ラジオというメディアが再注目されている。そう言われるようになって久しいが、現代のラジオスターと聞いて、誰を思い浮かべるだろうか?伊集院光ピストン西沢、RHYMESTERの宇多丸、福山雅治…。
爆笑問題ナインティナインオードリーといった芸人を挙げる人も多いかも知れないが、普段あまりテレビに出演しなかったり、出たとしても、テレビでは冠番組を持たないような意外な大物がレギュラー番組を持っていたりするのもラジオの魅力。今回は、各界の大物がパーソナリティを務めるラジオ番組に注目したい。

■『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』 TOKYO FM(JFN系列38局) 日曜日 23:00~23:30

今年10月に16年目を迎えた長寿番組。ジブリ作品を欠かさず観ているようなジブリファンはもちろんのこと、映画ファンや音楽ファンにも聴いて欲しい、濃く深い話が満載の対談番組だ。パーソナリティを務めるのは、スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫。鈴木にとって初のレギュラー番組であるこの番組の最大の特徴は、「スタジオで収録しない」ということ。
TOKYO FMのスタジオでは一切、収録をしていない。鈴木の隠れ家である「れんが家」にゲストを迎えて、本音を語り合う。ラジオの狭いスタジオから解放され、リラックスした空間で語られる会話。リスナーは、それを盗み聴きしているような特別感さえある。時には、講演会やトークショーの模様が放送されることもあるが、いずれにしても、スタジオ収録ではない、特別な音声が毎回流れている。

今年開催されたイベント『鈴木敏夫とジブリ展』や舞台『千と千尋の神隠し』、愛知県の愛・地球博記念公園に間もなくオープンする『ジブリパーク』についても、もちろん取り上げられており、ジブリファンにとっては、最新情報や今後の動向について、鈴木プロデューサーの口から直接聴ける嬉しい場所にもなっている。


そんな中、豪華で意外なゲストにも注目したい。ジブリ作品以外の映画監督や漫画家を迎えた放送回も興味深いのだが(過去には、『ONE PIECE』の作者、尾田栄一郎も出演している)、ミュージシャンのゲストが多いのもFMならでは。例えば、あいみょん、King Gnuの井口理、米津玄師、GReeeeNのHIDEといった面々。それぞれ、ジブリファンを公言していたり、番組のヘビーリスナーだったりしたことで、鈴木との対談が実現。米津やGReeeeNは、テレビにほとんど出ないが、そもそも、GReeeeNは顔出しもしていない。そんなミュージシャンとの対談が聴けるのもラジオならではと言っていいだろう。
鈴木の飄々とした語り口と懐の深さ、そして、れんが屋という特別な空間だからこそ、ゲストも本音を吐露しやすいのかも知れない。番組は、初回から最新回まで、ポッドキャストで聴けるので、是非チェックしていただきたい。

■『いいこと、聴いた』(パーソナリティ・秋元康) TOKYO FM(JFN系列37局) 日曜日 13:00~13:55

続いては、作詞家・秋元康がパーソナリティを務めるラジオ番組。48グループや坂道シリーズといったアイドルグループのプロデュース。ドラマ『あなたの番です』、『真犯人フラグ』、『赤いナースコール』、『差出人は、誰ですか?』など、次々と新しい企画を生み出しているヒットメーカー。そんな様々なエンタメでヒットを生み出し続けている秋元が次に注目したのが、ラジオ番組だ。
もともと、ラジオの放送作家からキャリアをスタートさせた秋元が、今ではラジオパーソナリティとして番組に出演している。

「全国にはまだまだ様々な素材が眠っている。JFN37のラジオ局の力を合わせて、地元で光る、人、モノ、コト、食べ物の情報を集め、その素材をプロデュース。そして、全国のラジオリスナーに再提示する装置を創ろう!」というのが番組のコンセプト。ラジオ番組を装置と位置付けるあたりが何とも秋元らしく、そして、JFNという全国ネットの強みも最大限に活かした発想だ。全国のリスナーから寄せられた、地元の人しか知らないお宝情報を元に、番組が独自に取材をし、いずれは秋元のプロデュースによる全国展開を考えている。


番組はまだ2年目を迎えたばかりだが、秋元自らが取材拒否のカレー屋を訪れた様子をオンエアしたり、番組で紹介した米を販売したり、地方の希少な食材を使ったレシピや食リポをYouTubeにUPしたりするなど、食通の秋元ならではの「食」に関するプロジェクトが先行して進んでいる印象だが、今後は、地元のスター的な「人」をフックアップし、秋元がプロデュースしていく展開にも期待したいところ。地方創生を担うラジオ番組としても注目していただきたい。

■『村上RADIO』(パーソナリティ・村上春樹) TOKYO FM(JFN系列38局) 毎月最終日曜日 19:00~19:55 ※一部、放送時間が異なる局もあり

最後は、小説家・村上春樹がパーソナリティを務める番組、その名も『村上RADIO』。2018年8月にスタートし、現在は、毎月最終日曜日に放送中だ。メディアにあまり出ないどころか、これまでは肉声でのインタビューも受けたことがなかったという村上春樹。世界中で愛されている村上が、パーソナリティとして自身の声で思いを綴り、ディレクターとして選曲もしている。
しかも、毎回テーマに応じて、自身が持つレコードから選曲して流すというこだわりよう。番組ホームページには、これまでのオンエア楽曲リストが、村上のコメント付きでアーカイブされているので、是非ともそのこだわりを感じて欲しい。

番組はこれまで40回以上放送されているが、今年3月、『戦争をやめさせるための音楽』というテーマで放送された回が、ギャラクシー賞ラジオ部門で優秀賞を受賞。さらに、日本民間放送連盟賞 東京地区審査番組部門でラジオエンターテイメント番組1位も獲得している。混沌とした今の時代に、村上春樹が伝えたい言葉と届けたい音楽が、小説やエッセイではなく、ラジオという形で毎月1回、発信され続けているのだ。これは是非ファンならずともタイムリーに受け止めてみて欲しい。

このように、ラジオでは、偉大で意外な大物が自身のレギュラー番組を持ち、毎週(毎月)、自身の言葉で喋っている。今回の3番組は、北海道から沖縄まで全国のラジオ局で放送中だ。是非、改めて、地元ラジオ局の番組表をくまなくチェックしてみて欲しい。もしかしたら、他にもあなたにとっての意外なラジオスターが見つかるかも知れないから。

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