4月15日に行われた東京女子プロレスの後楽園ホール大会で、SKE48の青木詩織が、メンバー兼レスラーとして活躍する荒井優希の試合のレフェリーを務め、レフェリーデビューを果たした。さらに解説席には谷真理佳の姿が…。
アイドルとプロレスが生んだ思わぬ化学変化を、元週刊プロレス記者の小島和宏がレポートする(前後編の前編)。

【写真】レフェリーデビューを果たした青木詩織とレスラー荒井優希【40点】

SKE48の荒井優希が東京女子プロレスのリングに参戦するようになって、もうすぐ2年が経とうとしている。

いまでは彼女がリングに立っていることが、すっかり当たり前の風景になった。これはプロレスラーとしては、とてもいいことではあるが、アイドル兼プロレスラーとしては、ちょっともったいないかな、とも思う。もっとも常にセンセーショナルな話題ばかりを求めるのも酷な話。これがデビュー2周年を迎える直前の絶妙なバランスなのかもしれない。


ただ、ちょっと面白い現象も起きている。荒井優希とプロレスが生んだ化学変化が、SKE48内部にいい形で波及しはじめているのだ。

4.15後楽園ホール大会では、SKE48の青木詩織がリングデビュー。といってもプロレスラーになったわけではない。レフェリーとしてデビューして荒井優希の試合を裁く、というお話である。

特段、スペシャルなことでないように捉えていたが、試合前からネットニュースでは話題に。
当日、後楽園ホールでは彼女の愛称である「おしりん」と書かれたプラカードを手にしたファンを目撃。レフェリーを応援? かつてプロレス会場で「ジョー樋口」と書かれたプラカードを試合中に掲げる光景があっただろうか? 客を呼べるレフェリー、まさに前代未聞である。

ただ彼女はプロレスに詳しいわけでもなく、レフェリー修行も前日に公開特訓をおこなったのみ。つまりはまったくの素人。下手をすると試合をぶち壊しかねない。

いきなり試合開始のゴングを要求するアクションを忘れるケアレスミス(その間にスリーカウントが入ったが、これは無効に)。
大丈夫? という空気が流れるが、とにかく青木詩織が一生懸命、レフェリングしようという姿勢が伝わってくるから、観客は「レフェリー、がんばれ!」という目線になっていく。この感覚、なかなか面白かった。

試合後、荒井優希が「とにかく所作が綺麗だった」と評したが、まさにそこに尽きる。日々の劇場公演で培った技術なのか、とにかくひとつひとつの動きがしなやかで美しい。だから、試合の邪魔にならない。これはレフェリーの資質として、かなり優れたものを持っている。


ひとつひとつ丁寧にやるので、思わね展開も。カウント2で止まった場合、本部席と客席に「2です」と報告する。これは非常に正しいのだが、きっちりとやりすぎて、試合は次の展開になっており、フォールの体勢に入っていることに気づかないシーンもチラホラ。これには客席も「志村、うしろ、うしろ!」とばかりに注意する。声出しがOKとなったからこその光景だ。

そして真面目ゆえに反則に厳しい。
プロレスではカウント4までなら反則が認められている。そのあたりは見る側もどこかアバウトになっているのだが、青木詩織は高速でカウントを数え、細かい反則行為を繰り返すハイパーミサヲに対して「次にやったら反則負けにしますよ!」と警告。まるで風紀委員のような立ち居振舞いに客席は沸いた。

すっかりプロレスに慣れきってしまったファンに「本当のルールはこうですよね?」と喚起する役割も青木詩織は担っていたのか? 対戦前、荒井優希と仲がいいことから「贔屓するのでは?」と疑念も抱かれたが、しっかりと公正に裁いた青木詩織(結果は荒井優希チームの負け)に、プロレスファンから絶賛の拍手が贈られた。確実に青木詩織がプロレスファンに「見つかった」瞬間。フツーのレフェリーシャツがとってもキュートに映るし、なんなら青木詩織モデルのレフェリーシャツが出たら、欲しがるファンもいるのでは? いつ、どこで着るかは別として。


大歓声を受けた青木詩織はまんざらでもない様子で「また機会があれば、ぜひやりたい。そのときにはパワーアップしたレフェリングをします!」。取り囲んだ報道陣は「パワーアップしたレフェリングってなんだ?」と疑念を抱いたが、その答え合わせも含めて、再登場が楽しみである。

これだけだったら波及効果とは言いがたいが、さらに面白いのはこの試合の解説をSKE48の谷真理佳が務めていたことである。

アイドルが解説席に陣取ると、少なからずファンから不評の声が出るのだが、過去に何回か登場している谷に対してはそういう声は皆無に近い。最近では荒井優希のビッグマッチの解説が谷じゃないと「えっ、なんで?」と残念がる声が飛び交うほど、彼女はプロレスファンに受け入れられている。

「いやぁ~、普通に考えたらあり得ないことなんですよ。SKE48の仲間が2人もリングに立っていて、その試合を私が解説しているって……でも東京女子プロレスさんとSKE48の相性がいいんでしょうね。当たり前のことのように受け入れている自分がいました」

解説を終えた谷真理佳はそう語ってくれた。そこに荒井優希と青木詩織が合流して、まるでライブ後のSKE48の楽屋のようなムードが広がったが、これ、もっと広がっていったら面白いよね、という話になった。

たしかにプロレスラーになるのはハードルが高いし、時間もかかるけれど、レフェリーや解説者は完全にウェルカムだった。ならばレスラー以外の役割をすべてSKE48のメンバーが担う特別興行があってもいいのではないか? 

たくさんの人に見つかる可能性があるステージとしてリングが機能すれば、荒井優希のもたらした波及効果はまだまだ広がっていきそうな気がする。

荒井優希もこうした明るく楽しい試合のほうが、きっとのびのびとやれるだろう。赤井沙希との「令和のAA砲」で保持していたタッグ王座から陥落したことで、闘いの枠は逆にグッと広がってきている。

だが、荒井優希にはそんな気持ちは毛頭なさそうなのである。それを誰よりも強く感じとっていたのは、あのアジャコングだった(後編へつづく)。

【後編はこちら】SKE48荒井優希がアジャコングと一騎打ちで覚醒前夜「私の中でいままでにない感情が生まれました」