乃木坂46が24日(金)、横浜アリーナで、23rdシングル『Sing Out!』リリース記念アンダーライブを開催した。

全員センターや演劇的なアプローチなど、ライブのたびに様々な演出に挑戦してきた乃木坂46アンダーライブ。
しかし、通算101回目となる今回の23rdシングル発売記念アンダーライブはギミック(仕掛け)のないイベントとなった。

横浜アリーナにコツコツコツと足音が響くと、そこに10人の気高い戦士たちが凛とした姿を現す。1曲目は『滑走路』。「恋愛への助走」を「滑走路」に見立てた歌詞だが、「滑走路なんか必要ない今すぐに空へ飛び立てるよ」というフレーズには、10人がすでに自立した存在であることを表しているようにも感じる。

なかでもセンター寺田蘭世はその歌詞を体現したような存在感を見せつける。希望と絶望を繰り返しながら、自らの弱さと向き合うたびに強くなった彼女の心は、その眼差しに表れている。

さらに寺田センターの『その女』、『ブランコ』が続き、彼女の歴史とアンダーライブの歴史が重なっていく。その眼差しの強さは、3期生の中村麗乃向井葉月吉田綾乃クリスティーにも伝播。センターステージは情念の炎で包まれた。

MC後は卒業を控える伊藤かりん斉藤優里が合流。自身の“代表曲”『13日の金曜日』を歌った斉藤は早くも号泣(伊藤かりんと斉藤優里は舞台裏で10人のパフォーマンスを観ている時点で泣いていた)。

ユニットコーナーでは、1曲目に和田まあや、中村麗乃、山崎怜奈が『Against』をパフォーマンス。
和田と山崎のダンススキルの高さは周知されているが、中村の成長には驚かされた。自身の手足の長さを持て余し気味だったが、見事にコントロールできるようになり、普段の“ゆるふわ”とは違う“逞しさ”を表現していたのだ。

伊藤かりん、伊藤純奈は『釣り堀』を歌う。伊藤かりんと伊藤純奈が所属する仲良しグループ「スイカ」の一員・西野七瀬のソロ曲だ。これまで伊藤かりんと伊藤純奈は『誰かは味方』や『私のために誰かのために』といった曲を歌声で魅了してきた。しかし、今回ばかりは2人とも涙があふれてしまう。完璧な状態で歌うことがプロなのかもしれないが、ファンが観たいのは「かりんと純奈のお歌」だから、これでいいのだ。

『心のモノローグ』では中田花奈が圧巻のダンス。派手な動きはなくても、手の動きと顔の角度や表情だけで曲の奥行きを表現しているのだ。少ない技で試合を魅せる横浜出身のプロレスラーの鈴木みのるのように、もはやアイドルの“達人”の域に入っている。

そして、『2度目のキスから』は“かわいい”を追求してきた斉藤優里にとって念願のパフォーマンスだったことだろう。

MCを挟んで、樋口日奈がセンターで歌った『ここにいる理由』をはじめとした情念を感じさせるアンダー曲を連続で激しく歌い踊る。
22曲目、伊藤かりんがセンターで歌った曲は『涙がまだ悲しみだった頃』。伊藤かりんやメンバーの涙はもちろん、伊藤かりんが“娘”佐々木琴子と向き合い笑い合う瞬間が印象に残るシーンになった。

“なみころ”で思い出すのはアンダーライブセカンドシーズン(2014年10月5日~19日)。本格的に始動したアンダーライブだが、怪我人が続出して終盤までメンバーが全員揃うことはなかった。しかし、それぞれが補い合って苦境を乗り越えたことでメンバーの絆が深まった。

セカンドシーズンの主役のひとりが伊藤寧々。公演のたびに“なみころ”をセンターの伊藤寧々を囲む形で歌った。10月19日の千秋楽で「ねねころを送る会」が開催され、初めてアンダーライブでグループから送り出されたメンバーとなった伊藤寧々は「乃木坂46のスターティングメンバーとして3年間活動できたことは私の誇りです」と口にした。

