“顔面凶器”“Vシネマの帝王”などの異名を持ち、映画、ドラマ、バラエティと、多彩なフィールドで活躍。昨年6月に還暦を迎えた俳優・小沢仁志が、“還暦記念映画”として主演はもちろん、製作総指揮を務め、自らオリジナル脚本も手掛けた『BAD CITY』が2023年1月20日(金)より全国公開になる。
これまで300本を超える作品に出演してきた彼の集大成ともいえる本作へかける思いを存分に語ってもらった(前後編の後編)。

【前編はこちら】“Vシネマの帝王” 小沢仁志が還暦目前に映画制作「コンプライアンス無視、パワハラの塊みたいな映画」

【写真】かたせ梨乃、リリー・フランキーも出演、最凶アクション映画『BAD CITY』場面写真

『BAD CITY』は全編に渡って壮絶なアクションシーンが繰り広げられる。監督・アクション監督を兼任したのは、数々のドラマや映画で、アクション監督、アクション・コーディネーター、スタントを務めた園村健介だ。デビュー作『HYDRA』(2019)は海外映画祭でも評価され、アクション監督を務めた『ベイビーわるきゅーれ』(2021)はロングランヒットとなり、続編も公開される。

「事前にみんなで稽古をして、アクションチームから『こんな感じで』っていうのを聞いてたから、ある程度は手が分かった状態で現場に入った。でも(自身アクション監督やアクション・コーディネーターもやっている)TAK∴との対決シーンは、監督が『(殺陣なしの)フリーで』って言いやがるんだ。(海外で”スピードスター”とも呼ばれているアクション俳優のTAK∴に)俺もついてくのがやっとだったよ」

小沢演じる虎田と共に特捜班チームを組むメンバーに坂ノ上茜、勝矢、三元雅芸。壮絶な肉弾戦を繰り広げる面々には、山口祥行、波岡一喜本宮泰風など、アクションに定評のある俳優陣が名を連ねる。

「CGなし、スタントなしだからごまかしなんて効かない。みんなマジだよ。しかもカットを細かく割らない上に、一発で終わらず、10テイクとか平気でやる。『キープでもう1回』とか言って、何個キープするんだよというぐらいやるんだ。
特捜班チームが中心になって120人ぐらいの敵と戦う後半のシーンは、俺、三元、坂ノ上がいろいろやってから、最後のほうで波岡も加わるけど、俺たちの立ち回りを見て燃えてたんだろうね。波岡が1発目からぶっ飛ばしてるのが伝わってくるんだ。そういう共鳴がいいのよ。

こんなノリの日本映画は、ここ最近ないよね。だって撮れないもん。たとえば『ハイロー(HiGH&LOW)』だってスケールはデカいし、アクションやカメラワークも頑張ってるよ。でも、この映画は50代の役者が中心で、若くて40代。20代は坂ノ上ぐらいだから。おっさんがこんだけやってるけど、お前ら(若手)はできんの? って問いかけでもあるよね」

唯一の20代である坂ノ上茜は、オーディションで選ばれた。

「坂ノ上は頑張ったと思うよ。坂ノ上は、『昔からアクションがやりたくて、これをチャンスだと思って来ました』って言ってたからね。実際、途中で怪我もしたんだけど、一言も弱音を吐かなかったから、たいしたもんだよ」

ラストの山口祥行との立ち回りでは、まるで格闘技の試合を観ているような、全身全霊の死闘を繰り広げる。


「俺とヤマ(山口)の立ち回りは年末の『RIZIN』を見てるようなもんだよ(笑)。俺らが若い頃にやっていたアクションではなく、ちゃんと今のアクションの手法に変わっているんだ。殺陣師がつける殺陣に、こういうアクションはなかったよ。だから、めっちゃ面白くてね。いい年こいたおっさんが、新しいオモチャを与えられてめっちゃワクワクしてるような感覚で、楽しくてしょうがない訳。ヤマは俺と戦うシーンで、午前中の動きはいいんだけど、午後になると顔が真っ青になって、ほぼ死にかけてた(笑)。だってお互いにマジで殺しに行ってるからね。段取りはあってないようなもの。俺がマウントを取って、ヤマの顔面を殴る時に、床にこぶしをぶつけて骨折したんだから。ヤマだって殺らなきゃ殺られると思うから、本気で殴ってくる。今のテレビ局主導の映画だったら、絶対に止められるよ」

撮影期間も断酒を続け、ストイックな生活で肉体と精神を研ぎ澄ませた。

「やっぱ酒を飲むと筋肉が緩むし、動きのキレが落ちる。
でも鍛え過ぎて体を小さくしたくなかったので、トレーニングはするけど、キレ重視で瞬発力を大切にした。撮影で福岡にいた時は、毎朝3時からジムに行って、一旦ホテルに帰ってシャワーを浴びて、6時に出発みたいな。撮影が終わった後も、帰り道に半身浴して、そのまま寝るのが唯一の楽しみ。撮影に入ると、そのことしか考えられなくなるからね。大体、福岡に行くと、九州小沢会の奴らと朝まで飲むんだけど、撮影が入るとピタッと飲まなくなる。なんて極端なんだと。あいつら(九州小沢会)は遊びに行きたいのに、『親父(小沢)は行かねえのかよ』と(笑)。何せ打ち上げで初めて中州に出たからね」

韓国マフィアと陰で手を組む巨大財閥の会長を太々しく演じるリリー・フランキーとの共演は念願だった。

「もともとリリーさんとは知り合いだけど、役者としてのリリー・フランキーに興味があって。温和な役柄からヤクザまで何でもできるから、ずっと共演したいって言ってたんだ。主演映画で言うと、『万引き家族』(2018)はもちろん、『その日、カレーライスができるまで』(2021)も良かったし、ずるいよな。俺がカレーを作る男の役なんてやったら、『ジャガイモかと思ったら指だった』みたいな感じでホラーになっちゃうよ(笑)」

クレイジーケンバンドが主題歌「こわもて」を提供したのも、小沢のリクエストだった。


「俺はクレイジーケンバンドが大好きで、いつもコンサートに行かせてもらってる。(横山)剣さんには『いつか俺の主演作で、剣さんに書き下ろしの主題歌を歌ってもらうのが夢なんです』って言ってたの。ようやく、その時が来たので、『作ってくれませんか』って頼んだら快諾で。台本が完成した時点で送って、できた曲のタイトルが『こわもて』だから、まんまやないかと(笑)」

映画の公開を控えて、役者・小沢仁志としてではなく、製作総指揮を担当したOZAWAとしての責任を感じている。

「おかげさまで中国を始め、すでに幾つかの国で『BAD CITY』は売れてるんだ。製作が決まった時点で、『マーケットは世界で』と考えていたから狙い通りではある。ただ海外で公開できたとしても、日本でこけたら駄目なんだ。次に作るとなった時に『こけたのに無理だろう』って言われてしまう。だから、ちゃんと劇場を埋めなきゃいけない。そのためには北海道から九州まである小沢会総動員で宣伝するよ。オファーを受けて出演した映画だったら、役者としてベストを尽くすけど、そこまで興行のことは意識しない。

でも、こうやって企画から参加してるってことは、どうやって興行を成立させるか、出資した人たちに、ちゃんと返せるかも意識しなきゃいけない。
映画を見てもらって、『最高だよ』って言ってもらっても、こけたら終わりじゃん。後に続かない。これは絶対に勝たなきゃいけない戦いなんだよ。もちろん内容にも自信はある。俺が信用しているアクションのできる役者やスタッフと組んで、最高のエンターテイメントを作ったから、俺の魂の熱さを感じてほしいね」
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