【写真】元タカラジェンヌ、早花まこ撮りおろしカット【10点】
──『すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア』でのインタビューは、早花さんが退団後の進路について先輩方にお話を聞かれたことがきっかけでスタートしたそうですが、webでの連載という形で掲載されるのにはどういう経緯があったのでしょうか?
早花 宝塚はやはりちょっと特殊な世界というか、限られた世界の中にいるので、セカンドキャリアがどうなるかというイメージを掴むのには、先輩にお話を聞くのが一番なんですね。私自身その経験があり、もっといろんな方のお話を聞いてみたいと思っていたところ、この本の編集の方とご縁がありましてお知り合いになったんです。そのときに「こういうものを書いてみたい」とお伝えして書かせていただくことになりました。
お話を聞いてみたい方はたくさんいらっしゃったんですけど、今回は“セカンドキャリア”ということに焦点を当て、宝塚の舞台で個性を出して活躍されて、その上で今セカンドキャリアに挑戦している方、結果というよりも挑戦の仕方が気になった方にお声かけさせていただきました。
──実際にお話を聞く中で印象に残ったこと、セカンドキャリアというテーマでお話を聞いた意味があったと感じたことはありますか?
早花 印象的だったのはこれをやりたいから次に行きますという方もいらっしゃれば、迷われたり、いろんな道を探って探って今に至る方、あとは本当に何も決めずに卒業して目の前のことに集中していたら道が開けてきた方など千差万別で、いろんな生き方があるんだなということ。お話を聞いた9人のみなさんは、そのときの「やってみよう」という気持ちをすごく強く持たれていて、ちょっと迷いがあっても、目の前が開けたときに飛び込む力や自分から一歩踏み出す力があったから、この9つのセカンドキャリアを確立されているんだなと感じました。
──現役時代のお話の中で驚いたのが、小道具や髪飾りを出演されるみなさんが作っていらっしゃったり、お稽古や本番以外でもやらなきゃいけないことがとても多いことでした。今、新しいジャンルでのお仕事をされている中で、宝塚での経験が生きていると感じることはありますか?
早花 舞台ってとにかく時間がかかりますし、簡単にできない、はしょれないもので、髪飾りにしたって時間をかければかけるほど納得のいくものができるし、お稽古も終わりがないんですよね。文章も同じだと思うんですけど、お話を聞いてよくしようと思ったら話し合ったり考えたりして、ゴールがないじゃないですか。でも私はそういうところでの苦労を当たり前だと思っているといいますか、いいものを作ろうと思ったら時間がかかるものだから、「これだけやったのに」ということはあまり思わないんです。今研究されているような、早く・たくさん・効率よくというものとはちょっと程遠いんですが(笑)。
──確かに、今はいかに早く、簡単にできるかみたいなことを考えることが多いです。
早花 そうですよね。もちろんそれが大事なときもありますし、うまく使えたらいいんですけど……。それこそ録音した音源を聞き直してふふって笑いながら夜が更けていって、編集さんをずっと待たせてしまう、みたいな時間があって(笑)。でも私は、それがあったから原稿が深まったと信じたいんです。
例えば、お稽古でもいっぱい練習したところが演出の都合で変更になっちゃうことがたまにあるんですよ。あとはみんなで振り付けを練習したのに、先生の「なんか違うから変更」のひと言で変わったり。でもそこを深めたから次に与えられたものがもっと分かりやすくできたり、団結力が生まれることを体感しているので、時間をかけて準備して、それが結果実らなかったとしても、無駄だと思わない力みたいなのはついたのかなと思います。
──宝塚でも、そういう急な変更があるんですね。
早花 あります。でもそれは物を作る上ではよくあることで、結果いいものができればいいんです。もちろん練習した時間や考えた時間を振り返って損したなとか、「あの人ひどいな」と思うこともできますが、それを自分の中でプラスにできたらその方が楽しいし、充実感があるからよかったなと思えるのは得かもしれません。そこで落ち込んだりがっかりするんじゃなくて、楽しい気持ちでいられた方がいいなと思いますね。
──今回早花さんがお話を聞かれたOGのみなさんは技術の向上や見せ方へのこだわりを持っていながら、すごくユーモアのある方ばかりだなと感じたのですが、それも今お話いただいた考え方に繋がっているように思います。
早花 そうですね。やはり演劇は工夫次第でどんどん面白くなるものなので、どこかで面白いことを見つけたり、笑えることを見つけていく力はあると思います。今回お話を聞いた9人全員、パワフルで本当に面白かったし、気付いたらほとんどが宴会女王なんですよ(笑)。娘役さんの2人は宴会の話が出てないと思うんですけど、すごく忙しかったというだけで、アフロのかつらを被ってと言われたらすぐに被る人たちなんです(笑)。宝塚の人は自然と面白いことをしだしていつも笑っている印象がありますし、大変なときでも笑いに変える力があります。
(取材・文/東海林その子)
▽早花まこ(さはな・まこ)
元宝塚歌劇団娘役。2002年に入団し、2020年の退団まで雪組に所属した。劇団の機関誌「歌劇」のコーナー執筆を8年にわたって務め、鋭くも愛のある観察眼と豊かな文章表現でファンの人気を集めた。『すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア―』は初めての著作。