2023年7月20日で、ついに20周年を迎えた新潟を拠点とするアイドル、Negicco。メンバーが全員結婚、出産を経験し、ステージでは圧巻のパフォーマンスを見せる。
そんな彼女たちを長年にわたり追い続けている、元週刊プロレス記者であり、ももいろクローバーZにまつわる数々の著書でおなじみの小島和宏記者。長いコロナ禍を経て5年ぶりにNegiccoを取材して見えてきたのは、“変わらない”3人の空気だった。8月13日に行われたNegicco 20th Anniversary Live東京公演の模様とともに3人の歩みを振り返る(前後編の後編)。

【前編はこちら】全員結婚&出産を経験したアイドル界の道先案内人Negicco、活動歴20年の偉業

【写真】Negicco 20th Anniversary Live東京公演の様子

8月13日。

その日、東京の天気はかなり不安定で昼には豪雨が叩きつけたりもした。天気が落ち着いたタイミングで渋谷駅を出発したのたが、途中でザーッとひと雨、降られた。
なんだか波瀾万丈だったNegiccoの道のりのようだな、と思いながら傘を開くと、会場に着くころにはピタッと雨は止んでいた。

「おーっ! これは、これは。何年ぶりですかねぇ~」

会場に入ると笑顔で迎え入れてくれたのはNegiccoの育ての親である“熊さん”こと熊倉会長。受付には長年、現場を回してきた雪田氏の姿が。この2人がいたら、たとえ渋谷のど真ん中であっても、そこはもう新潟である! 新潟出身でもないのに感じてしまうお盆の帰省っぽさ。

なによりもメンバーのことを第一に考えてしまう運営は、ビジネスとしては間違っているのかもしれないが、このやり方じゃなかったらファンもついてきてはくれなかったし、きっと、今日のこの日を迎えることもできなかっただろう。
感慨深い。

じつは、ちょっとだけ心配があった。

今回、2000人キャパの会場で20周年を迎えることができるのは素晴らしいことなのだが、はたして客席は埋まるのだろうか? コロナ禍を経て、どのアイドルも動員数が読みにくくなっている。5年前と変わらぬキャパは不安材料ではあった。

結果、超満員。

前日にNHKで彼女たちを追ったドキュメンタリー番組が放送されたことも追い風になったようだ。


もうひとつ、気になっていたことがあった。この日のグッズとして「お久しぶりです・お元気ですか」とプリントされたタオルが販売されていた。メンバーカラー別に売られていたのだが、ロゴが顔写真がプリントされているわけでもなく、非常に地味な商品。なんだろう、これ? と思っていたのだが、メンバーがステージに登場した瞬間、謎が解けた。多くの観客がタオルを掲げている……なるほど、それだけでコール・アンド・レスポンスになっているのか! 

まだマスクを着用していなくてはいけないし、そもそも声に色はない。その点、このタオルなら誰に向かってアピールしているのか一目瞭然。
なにげに実用性の高い逸品だった。客席が埋まっているからこそ、そういうこともよく見えてくる。

ステージからはちょこっとデベソのような小さなステージが客席へと伸びていた。おそらく2~3メートルぐらいの大きさなのだが、一歩、メンバーが踏み出すだけで、客席との距離がとてつもなく縮まったように見える。そうだよな、ここ数年、この一歩を踏み出すことに日本中が躊躇してきたんだもんな。メンバーの表情が感無量なことも相まって、もう胸がいっぱいになる。


本当にちょっとしたことで泣きそうになっていたのだが、最初のMCコーナーで一気に空気が緩んだ。20周年のハレの場だというのに、リーダーのNao☆はいきなりトイレの話をしだしたのだ。

これが尾を引いてか、他のMCコーナーでも、ちょいちょいトイレの話が……まぁ、ある意味、このユルさと意味不明さは通常営業なのだが「はじめましてのお客さんを置いてけぼりにしない」というこのコンサートにかける意気込みを聞いていたので、大丈夫か、これ? と苦笑してしまった(10月8日にはCSテレ朝チャンネルでこの日の模様が放送されるが、はたしてトークはどれだけ流してもらえるのだろうか?)。

とはいえ、いつかはこれが通常営業だとバレるわけで、初見からユルユルでいいのかもしれない。かしこまっていたら、らしくない。

そんなこんなでゆったりと進んでいくライブ。
セットリストには新曲もたっぷりと組み込まれ、単なるノスタルジーや集大成では終わらない構成となっていた。

20年分の過去の名作群を含めて、それがNegiccoの「いま」。新曲はこれから先の「未来』を照らしている。

結婚して、出産してもアイドルとして生きていく。

Negiccoとして、生きていく。 これが3人の意思表示。それを喜んで受け入れてくれたファンと一緒に、彼女たちの歴史は21年目からも続いていく。

ファンとしては、毎週のようにライブがあって、いつでもパフォーマンスを楽しめるような環境がベターなのだろうが、1年に1回でいいから、こうやってゆったりとステージを満喫できる機会があれば、それでいい。そんな新しいアイドルとしての生き方を、これから5年でも10年でも見守り続けていきたい。

コンサートのクライマックスは会場が一体となってのラインダンス。『圧倒的なスタイル』が流れると、みんなで踊るのは長年のお約束というか、もはや名物なのだが、隣のお客さんと肩を組んで、という行為自体、コロナ禍では不可能だったし、一席空けのソーシャルディスタンス仕様なら、そもそも間に誰もいない。

そんな制限も大幅に緩和された2023年の夏、20周年を迎えたNegiccoがみんなの前に戻ってきてくれた悦びを全身で現すかのような2000人でのラインダンス。常連さんも一見さんも、みんな笑顔で踊っている姿を見たら、Negiccoが20年やってきたことは間違いじゃなかったと素直に思えたし、どんなに躓いても、遠回りをしても、けっして歩みを止めないことが正解なんだな、と思った。

ローカルアイドルという、まだ誰も正解を知らないジャンルを20年前に歩み始めたパイオニアが自分たちの力でたどりついた「大正解」。こんなにも幸せで、こんなにも泣ける空間、久々に立ち会った気がする。

エンドロールが流れ、場内が大きな拍手に包まれると、ステージ上のスクリーンにはメンバーと熊さんの「家族の肖像」写真が写し出された。そうか。アイドルとして成人式を迎えたんだな、と気づき、また胸が熱くなる。そして、そこに書きこまれた直筆メッセージに「また会おうね」「また集まりましょう」という文言を見つけて、ほっこりした。

いつか、また、会える。

新しいアイドルの常識は、これから3人によって、どんどん更新されていくことだろう。