【別カット2点】高クオリティで話題、富田扮する南海キャンディーズ・しずちゃん
富田は福島県いわき市出身、2000年生まれ。東日本大震災がきっかけで故郷の福島を離れた後、芸能事務所に所属し数々のエキストラを経験していく。
転機が訪れたのは、2015年に公開された『ソロモンの偽証』の浅井松子役への抜擢だ。いじめられっ子という設定を受け、彼女は役作りのために約2カ月で15キロも増量。当時まだ中学生だったのにもかかわらず、体型を大きく変える徹底ぶりが話題となっていた。
その後も彼女の役づくりへの姿勢は変わらない。
映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』では、ぽっちゃりでありながらも、キレキレのチアダンスを披露する東多恵子役を熱演。ダンスがハード過ぎて痩せていってしまうため、体型を維持すべくご飯を大量に食べていたという。
そうしたエピソードからも彼女の“役”に対する並々ならぬ思い入れが感じ取れる。もはやストイックな役作りは、“富田望生”という女優を形作る大きな要因なのだろう。
一般層にもその名が広がり始めたきっかけは、恐らく2018年にNetflixで配信された『宇宙を駆けるよだか』海根然子役の影響が大きい。学校中の羨望を集める美少女・小日向あゆみが、とある事件をきっかけに同じクラスメイトの然子と体が入れ替わってしまうサスペンス&ラブストーリーだ。
根暗で自身の容姿にコンプレックスを抱く然子と、明るい性格のあゆみという二つのキャラクターを何気ない仕草や声色の使い方で見事に演じ分け、新世代の演技派女優として大きなインパクトを残したのだ。
また、大ブレイクのきっかけとなったドラマ『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)では、教師に監禁される人質の一人・魚住華を演じている。
実際に家に帰れない状況へのリアリティを増すため、目の下にクマを作り、ベッドではなく固い所に寝る生活を続けて役作りを行っていたそうだ。多少無茶とも言えるような役作りが功を奏し、演技に対する情熱がこちら側にも伝わってくる。
『だが、情熱はある』でも身長が足りないため、厚底を履いて演技をしているというが、彼女の「しずちゃんらしさ」はそうした外見上の変化だけではない。相方の山ちゃんを見る目つきや声の抑揚で威圧感を与え、初期の「南海キャンディーズ」しずちゃんにあった独特のもったりしたスケール感をトレースしているのだ。
ただ似せるのではなく、どうすれば本質的な「らしさ」に近づけるか、その勘所が異様に優れているのだろう。
また、今の映像業界には若手女優における名バイプレーヤーはあまり数が多くない。だからこそ注目が集まるのも早いと言えるが、今後は主役として富田がキャスティングされる日も近いだろう。
似たようなルートを辿った女優として思いつくのが伊藤沙莉だ。
多様なキャラクター性や背景が求められる現代で、作風に応じて様々な人物を見事に演じ分けられるバイプレーヤーは、もはや映像界で一番の出世ルートとなっているのかもしれない。
2023年は富田にとってさらなる飛躍の年になりそうだ。彼女の演技力と、ストイックな役作りを武器にこれからも視聴者を魅了し続けることだろう。
富田望生というカメレオン女優の凄みは、彼女の持つ無尽蔵の“情熱”から来ているのだから。
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