実話小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で鮮烈なデビューを飾り、以降、精力的な執筆活動を行い、今年の7月には、著者自身が風俗店で経験した“恋愛ごっこ”を赤裸々に綴ったエッセイ集『きょうも延長ナリ』(扶桑社)を上梓した爪切男。そして、リアリティ溢れる男女の心理描写で人気を博し、読者の心をえぐる話題作を次々生み出し続け、今夏には、アラサー男性と風俗嬢の運命の恋とその後を描いた衝撃作『ロマンス暴風域』(扶桑社)が実写ドラマ化(MBS/TBSドラマイズム枠)された鳥飼茜。
奇しくも“風俗店”をテーマとした作品を同時期に世に出したふたりは以前より友人関係にある。今回、その出会いから、親しくなった経緯、そして「男と女の友情は成立するのか」をテーマに語り合ってもらった。

【写真】友人関係にある作家・爪切男&漫画家・鳥飼茜の撮り下ろしカット【10点】

──最初の出会いは、ガールズバーだとお聞きしました。

鳥飼茜(以下、鳥飼) 『ロマンス暴風域』の取材の一環で、編集部の方にガールズバーに連れていってもらった時に、「その道に通じている人がいるので、連れて行きますね」という触れ込みで、ご一緒することになったのが、爪さんです。

爪切男(以下、爪) 鳥飼の漫画は読んでいたので、一方的に知っていて、「あの鳥飼茜か」と。当日会ったらものすごい丈の短いショートパンツを履いていたから「売れている漫画さんは違いますね~」って言って。女の子とうまく話せないからとりあえず悪口を言う小学生男子でしたね。

鳥飼 すごい意地悪だったんですよ。その日、ガールズバーのカラオケで椎名林檎を歌おうとしたら「お前は歌うな」って。

爪 だって目の前の、ガールズバーのキャストの女子大生に「普段、どんな音楽聞くの?」って聞いたら「ザ・スターリン」(日本のバンド)って。そうしたら流れ的に、その子の歌うスターリンが聞きたいじゃないですか。けど、俺らがぎゃあぎゃあしていたら、結局向こう側の卓の客にマイクを取られちゃって。
いるじゃないですか、ガールズバーの女にカラオケを聞かせたいタイプのおっさんって。アリスの曲を入れて、「ユアローリングサンダー!」(曲名:冬の稲妻)とか上手に歌い上げてて、あの夜は楽しかったですよ。

──じゃあ盛り上がって、そのままどこかに二軒目にハシゴしたりとか。

鳥飼 いやいやいや。全然ですよ。だって爪さんとはまったく目も合わないし、口を開けばクソ意地悪いし。なんだこいつは、みたいな感じで。

爪 でも、その後は、縁っていうものなんですかね。漫画家のまんきつさんとか、共通の知り合いが多かったりして、顔を合わせる機会が度々あって、いつの間にか親しくなりました。最近はないけど、昔はよく、ふたりで会ったりもしてたよね。鳥飼が免許取りたての頃は、僕が住む中野まで、ベンツを運転してきて。で、中野サンプラザの駐車場に車を停めて、ガストでお茶して。
二時間くらいしゃべって。

──どういった話題で盛り上がるんですか?

爪 お互いの恋愛の話ですね。本当にプライベートな話。かっこつけず、恥ずかしがらずに何でも言えるというか。自分のほうがちょっとダメだったなってことでも、脚色することもなく言える。

鳥飼 爪さんはプロレスの試合の解説者みたいな役割なんですよ。痴話ケンカした話をしても、「この試合は、こっちが面白かった」とかジャッジしてくれる人。

爪 鳥飼って、恋愛の話をする時に、ええかっこせずに冷静に「相手方のほうが正しかったんちゃうかな」って意見もありきで、全部を話してくれるんです。だから全体図が見えやすい。それに対して僕は「これはこうしたほうがよかったんじゃないかな」って公平な立場で解説するっていうか。

鳥飼 愚痴を聞いてもらって「わたしの味方をしてよね」ってことは最初から期待してない。「面白い話にできたか」ってことしかお互い、念頭にないんです。
でも、深刻になりすぎると、本当の答えって見えなくなるから、面白い話になっているかを判断してくれて、ふたりで爆笑できるのがいい。

──いまっておふたりは、すごく素敵な関係にあると思うのですが、お互いに男女として惹かれたことは、ないですか?

