この週末、何を観よう……。今週公開の作品の中から、映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。
おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、4月29 (金)より公開されている『私、オルガ・ヘプナロヴァー』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】『私、オルガ・ヘプナロヴァー』場面写真【8点】

〇ストーリー
1973年、22歳のオルガはチェコの首都であるプラハの中心地で、路面電車を待つ群衆の間へトラックで突っ込む。この事故で8人が死亡、12人が負傷する。オルガは逮捕後も全く反省の色も見せず、チェコスロバキア最後の女性死刑囚として絞首刑に処された。犯行前、オルガは新聞社に犯行声明文を送った。自分の行為は、多くの人々から受けた虐待に対する復讐であり、社会に罰を与えたと示す。自らを「性的障害者」と呼ぶオルガは、酒とタバコに溺れ、女たちと次々、肌を重ねる。しかし、苦悩と疎外感を抱えたままの精神状態は、ヤスリで削られていくかのように悪化の一途をたどる…。

〇おすすめポイント
社会主義時代のチェコスロバキアを震撼させたスプリー・キラーとして知られるオルガ・ヘプナロヴァーとはどういった人物だったのか、なぜ事件を起こしたのかを少女時代から死刑になるまでを通して探求する物語。

作家でインタビュアーとしても知られるロマン・ツィーレクによって2001年に執筆されたオルガの伝記「Oprátka za osm mrtvých」は、当時のオルガの発言や裁判記録などに基づいて執筆されており、今作はこれを原作としているが、忘れてはならないのは、今作はあくまでオルガの視点、主張から語られていることだ。


未来や社会のシステムに不安や疑念を抱く、思春期の少女の心情のように描かれているが、それはオルガが若い女性だったからだという他者からの目線も反映されているように思える。

だからこそ、今作で描かれていること、語られていることが真実なのかはわからない……。

人はときに理解できない存在に対して、無理矢理にも行為に理由をつけようとする。オルガに対しても「なぜ事件を起こしたのか、それは生い立ちに問題があったのではないか」と理由を見出そうとし、心情に寄り添おうとするが、そのたびに突き放されるような作りになっており、付かず離れずといった、ある程度の距離感を保っているからこそ、他人を理解することがいかに難しいということを思い知らされる。

またビジュアル的なことを言うと、全編モノクロで描かれていることもあって、オルガを演じるミハリナ・オルシャニスカがタバコをふかすシーンや当時のチェコスロバキアの風景など、フォトジェニックなシーンの数々には目を惹かれる。

〇作品情報
監督・脚本: トマーシュ・ヴァインレプ、ペトル・カズダ
原作:ロマン・ツィーレク
出演者:ミハリナ・オルシャニスカ、マリカ・ソポスカー、クラーラ・メリーシコヴァー、マルチン・ペフラート、マルタ・マズレクほか
2016年/チェコ・ポーランド・スロバキア・フランス/105分
B&W/5.1ch/1:1.85/DCP/原題:Já, Olga Hepnarová
日本語字幕:上條葉月 字幕監修:ペトル・ホリー
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ・サクセション
配給:クレプスキュール フィルム
公式HP: http://olga.crepuscule-films.com/
2023年4月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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