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なぜ今回、私が堀江貴文さんの著書『捨て本』の感想文のオファーをいただけたのか、キッカケや経緯は分かりませんが、私はこの縁に心から感謝しています。なぜなら間違いなく私は最もこの本を読むべき人間だと読み始めてすぐに感じたからです。序章はほとんど私のことを言っているのではないかと思ったほどです。
読みはじめたときは、てっきり断捨離の気持ち良さを書いた本なのかと思っていました。でも、「ああ、部屋の掃除しないとな」なんて考えていたのも束の間、その分かりやすい話の展開にグッと引き寄せられ、読み進めるごとに自分の中にこびりついていた思考がベリベリと剥がされていきました。
これまでの人生で一生懸命、自分の思うベストな道を歩いてきたつもりだったのに……。私の思考は実は私の行動範囲を狭め、判断能力を鈍らせていたものだったという現実に直面させられて、ショックを受けました。
皮膚が剥がれ、まだヒリヒリしているところに容赦なく堀江さんの言葉がグサグサ刺さってくる。私にとってこの本はそんな感覚でした。絶対に自分に言い訳できなくなる、恐ろしくて最高の荒治療本に出会ってしまいました。
はじめは読み進めながら心に響く言葉に線を引かせてもらっていましたが、だんだんペンを手に取る時間も惜しくなり、ページの端を折るようになり、結局、心に響いた言葉の数だけ本のシルエットがいびつになってしまいました。
序章から衝撃的です。
「ほとんどのモノは『大切』という幻想のパッケージにくるまれた不用品」
「持っているモノにまつわる、人間関係や安心感に、見捨てられるのが怖いだけなんじゃないか」
グサグサ刺さる感じは伝わったでしょうか?
中でも強烈だったのは、思い出の品についての話。堀江さんは思い出の品のことを「場所を奪われるだけでなく『こんなこともあったな……』と思い出す時間まで奪われるので、タチが悪い」とまで言ってしまうのです。何もそこま言わなくてもいいのに……とも言いたくなりましたが、正論なので聞き入れるしかなくて、笑えてきました。
私は普段から荷物が多く、美容院で預ける際に「恥ずかしい!」と思ってしまうほど重いカバンを持ち歩いています。部屋で探し物をしようものなら、いつの間にか引き出しから出てきた思い出の品にテンションが上がり、探し物のことなんか忘れて1~2時間が平気で過ぎています。
私は10年間のアイドル活動でファンから届いた何万通もの手紙を全て保管しています。保管するためだけの倉庫を実家の庭に置いているほどです。しかも倉庫にしまう前に、手紙が誰から来たか、住んでいる地域、職業などのパーソナルな情報を全てノートに書き写します。顧客名簿のようなものでしょうか。
全てアナログで管理しているため、それにかけた手間と時間は我ながら異常だと思います。
堀江さんとは何度かテレビ番組で共演させてもらっていますが、一番印象的だった出来事は、サンデージャポンの生放送中のことです。
カルロス・ゴーン被告の保釈映像で、清掃員に扮した被告を見て私が「ふざけているのかと思いました」と言った際、間髪入れず堀江さんに「逮捕される側の気持ち、分かんのか」と噛み付かれたのです。
もちろん分かるわけがありません。なぜなら逮捕されたことがないのだから。理解しようと寄り添う努力をしようとしても限界があります。
しかし不思議なことに、今でも私の中であのやり取りは忘れられない記憶として残っています(きっと堀江さんは覚えてないけど……)。その時は「この人はなんて理不尽なことを生放送で言うんだ!」と、とにかく怖いイメージでした。でも、時が経てば経つほど、そのイメージは変わっていきました。もしかしたら人の弱さを知っている人なのかもしれないと。
怖かったけど、きっといい人。
私のお気に入りの章は「幸せの単位」。堀江さんが幸せを感じた時の描写が可愛くて読みながら顔がほころんでしまいました。ガッツリ刑務所の話なのでそれをお気に入りというのはなんだか申し訳ない気もしますが……。
きっとこの本に書いてある「捨てる思考」を身につけたのは、刑務所に入った経験が大きいのではないかと思います。だから、私はその捨てることの良さを100%体感することが出来るはずがありません。だってやっぱり私は刑務所に入ったことがないから(笑)。
でも、その私が体験したことのない状況に置かれながらも、一つひとつに自分の意思を持って行動してきた人の話を聞けることはとても貴重なことです。しかも収監の経験だけではなく、日々多くのモノをインプットしている人の思考に触れることができる読書体験は、1人の人間との出会い以上に価値があることかもしれないと思いました。
本の中の堀江さんと意見が噛み合うと妙に嬉しかったのも印象的でした。「誰かのせい」という章の「他人のせいにすること。
この本を読んでいると、どんどん自分に言い訳ができなくなっていきます。でもだからこそ、自分に言い訳のできない、悔いのない生き方を見つけられると思いました。
私は人の顔色を伺いがちです。それはアイドルが人気商売だからというわけではなく、幼稚園の頃の「はないちもんめ」が大きく影響しています。誰も私の名前を呼んでくれなかったことがトラウマで、人に選ばれないことが怖くてたまらなくなったのです。
でも、なんとしても人に選ばれたいという執着心が強かったおかげでAKB48グループという大所帯のアイドルグループでも生き抜いてこれたのだとも思います。「ブスが理由で大勢の女子たちに負けてたまるか」と意地になってアイドルを続けてきたからこそ得られたものもあり、その経験を活かして選ばれる人になるための思考術などを書いた本まで出版したほどの人間です。
人付き合いのために多少なりとも武装をする私からすると、堀江さんは身軽過ぎて思わず二度見してしまうほどです。でもその身軽さが堀江さんにとっての武装なのだと思うし、ブレていなくてかっこいいなと思います。
私はこの本を読んで、堀江さんのことが勝手に好きになりました。
引き剥がされる感覚だったのが、いつの間にか荷物を降ろしてもらっている感覚になっていたことに感動しています。きっと心の断捨離ができたのだと思います。
これから先の未来で、自分の中の正しいと思うことに自信が持てなくなったとき、この本の中の堀江さんが心強い味方となって背中を押してくれそうな気がしています。
最高の読書タイムで、最高の出会いでした。ありがとうございました!
▽須田亜香里
すだ・あかり。1991年10月31日生まれ、SKE48チームEリーダー。2009年SKE48 3期生オーディションに合格。2010年SKE48 4thシングル『1!2!3!4! ヨロシク!』にシングル表題曲選抜メンバーに初選出。2018年のAKB48世界選抜総選挙では自己最高を更新する2位に。
▽『捨て本』
著者:堀江貴文
発売元:徳間書店
定価:1,380円(税別)
発売日:7月30日