列のさらにうしろから見ていたのだが、それでもステージ上のメンバーの姿は目視できた。それだけでも十分なのに、しっかりとスクリーンが設置されているのでメンバーの表情までよくわかる。コロナ禍で忘れかけていたが、サマステはそんな神現場だったことを一瞬で思い出した。
2020年以前の夏の光景がそこにはあった(最後列よりうしろなので観客のマスク姿はまったく視界に入ってこないのだ)。

蒸し暑さMAXでもメンバーはフルスロットルで歌い、踊る。

印象的だったのは曲が変わるたびに、4期生の誰かがセンターを務めるという『4期無双』状態。全国ツアーで4期生の力量を如何なく見せつけられたが、4期生以降のメンバーだけのステージだと、それがさらに顕著なものとなる。実際にシングルの表題曲でセンターを務めたことがあるのは運上弘菜だけなのだが、誰でもセンターを張れることをこうやって実証されるとHKT48の未来は明るいな、とつくづく思う。もちろんドラフト3期生と5期生がメインとなる楽曲もあったし、この日のメンバーには入っていなかったが6期生もぐんぐん成長している。
しかもシングル表題曲がほとんどない、という異色のセットリスト。いまだ見たことがないHKT48の景色がそこにはあった。

そしてMCコーナーを挟んでの後半戦で、その景色がガラッと変わる。

「HKT―っ! 48!!」

いきなり地頭江音々が叫んだ。えっ、まさか?と思ったら、そのまさかだった。AKB48の『RIVER』を若手メンバーだけでパフォーマンスする、という予想外の展開。
あのころから48グループを見続けているおじさんにとっては胸熱すぎる衝撃だった。前述したようにステージ上はかなり蒸し暑い状況。そこでこの楽曲はかなりキツいはず(しかも、ここからのブロックはアゲ曲満載、なのである!)。フォローしてくれる先輩はこの日のステージにはいない。そんなシチュエーションが歌詞ともリンクして、さらにググッときてしまう。パーフェクトなステージだったかと言われたら、けっしてそうではない。でも、息も絶え絶えになりながらやりきった12人の姿は2022年夏を代表する「青春の光景」として、メンバーにも、そして目撃した観客の心にもずっと残るものとなった気がする。

それから2時間後。
 
2部はお姉さんチームが登場。松岡菜摘はこの座組を「初期メンバー」と呼んだ。1期生は全員出演。2期生は全員集合とはいかなかったが、神志那結衣に寄り添うように同期の坂口理子の姿があった。

メンバーが変われば、セットリストも変わる。第1部では、すべての楽曲を全員でパフォーマンスしたが、こちらではユニット曲を挟みながら、じっくり聴かせる感じの構成。なかなかコンサートでは披露しない楽曲も多く、この日ならではの内容となった。第1部よりはかなり蒸し暑さも解消されているように感じた。

やっぱり散っていく花は、美しい。

なつかしい楽曲では、昔のようなキラッキラの笑顔を浮かべ、しっとりとした楽曲では、去っていく者の儚さも見え隠れする。卒業公演ほどは感極まっていないから、余計にいろんな表情を見ることができたのだろう。普段、福岡まで飛ぶことができないファンにとって、こんなにもありがたいステージはない。

MCコーナーでチラッと劇場公演の話が出たのだが、じつはこれは後半のセットリストの伏線。『最終ベルが鳴る』『シアターの女神』『Only today』『チャイムはLOVE SONG』。劇場を彩り、グループの歴史を築いてきた公演曲の数々をイッキに披露。ひょっとしたら松岡菜摘と神志那結衣が歌うのはこの日が最後になる楽曲も多いだろうと思うと、さらにレア感が増す。

この時点でもうウルウルしていたのに、まさかの『Green Flash』からの『誰より手を振ろう』。まったく想像もしていなかったチョイスに心を揺さぶられる。しかも、いつもだったら真ん中に出てこないであろう松岡菜摘と神志那結衣をメンバー全員で盛りたてて、中心に立ってもらうかのようなフォーメーション。初期メンバーならではの思い出つくりである。

気がついたら今村麻莉愛が泣いている。そして松岡はなの涙腺も崩壊。最近、めっきりお姉さんになってきたな、と思っていたふたりだが、このメンバーの中に入るとまだまだ妹であり、末っ子でもある。変わりゆく光景、変わらない関係性。なんか、もうたまらない気持ちになった。

いつもであれば、最後は松岡菜摘がメンバーに感想を聞いて、締めに入るのだが、この日は本村碧唯が「どうでしたか?」とふたりに話を振った。なにげないことではあるが、あぁ、もうふたりはHKT48の未来を仲間たちに託したんだな、と実感した瞬間でもあった。秋のコンサートからは、これが当たり前の光景になる。そう、景色は常に変わっていくのだ。

ふたりとも最後の野外ライブができたことを、うっすら秋の空気を感じられる夕方のステージ上で大いに喜んだ。そして「幸せな時間でした」(神志那結衣)、「忘れられない1日になった」(松岡菜摘)とファンとメンバーに感謝の言葉を述べた。

じつはこのライブのちょっと前に、それぞれに卒業記念のラストインタビューを敢行している。いつもより、ゆったりとした取材時間をとっていただけたので、いろんな話をすることができたが、そこで出てきた言葉の数々がこの日のステージの情景とリンクしてきて、さらにエモくなった。ぜひ、近日公開となるそちらのインタビューも読んでいただいた上で、彼女たちのラストランを見届けていただきたい。10年以上、アイドルに青春を捧げ続けた女性の散り際は、間違いなく美しい。

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