結成30周年、生半可な数字ではない。「あたりまえ体操」のヒットでも知られ、売れっ子芸人からも「劇場番長」と呼ばれるコンビ芸人・COWCOW
神髄であるスベり知らずのネタをひっさげ、来る10月8日(日)今池ガスホールでの名古屋公演を皮切りに、全国4都市4公演のメモリアルな全国ライブツアーを開催する彼らに、ライブに向けた思いと芸人としての矜持を聞いた。(前後編の前編)

【写真】結成30周年、五十路目前のCOWCOW

善し 正直に言うと、単独ライブは毎年やっているので特別な感情というのは…(苦笑)。でもまあ区切りではあるので、過去のネタも含めて、皆さんが見たいものも含めてできたらな、と思ってます。やっぱり「周年だから外せない!」という気持ちはあるので。

多田健二(以下、多田) 08年からずっと毎年単独ライブは続けてきて、例年、コントが多めになってたんです。でも今年は、「THE SCOND~漫才トーナメント~」(フジテレビ系)もあったので、漫才をちょっと多めにやろうかな、と。

23年はCOWCOWにとって、久々のチャレンジの年でもあった。2月から予選が行われ、5月に決勝トーナメントが開催された、芸歴16年以上の新設賞レース「THE SCOND」で、COWCOWはエントリー160組の中からノックアウトステージに見事進出。つまり漫才のネタをブラッシュアップし続けてきた上半期だったのだ。同大会はエントリー資格があるものの、早期敗退のリスクも鑑みて不参加を選ぶ芸人も少なくなかったなか、参加の理由は何だったのか。

多田 実際、僕は最初は出たくない、という感じやったんです。でも相方が「出よう!」と。
色々話し合いもして、ギリギリまで粘って結局出る、という感じでした。

善し「出ない理由」がなかったんですよね。賞レースのためにお笑いをやってるわけじゃないですけど、劇場は常に継続してて、そのおかげで今は本番で必要な3本分のネタもある。あとは、「M-1グランプリ」の出場資格が無くなって何年かしてから、「いつかこういう(ベテランが出られる)大会はあるだろうな」と思っていたので、「ついに来たか」という気持ちもありましたし。

多田 僕としては何回も挑戦する大会ではないな、とは思うので、出るならちゃんと終わりを決めてやろうか、という感じです。もちろん、大会が始まったことで各劇場が芸歴の長い芸人さんをターゲットにイベントをやってくれたりして、その年代の芸人さんの活性化にはなっているので、すごくありがたいなとは思っています。

参加芸人が限られる理由の一つには、通常10分前後の持ちネタを6分という「SECOND仕様」に仕上げるのが、素人が考えるよりも労力・負担がかかる、という点が挙げられる。

多田 まず、このネタで、と絞るのに、何本も劇場でふるいにかけます。そのうえで、一気に無駄な部分を削ぎ落したり、ちょっとでも間が空いたら「ここのボケどうする?」みたいに詰め込んだり。何本か用意して、全部磨き上げていく作業でした。さらに、普通の寄席でやるときに、その6分のネタがいいかどうか、という問題もあるんです。ブラッシュアップされてない、ちょっと緩い部分があったほうが、僕らの芸風的には良かったりもするので。
だから「THE SCOND」のために用意したのは、完全にTHE SCOND用、って感じですね。

でもまあ、色んな後輩やお客さんから「頑張ってください」「応援してます」って言ってもらえたり、挑戦している期間の何とも言いがたいワクワク感がありましたし、しんどさも、ある程度勝ち上がったから味わえるものでもありましたから、「ありがたいと思ってやるしかないな」と。もちろん、普段も寄席でかなりの緊張感を持ってやらせてもらっているけど、それとは違う緊張や充実感があったのは間違いないですね。

先述のとおり「劇場番長」と称されるCOWCOW。多田の言葉からは、寄席にかけるプライドが感じられる。「THE SCOND」に出場を決めたのも、寄席のために常に新ネタを作り続けてきたという30年間の下地があったからに他ならない。しかし逆に30年続けてきたという事は、COWCOWを飛び越えてテレビで売れる後輩たちを数多く見送ってきた、という事でもある。そこに焦りはなかったのか。

善し 僕は後輩を気にするのって、若手の時じゃないかと思いますね。スタートが僕らより1年、2年とあとやったのに、ある時「あいつらには追い抜かれたな」っていう瞬間があるんですよ。若手時代はそれがズシっと来てました。ただ、30年もやると、ものすごく慣れてきます(笑)。


多田 僕はそういう後輩達のことを「スーパー後輩芸人」って言うてます(苦笑)。ただ芸歴もある分、そういう後輩と寄席で一緒になっても、僕らがトリになることが多いんですよ。これはプレッシャーですね(笑)。人気者後輩が最先端の笑いをやったあと、一番最後に僕らが出て来て、お客さんに「今日の寄席、おもしろかったなあ」って思ってもらって締めないといけないんで。

以前は、芸歴を重ねたらもっと風格が出て、堂々と舞台に出られるイメージがあったと多田は言う。しかし…。

多田 実際は年々緊張が大きくなるというか(苦笑)。僕らが一番、若手よりあたふたしてるかもしれません。でも、後輩のネタを見て惑わされるわけにもいかないじゃないですか。だから開き直りというか、「自分らは自分らでしかない」と念じて言い聞かせてますね。かと言って、トリじゃなければそれはそれで落ち込んだりもするんですよ(笑)。ホンマに「どうしたいねん」ってかんじですけど、でもやりがいはあるんで。
「今の旬の若手、人気の若手じゃないけど、俺らは俺らで10分間、きっちりやらせてもらいますよ」っていうのが、今の僕らなんでしょうね。

【後編はこちら】結成30周年、五十路目前のCOWCOWが見つめるこの先「目的は継続すること」
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