趣里が主演を務めるNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(総合・月曜~土曜8時ほか)。物語の中で強いインパクトを放ち続けているのが、小林小夜(富田望生)だ。
時にはトラブルメーカーになりながらも、スズ子の付き人として日々奮闘する小夜。彼女の存在は、物語に一体何をもたらそうとしているのだろうか。

【写真】物語の中で強いインパクトを放つ小夜(富田望生)とスズ子(趣里)

第42回でいきなりスズ子の楽屋に飛び込み「オレを弟子にしてくだせえ!」と言い放った小夜。スズ子への熱い思いを東北弁で語り、半ば無理やりスズ子の下宿先に居候することになる。この小夜の破天荒な姿と突発的な行動に、どこか見覚えを感じた視聴者もいたのではないだろうか。そう、受験日を間違えたにも関わらず「せめて歌を聴いてほしい」と強行突破でUSKに滑り込んだ幼き日のスズ子の姿である。


このように、スズ子と小夜は似ているところがあるとたびたび感じる。小夜はこれまで、思ったことをすぐに口に出し、遠慮のない態度で視聴者の反感を買ったこともあっただろう。しかし、子ども時代のスズ子も同じく、不意な一言で親友・タイ子(子役・清水胡桃)を傷つけてしまったり、USKでもいらぬ事を言って先輩を怒らせていたのだ。また、スズ子は実母と離れ血の繋がりのない花田家で育ったが、小夜もまた親に捨てられ12歳で奉公に出されたりと、出生の複雑さも共通している。

「昔のスズ子と似ている」という視点で小夜を見ると、小夜がスズ子の”別パターンの人生”を歩んでいるように思えてくる。愛人の子として生まれたスズ子が、あの時ツヤ(水川あさみ)に引き取られることなくキヌ(中越典子)の元で暮らしていたら…と想像してみてほしい。
親戚の家をたらい回しにされ、奉公先でも厄介者扱いされ、もちろんUSKの舞台を夢見ることなどできない。どこかでたまたま耳にした茨木りつ子(菊地凛子)の歌に惚れ込み、弟子入りを申し込む…といった人生があったかもしれないと思うのだ。

スズ子は運よく花田家という温かな家族の元で育ち、USKの仲間と切磋琢磨し、自分の才能を認めてくれる羽鳥善一(草彅剛)という存在に出会えた。早くに母親を亡くし、戦争で弟を亡くし…と決して平坦な人生ではないが、それすらも”福来スズ子”として芸の肥しにできているのである。だが小夜は、家族もおらず、友達もおらず、自分を認めてくれる存在にも出会えなかった。他人を疑ったり、過度に自分を卑下しているのは、”義理と人情”を知らずに生きてきたからだろう。
だからこそ、梅吉(柳葉敏郎)のように自分を歓迎してくれる存在に、必要以上に心を開いてしまったのだ。

小夜がただの”付き人”というキャラクターならば、おとなしく控えめな田舎娘として描くこともできたはずだろう。もしくは、小夜の過去を詳しく描き、視聴者が感情移入しやすい人物にすることもできたかもしれない。小夜に何か複雑な過去があることは伝わってくるが、直接的には描かれていないがために、視聴者はセリフの端々から想像することしかできない。苦労が伝わりにくいことで、彼女に対してマイナスな印象を持つ視聴者もいるのだろう。

『ブギウギ』では、このように”視聴者の想像に委ねる”といった場面がしばしば見受けらる。
例えば、スズ子が”花田家の本当の子ではない”と知り香川から帰ってきてから、東京行きを決めるまでの3年間は全く描かれていない。ツヤも何かを悟っていた表情をしていたにも関わらず、3年の間にどんな会話があったのかは映し出されなかった。

『ブギウギ』には、現実世界で他人の過去や気持ちを全て知ることができないように、物語でも全てを無理に描かないという”リアル”さがある。小夜という人物をどう受け取り、どう解釈するか。こういう人物だと初めから提示するのではなく、想像させる。相手に対する想像力は何よりもの愛だ。
小夜は、そんな”愛の本質”を遠回しに伝えている人物なのではないだろうか。

スズ子の”別の人生”とも言える道を歩む小夜という存在のおかげで、スズ子がこれまで受け取ってきた愛の大きさ、それによる精神面の成長が際立っていく。そして、スズ子がいつの間にか小夜に対して、”義理と人情”を与える人になっていることに気付かされる。

”陽”の感情が目立つスズ子に対し、小夜は誰しもが心の奥底に秘めている、他人への尖った気持ちや自己否定など”陰”の感情を引き受けているキャラクターだ。だが、自分とは正反対にも見える小夜を、スズ子は受け入れてそばに置いた。それにより、小夜は”義理と人情”を与えられる側になることができた。


私たちは皆、誰かの”義理と人情”で生かされている。いつか小夜もそのことに気付き、誰かに与える側の存在になっていくのではないかと彼女の成長を楽しみにしている。

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