爪 笑顔も可愛いし、鳥飼は非常に魅力的な女性だと思いますけど、友達になりましたからね。だから、今さらそういう目で見ることがあったら、それはどちらかの精神状態がよろしくない時だと思います。

鳥飼 もし、このふたりの間がそういうことになるとしたら、それは均衡が崩れた状態っていう爪さんの言っていることはすごく理解できる。「私たちは、作家同士、プライドをどっちも持っている状態で仲良くしてるんだ」って思っているから。そうなるとしたら「作家を辞めます」っていうくらいの崩れっぷりだろうなって思うと、まぁないだろうなって。

爪 そうかもね。鳥飼がどれだけ落ち込んでても、そこの弱みに付け込むっていうのはなかったと思うし。

鳥飼 そもそも、わたしが落ち込んでいるのを、爪さんは弱みって思ってないよね。面白いことになってきたって、見てる。だから、この間離婚した時も、頑張れたっていうか、しょぼい感じにならずに済んだんです。どちらが被害者かとか、可哀想なわたしってふうに捉えないで、「それなりに面白かったよね。
結婚は終わったけど、また別の人生に生きよう」って。

──爪さんによってもたらされた別の視点が、励みになったんですね。それぞれ別の視点があることは、異性の友人だということが関係していると思いますか。

鳥飼 女の人って、女友達と「老後は一緒に住もう」とか約束したりするじゃないですか。これは偏見なんですけど、女性は同性の友達といい感じに頼り合うけど、男の人は、あんまりしないと思っていて。だから男性は潰れやすいし、将来の不安や弱みを、すべて身近な女に押し付けてくるから、女はいつもヒーヒー言ってるって思ってたんです。でも爪さんがそう助けあいみたいなことを、男友達としてるって話を聞いて驚いた。

爪 ああ、漫画家のたかたけしさんとか、仲の良いおっさんたちと、頻繁に生存確認LINEをしあうことにしていて。パソコンのパスワードも教えてあって、「この中のファイルは好きにしてくれていい」とか「この原稿は絶対に未発表にして欲しい」とかって自分が死んだときのための指示書も書いてある。

鳥飼 わたし、そういう話って初めて聞いて。男の人ってそんなことできるんだって。女性は「何かの時は、あの人に頼って、この人に頼って。
だから普段からなんてことない会話を重ねたり、気にかけ合って出来るだけのことを返そう」って信頼を組み上げていくけれど、男の人って仕事の結果とか、そういうこと以外で、地道に信頼を積み重ねあうことも、あるんだって初めて知って。でもやっぱり珍しいことなんじゃないのかな、とくに同世代だと。だから、爪さんの友情の作り方っていうのは、私の偏見でいう「男・女」を超えてるのかもなって。

──なるほど。“男と女の友情”に固執する間は、互いに男と女という枠にとらわれているってことでもありますね。最後に、友情を成立させるために、必要なものってなんだと思いますか。

爪 お互いに、お互いの陣地があることを認識してること。だから安心してしゃべれる。鳥飼には鳥飼茜ってジャンルがあるじゃないですか。そこには踏み込まない。お互いのジャンルを尊重した上で人付き合いしているから、いい緊張状態があっていいんじゃないですかね。

鳥飼 爪さんは、“かっこよく”会ってくれるんですよ。
悲しいことがあっても、面白がってくれるし、それでこっちも笑っちゃうんです。常に、可哀想じゃない人でいてくれるし、わたしのこともそう見てくれるから、どんな話をしても惨めにならないんです。

構成/大泉りか

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