決して後味は良くない。もっと言えば“胸糞悪い”とさえ表現できるかもしれない。
だが、それでも『ブラック・ミラー』はどこかクセになる作品だ。

【写真】後味の悪さがクセになる『ブラック・ミラー』の場面カット

1話完結のオムニバス形式で見られるイギリスのドラマ作品だが、『Netflix』が2015年に番組を購入してから日本でも知られるように。SF作品でありながら、ダークに描き、現代を風刺して視聴者に考えるきっかけを与えてくれる。ときには近未来が舞台となり、「本当にこうなってしまうのではないか」という恐怖さえもたらす。

だが、その物語性は専門家の間でも高い評価を受けており、過去にはアメリカのプライムタイム・エミー賞なども受賞。今回は、その中でも特におすすめしたいエピソード5つを紹介していきたい。


まず挙げたいのがエピソード1として配信されている「国家(シーズン1)」。イギリス政府を相手取った犯人が王室の娘を誘拐し、首相を相手に様々な要求をしていくというストーリーだ。その“要求”の過激さで視聴者を引き付けつつ、国民の反応をシニカルに描くという物語は、そのまま『ブラック・ミラー』のダークさ加減を表現している。正直に言えば、オチを見て気持ちいい気分にはならないかもしれないが、考えさせられることは間違いない。

2つ目に挙げたい「人生の軌跡のすべて(シーズン1)」も『ブラック・ミラー』らしさ全開であるが、こちらは近未来が舞台でよりSF色が強い作品だ。人類に記憶チップが埋め込まれ、記憶を管理し、互いに共有することができるようになっている。
だが、それゆえに隠したい秘密もつまびらかにされ、登場人物たちは男女間の恋愛で疑心暗鬼となっていく。ある種、非現実的な世界でありながら、「このテクノロジーがあればそうなるよな」という必然性を感じることができる良質な作品だ。

シーズン3のエピソード1である「ランク社会」はより現代に対して風刺的な作品に仕上がっている。この世界では、人々がすべて数値によってランキング化されており、SNSでそのランクを上げようと躍起になる。評価によって受けられるサービスも変わるため、「映え」を必要以上に気にしなければならない。まさに現代のSNS文化を風刺しており、「言いたいことも言えなくなっているのではないか?」と作品を通して突きつけてる。
だからこそ、結末は痛快で、『ブラック・ミラー』らしくありながら、気持ちよく見終えることができる作品だ。

一方、『ブラック・ミラー』らしさはやや薄いながらも、評価の高いエピソードが「サン・ジュニペロ(シーズン3)」。テクノロジーが発達した世界の中、サン・ジュニペロは仮想世界で、人々は死後も魂となってそこに永住できる。これまで紹介したエピソードではテクノロジーの負の側面や後味の悪さが際立ってきたが、今回は美しい恋愛があくまでも主役だ。同時に生命についての考え方を問う作品ともなっており、これまでの『ブラック・ミラー』に見慣れてきた視聴者にはいい意味でのサプライズを与えてくれる。

そして、最後が6月に配信スタートとなったシーズン6から「メイジー・デイ」を選出。
物語はスクープを狙うパパラッチが主役で、スキャンダルを撮られた俳優が自殺するというスタートとなっており、いかにも現代のメディアに疑問を呈する作品かと思わす。しかし、実際はよりホラー要素が強く、そこには近未来のテクノロジーも特には出てこない。だからこそ、これまでのブラック・ミラーファンは予想を裏切られる結末となっており、ネタバレ厳禁のエピソードとなっている。

『ブラック・ミラー』は映画ほどの重厚な物語となっているが、どのエピソードも基本的には1時間前後。エピソードによる“読後感”はそれぞれ様々だが、いずれも示唆に富んでおり、何かについて考えるきっかけを与えてくれるはずだ。

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