本編最後、寺田は「私は生まれ変わってもまた乃木坂46として活動して、寺田蘭世として生きたいと思えるくらい、ファンのみなさんも、ここにいるメンバーのみんなも、私の宝物で誇りです」と語った。

アンコールで伊藤かりんが選んだ曲は、自身が乃木坂オタクだった時代の“推し”である高山一実がセンターを務める『泣いたっていいじゃないか?』。

伊藤かりんは高山一実の魅力を「アイドルでも顔を隠して奥ゆかしく笑う子がいるじゃないですか。でも、一実さんは思いっきりさらけ出しちゃう。
私は『メンバーと友達になりたい』という感覚が強い厄介オタクだったので、一実さんの『友達になれるかも』と思わせる魅力に惹かれたんです」(『月刊エンタメ』4月号)と語っていたが、アイドルになった伊藤かりんも高山一実のような親しみやすい存在になっていた。

そして、伊藤かりんが最後の挨拶として読んだ手紙の後半にはこう書かれていた。「私がアンダーにこだわるのは、アンダーライブが大好きだったから。アンダーライブに出たかったから。だから私は、自分の通ってきた道になんの悔いもないし、自分をかわいそうだと思いません。自分のアイドル人生を誇りに思っています」

乃木坂46というグループはもちろん、アンダーライブという場は彼女たちの“誇り”なのだ。だからこそ、伊藤寧々も永島聖羅能條愛未川後陽菜もアンダーライブを卒業の場に選んだのかもしれない。

その“誇り”を守るために奮闘していたのが伊藤かりんだった。アンダーライブ中部シリーズから合流した3期生に“正しい”振りを伝授するのだが、向井葉月がなかなか覚えられない。「『Mステ』の楽屋でもずーっと鏡の前で一緒に踊って。彼女の熱意や踊り方は好きなので、振りだけ正しくしてほしかったんです」(『OVERTURE』015)

2期生までは南流石をはじめとして振り付けした先生が手の角度や指の広げ方まで細かく教えていたが、3期生はダンサーの先生が、過去の乃木坂46の映像を観たうえで教えるために微妙な違いが出てしまうことがあるという。伊藤かりんは「乃木坂46の“振りコピ集団”になってほしくない」と嫌われる勇気を持って3期生の指導に当たるのだった。


今回のアンダーライブ、中村麗乃、向井葉月、吉田綾乃クリスティーの3期生から感じたのは「乃木坂46のパフォーマンス」だった。乃木坂46の1期生オーディションに落ちたことで乃木坂46のオタクになるところから始まった伊藤かりんのアイドル人生は、乃木坂46の魂を伝えきったことで幕を閉じたのだ。

▽『乃木坂46 23rdシングル「Sing Out!」発売記念アンダーライブ』セットリスト
出演:伊藤かりん、伊藤純奈、斉藤優里、佐々木琴子、寺田蘭世、中田花奈、中村麗乃、樋口日奈、向井葉月、山崎怜奈、吉田綾乃クリスティー、和田まあや(50音順)

Overture
01. 滑走路
02. その女
03. ブランコ
04. シークレットグラフィティー
05. 春のメロディー
06. 自惚れビーチ
07. 13日の金曜日
08. Against(和田・山崎・中村)
09. 釣り堀(伊藤かりん・伊藤純奈)
10. 心のモノローグ(中田・寺田・吉田)
11. 2度目のキスから(斉藤・樋口・佐々木・向井)
12. アンダー
13. あの日 僕は咄嗟に嘘をついた
14. ここにいる理由
15. 嫉妬の権利
16. 日常
17. 狼に口笛を
18. 転がった鐘を鳴らせ!
19. ハウス!
20. 扇風機
21. ダンケシェーン
22. 涙がまだ悲しみだった頃
23. 誰よりそばにいたい
EN1. 生まれたままで
EN2. ロマンスのスタート
EN3. 左胸の勇気
EN4. 泣いたっていいじゃないか?
EN5. 乃木坂の詩
WEN 僕だけの光
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