元SDN48メンバーで現在はフリーライターとして活躍する大木亜希子、5月にSKE48を卒業し、現在はフリーでタレント活動をする松村香織。大木の著書『アイドル、やめました。
 AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)の書評を松村がwebサイト「ENTAME next」に寄稿したことをきっかけに2人の初対談が実現。同学年ながら、まったく違う道を通ってアイドルとなり、卒業後もまったく違うキャリアを積む2人が考える元アイドルとしての生き方とは?(前後編の後編)

──松村さんはファンから「SKE48時代よりも表舞台で見なくなった」みたいなことを言われたら気になりますか?

松村 本当だったら、もっとテレビに出なきゃってあるけど、フリーでテレビに出るのは難しいし、本当に出たいんだったら事務所に入ってます。私はそこじゃなくていいやと。ずっと自分がやっていた競馬があるんだったら、それを軸とした活動をやりたいし、それ以外にも今はありがたいことにボートレースや競輪のお話もいただいているんです。ギャンブルのお仕事をやりたくない人もいると思うんですけど、私は声をかけてくださるならやれるだけやろうと。「ギャンブルばっかだね」って言われようが、「何が悪いの? オールマイティーギャンブラーで良くない?」って思います。

大木 松村さんは好きなことが目の前に現れて、今は仕事を展開しているじゃないですか。ただ中には「好きなことが見つからない」「でもアイドルを卒業しちゃった」、もしくは内部にいるけど「自分の思ったように人気が出ない」「これからどうなるんだろう」って悩んでいる子もいるじゃないですか。私もそちら側だったので共感しますし、だからこそアイドルの人生について考えるんですよね。

松村 いろんなタイプの子がいますからね。グループ内にも意識の高い子、低い子がいますし、本当に低い子は自ずと辞めていきます。私はダラダラとグループにいちゃったし、ひょっとしたら、環境が良いから抜け出す勇気が出なかったのかもしれない。


──一般の20代女性は、仕事や自己実現と同時に、結婚について考えることもあると思います。そのあたりはいかがですか?

大木 結婚問題は考えますよね。

松村 もちろんちゃんと相手が見つかって、結婚するのは素敵だと思うんです。ただ結婚がゴールではないですからね。そういう意味では学歴のことを考えることもあります。私は最終学歴が高卒なんですが、いつか結婚できたとして、もしも離婚して1人になって正社員雇用で就職したいってなったときに苦労すると思うんです。

大木 SDN48はメンバー全員が二十歳以上だったので、学歴が決定した上で入ってきてたので事情も違うんですよね。

松村 年齢的に高校に進学するかどうか悩んでいるメンバーもいて、そういう子には進学を勧めていました。通信制もいいけど、普通に学校に通うのをお勧めしてました。たとえ通信制でも、学校に行く日もあるとか。そういう場で、メンバー以外の普通の友達を作ったほうがいいんですよ。ただ私は高校を卒業した後にSKE48のメンバーになったけど、SKE48メンバーになった後に高校生になるのはまた違うと思うんです。
絶対に「アイドルきたー」みたいな感じになるじゃないですか。そうなったときに、私のように学校の行事を普通に楽しめる環境になれるか分からないから、強くは勧めなかったです。

大木 井の中の蛙じゃないですけど、いくらグループの居心地が良くても、その状況に慣れ過ぎるのは良くないですよね。

松村 普通の子たちと過ごすのも大切ですよね。私の場合は、高校の友達からアイドルになったパターンだったのでフラットに付き合ってくれたんです。でもSKE48のメンバーとして学校に通うと、絶対に陰でコソコソ言われるんですよ。あんまり友達ができなかったり、女子同士だったら嫉妬の対象になったり。それがストレスになる子もいるじゃないですか。確かに普通の女の子として学生生活を過ごすのは難しいし、SKE48のコミュニティもいいけど、外の関係性も大事にしておかないと、社会の仕組みも含めて何も知らないことが多いから卒業した後が大変ですよ。

──アイドル以外の友達と話していると、アイドルとしての自分とのずれは感じますか?

松村 メンバーと話していると、結局は仕事の話になるんですよね。私の場合は年下メンバーしかいなかったから、くだらないことでケタケタ笑っているか、お仕事面でアドバイスをすることが多かったです。そこで自分の悩みを話すことはなかったですね。
でも地元の友達と話をすると、会社とか、結婚とか、子育てとかの話をする訳じゃないですか。その子たちの話を聞くと、芸能以外で頑張っている同年代の考え方も知っておかなきゃなって思います。じゃないと地元の同世代の友達が何をしているのか一切分からないじゃないですか。普通に働いている人、等身大の子たちと接触がなかったら、自分が特殊な環境にいることすらも気付かないと思うので、普通の友達は必要ですよね。

大木 確かにアイドルってコミュニティは特殊なんですけど、『アイドル、やめました。』で取材させていただいた菅なな子ちゃんは、偏差値43からSKE48の活動を並行しながら猛勉強をして、受験時には偏差値69になって国立大学に受かったんですよね。彼女に話を聞いたら、わりと飄々としていて、クラスメイトも理解があって、個人の性格によるところも大きいと思うんです。高校在学中にアイドルを辞めて大学進学する子もいるし。AKB48グループには、いろんな選択をする子が同時にいるから刺激になりますよね。

