著名なミュージシャンの訃報が相次いでいる2023年。ハロプロファンからもその死を惜しまれるミュージシャンが世を去った。
彼らが残してくれた実績と楽曲の奥深さを振り返ってみたい。

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11月12日に61歳で世を去ったKAN。その死は音楽界を越えて惜しまれたが、ハロプロファンにとっても痛切な訃報だった。KANは代表曲の『愛は勝つ』のほかにも、30年以上ポップスのヒットメーカーであり、ハロプロと同じアップフロントグループの「先輩」として愛されていた。バラードからディスコチューンまで提供楽曲も数多い。
 
に関するニュース">モーニング娘。から卒業してソロに転じた後藤真希に提供した『スッピンと涙。』(2005)はしっとりとしたバラードで、安倍なつみ℃-ute矢島舞美のデュエット曲『16歳の恋なんて』は、ストリングスを目立たせたキラキラの青春ソングに仕上がった。作詞も担ったこの曲では、同じ事務所の森高千里の『私がオバさんになっても』をもじったようなパートもあり、遊び心もしっかり作詞に活かされている。
 
KANのお茶目な感性そのままに生まれたポップソングも、ハロプロのカバーを経て愛されている。それが『桜ナイトフィーバー』(2015)と『ポップミュージック』(2020)である。
 

前者は桜が主人公になって花見に浮かれる人々を風刺したディスコチューンをこぶしファクトリーがカバーし、KANの原曲からコミカルかつ華やいだ雰囲気になって、春の「ハロコン」で何度も歌われるハロプロ定番の春曲に。『ポップミュージック』はKAN自身が体験してきた80年代ディスコミュージックを現代にリメイクしたような1曲だが、これをJuice=Juiceがカバー。

Juice=Juice版ではMVで70年代風の衣装や鳩の頭のかぶりものをメンバーが着ていたり、『YOUNG MAN (Y.M.C.A.)』のイントロを活かすといった遊び要素が面白く、当時を知らない若いアイドルがレトロにフィーチャーした曲を歌うこと自体も耳目を集めた。ハロプロの中でも実力派グループのJuice=Juiceも、この曲のおかげで親しみやすさが増したようだ。

しかも、カバー曲を聴いた後でKANが歌う原曲を聴くと、彼の老成したボーカルがミディアムテンポなメロディにマッチして、ほどよくオシャレな抜け感すらある。21年にKANのピアノバラード『エキストラ』を譜久村聖がカバーしているが、KANと譜久村、どちらも叶わぬ恋に身を焦がす主人公の心情を情感豊かに歌い上げた。
アーティストとしても作家としても、現役を貫いたKANの音楽歴だった。

KANと、11月6日に死去した三浦徳子の作曲・作詞のコンビでたくさんの楽曲をリリースしたのが真野恵里菜だ。インディーズ時代の『ラッキーオーラ』(2008)で初めてKAN・三浦のコンビがタッグを組むと、ほぼ全ての楽曲で三浦が作詞を担った。KANも真野のデビュー初期を中心に多彩な曲を送り出した。『乙女の祈り』『はじめての経験』『乙女の祈り』と初期の楽曲をこの2人が担当したことで真野のアイドル路線が決定づけられる。

グループアイドルが主流の時代にあえてソロで活動した真野の、古風で正統派なアイドル性と三浦との相性は抜群で、浮世離れした曲のタイトルにたがわぬキラキラとした歌詞を提供していった。
例えば3rdシングルの『世界はサマー・パーティ』(2009)は世界の名所をちりばめて、アイドルソングらしい非日常感を演出してくれている。
 
1970年代からJポップの第一線で活動し続けてみきた三浦。郷ひろみ松田聖子田原俊彦早見優沢田研二…と綺羅星のごときアーティストへヒット曲を書き上げてきた実績は別稿に譲るが、真野に限らず、ハロプロのアーティストだけでも20年近くにわたってかかわりがあった。
 
初期の作詞曲になる飯田圭織のソロ曲『エーゲ海に抱かれて』(2004)は1980年代の松田聖子を思わせるエキゾチックな世界観の曲になり、やはりレトロなアイドル性のカントリー・ガールズには歌謡曲風の『ブギウギLOVE』(2016)『ためらいサマータイム』あ82015)などを作詞する。
 
℃-uteへの『何故 人は争うんだろう?』(2016)や、アンジュルムへの『七転び八起き』(2015)などは、社会で疲れたリスナーが元気をもらえる人生賛歌になり、と思えばBEYOOOOONDSの『恋愛奉行』(2019)のようなコミカルソングも作詞。嗣永桃子の数少ないソロ曲『キアオラ・グラシャス・ありがと』(Buono!ミニアルバムに収録)では、各国語の「ありがとう」を列挙してハッピーオーラを作り出す言葉遊びも。
演者の個性に合わせつつ、KAN、つんく♂、それに星部ショウや中島卓偉ら、どんな世代の作曲家と組んでも「エモい」曲に仕上げてみせる。半世紀近く活躍してきたヒットメーカーぶりをハロプロでも発揮してみせた。
 
三浦が生前最後に手がけたアップフロントグループでの楽曲はモーニング娘。を卒業した佐藤優樹のソロデビューシングル『Ding Dong/ロマンティック』通常版Cに収録の『プラスティック・ジェネレーション』(作曲は星部ショウ)。シティポップをリバイバルしたサウンドながら「喉が乾けばペットボトルの水が爽やかな世界へ連れていくよ」という歌い出しで、昭和ではなく現代の音楽なのだと実感させられる。2023年の都会の夜の空気感を歌詞で描き出し、三浦が時代に合わせて感性をブラッシュアップしてきたことをうかがわる1曲だ。

 
また10月8日に74歳で世を去った谷村新司も、かつて松浦亜弥に「風信子(ヒヤシンス)」を作詞・作曲で提供した。谷村が得意なカントリーミュージック風のナンバーで、松浦がミディアム路線も開拓していく契機にもなったような、彼女の活動中期の印象的なシングルだ。もともとアップフロントグループ自体が、1970年代に「アリス」ほかフォークソングのアーティストが在籍していたヤングジャパングループを源流としていて、音楽面の土壌はきわめて豊かなのだ。

Jポップのヒットメーカーたちも、多彩な良曲をハロプロに残してくれ、相次ぐ訃報にはつんく♂や楽曲をもらったアーティストもSNSで弔いの言葉をつづった。彼らプロフェッショナルが本気で作り上げた作品のおかげで、ファンもアイドルも奥深いハロプロの音楽を楽しませてもらっている。改めて哀悼と感謝をささげたい。

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