──一方で大所帯のグループにいると、その中での競争も激しいからメンタルを保つのがですよね。

松村 仲間だけど個々の戦いでもあり、常に選ばれる努力をしないといけないですからね。自分たちを一つの商品として考えたら、結局、握手会にしても総選挙にしても営業成績が悪ければそりゃあねって話で。
売り上げの悪い人は上に行けない。でも、私がアイドルになる前に働いていたキャバクラやメイドカフェと違って、SKE48では総選挙以外で自分たちが目に見える数字がないんですよ。果たして自分がどれぐらいの位置にいるのかが分からないんです。それが私は嫌でした。数字を見て、「ここを改善したら伸びるかも」って対策を知りたかったんですよね。唯一、分かるのが総選挙だったから、私はそこに本当に1年間、情熱をかけていました。2015年の総選挙で13位を獲るまでは、「行けー! 抜かすぞ! 総選挙最高!」って追う楽しさでいっぱいでした。

大木 すごく情熱的!

松村 総選挙で結果を出せば、「選抜の子より上でしょ」って言えますからね。だから総選挙は楽しかったんですけど、13位になって追われる立場になったら、急に「怖い!」って思うようになって(笑)。そこで上にいる人には、上にいる人なりの悩みもあるんだなって気付いたんです。ただ私はそれを知っているけど、何も知らないで来た子たちは、「何で〇〇ちゃんは推されているのに、私は推されてないの?」ってフラストレーションが溜まってきちゃうし、反対にそれをバネに上を目指そうって子もいます。その葛藤が良いのか悪いのかは分からないですけど。


──学校では絶対に経験できないことですからね。

松村 なので小学生や中学生でAKB48に入ったら性格も変わるだろうし、グループに入らなかったら違う性格だった子もいるんだろうなって思うんです。小学校で入った子なんて、しっかりしすぎているというか、自分を客観視できて達観しているんです。

大木 メンバー同士の競争で何回も自尊心が崩壊しているからこそ、いい意味で諦めもついて、自分のポジションがしっかり見えているんでしょうね。

松村 もちろん最初に自分の意志で「SKE48に入りたい」って選択はしているけど、まだ子どもですからね。

大木 「アイドルをやりたい」って気持ちを持って本当に入れた子たちって、その目標を持つこと自体は素晴らしいのですが、限られた人間関係で繰り広げられている組織しか知らなくて、芸能以外の選択肢を知らないまま年齢を重ねていってしまうケースがあると思うんです。でも、『アイドル、やめました。』で取材した方たちの話を聞いて、いろんな選択肢があって、職業の自由を幅広くとらえてもいいんじゃないかなって思いました。人気がないと自尊心が崩壊するし、人気のある子なりの葛藤もあるし、自分の中の悶々とした感情と戦っているので、アイドル志の子たちには一概にアイドルはお勧めできないですね。ネガティブな意味ではなく、どこを目指しているのか立ち止まって考えてから、アイドルの世界に入っていいと思います。

▽松村香織
1990年1月17日生まれ、埼玉県出身。2009年にSKE48 第3期オーディションに合格。
Google+の動画番組で当確を現し、2012年にはAKB48の「ぐぐたす選抜」に選ばれる。自身の薄毛やメイド喫茶勤務の過去をネタにする破天荒キャラで人気に。2013年にはソロ曲『マツムラブ!』、須田亜香里とのユニット曲『ここで一発』を発表。2015年の総選挙では13位にランクインし初のAKB48シングル選抜メンバーとなる。2019年5月2日にSKE48を卒業。以降は芸能事務所に所属せずフリーとして活動している。Twitter:@kaotan_0117

▽大木亜希子
1989年8月18日生まれ、福島県出身。2005年、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』で女優デビュー。2010年に2期生としてSDN48に加入。2011年にはAKB48グループの一員として『NHK紅白歌合戦』に出場。2012年にSDN48を卒業。2015年に「NEWSY(しらべぇ編集部)」に入社。PR記事作成を担当する。2018年、フリーライターとして独立。Twitter:@akiko_twins
松村香織&大木亜希子 AKB48グループOG初対談「アイドル卒業後をどう生きるか」

▽『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』(大木亜希子著/宝島社刊)
元SDN48メンバーで現在はフリーライターとして活動する大木亜希子が、AKB48グループ卒業生ら8人の今を取材したノンフィクション。登場するのは佐藤すみれ(クリエイター・元AKB48/SKE48)、河野早紀(ラジオ局社員・元NMB48)、赤澤萌乃(アパレル販売員・元NMB48)、藤本美月(保育士・元SKE48)、菅なな子(広告代理店社員・元SKE48)、山田麻莉奈(声優・元HKT48)、三ツ井裕美(振付師、元SDN48)、小栗絵里加(バーテンダー、元AKBカフェっ娘)の8人。
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