NHKで放送されている夜ドラ『作りたい女と食べたい女』シーズン2。「食」を軸に、野本さんと春日さん、女性同士の恋愛模様が描かれている。
一見ほっこり食ドラマかと思いきや、見進めてみると実は一人一人の”食”と”性”に切り込んだ社会派ドラマでもあると気が付いた。

【写真】『作りたい女と食べたい女』第24回場面カット【4点】

物語の主人公は、Web制作会社で派遣会社として働く野本ユキ(比嘉愛未)。野本さんはこのドラマにおける「作りたい人」で、作った料理をSNSにアップしている料理好きだ。しかし一人で作り、一人で食べる生活を少し寂しく感じる時もあり、「誰かに作りたい」「一人では食べきれない量の映え料理を作ってみたい」と思いを募らせている。

そしてもう一人の主人公・春日十々子(西野恵未)は「食べたい人」。幼少期に自分が望む量のご飯を食べられなかったことがきっかけで、大人になってからは好きな物を好きなだけ食べるように。
ある日、マンションのエレベーターで野本さんと出会い、野本さんが作った料理を一緒に食べることになる。

食卓に並ぶのは、放送時期に合わせた季節の料理や、登場人物の思い出の味、すぐに真似できるアイデアレシピなど心奪われるものばかり。そして食事シーンを通して、人それぞれ”食”に対して様々な価値観があることに気づかされる。

食材の好き嫌いや味付けの好みだけではなく、食事をする場所、タイミング、人数…など、人には人の”食ルール”がある。誰一人として同じ食事で育ってきた人間はいないのだから当たり前のことなのに、つい「みんなで食べた方が美味しいよ」や「こんなに美味しいのに、食べられないなんて損してる」と言ってしまった経験がある人も多いのではないだろうか。

『つくたべ』を見ながら、そんな些細な言葉が、誰かの食の楽しみを壊したり奪ったりしてしまっているかもしれないと考えさせられた。


シーズン1では、餃子パーティーをしたり、手巻き寿司を作ったり、一緒に年越しをしたり…と食を通じて二人の距離がだんだんと縮まっていく様子が映し出された。その中で、野本さんは春日さんへの恋心を自覚。最初は戸惑っていたものの、「春日さんのことを好きでいていいんだ」と自分の気持ちを認めていく。

シーズン2からは「食べられない人」の南雲世奈(藤吉夏鈴)、「作らない人」の矢子可菜芽(ともさかりえ)も加わり、それぞれが自分自身の食べ方・生き方に向き合っていく様子が描かれている。

そして”食”と同様にメッセージ性を込めて描かれているのが”セクシュアリティ”だ。令和に入りようやく広く知れ渡ってきた言葉だが、まだどこか他人事に感じている人もいるだろう。


シーズン1で印象的だったのは、野本さんが同僚の佐山千春(森田望智)に「女性が気になっている」と打ち明けた場面だ。自分の恋愛対象をカミングアウトするときは、相手にどのような反応をされるのかが一番気がかりな点である。「引かれたら?」「理解できないと言われたら?」そんな不安を打ち消した、佐山さんのあまりにもあっさりとした「あぁ、そうなんですねえ」の一言は、カミングアウトの返答としてかなり理想に近いものであったと思う。

女性同士の恋愛が描かれている作品は、どこか神話的であったり、ファンタジー要素が強いものが多いと感じている。依存、憎悪、執着など、マイナスなイメージの感情とセットで描かれることも多い。精神的な結びつきを強く描こうとする一方で、性的な描写が過度に激しい作品もある。


野本さんがレズビアン映画を見て「モヤモヤする」「自分はちゃんとしたレズビアンではないのかも」と思ったのも、映画で描かれている同性同士の恋愛が、エンタメとして消費されるために創り上げられた偶像的なものだと感じたからだろう。

『作りたい女と食べたい女』では、刺激的な運命の出会いが訪れることも、すごくロマンチックな展開が起きることもない。仕事と家の往復、たまに立ち寄るスーパー、マンションの住人との挨拶。時には苦しみを感じたり、些細な幸せを噛みしめたりしながら、いい意味で”ありきたり”な生活がそこにある。

物語の中で野本さんと春日さんに交わる人々は、誰かの食や恋愛の価値観を馬鹿にしたり、咎める人はいない。分からないときは話を聞いてみる、「自分はこう思う」と素直に伝えてみる。
無理に理解しようとせず、ただ、知る。受け止める。そんな登場人物の在り方に救われることが多々あるのだ。

「もしかしたら自分が住むマンションに、春日さんと野本さんがいるかもしれない」と思わせてくれるような、素朴でありのままで、でも二人にとっては特別な時間。これからも、ご近所さんになったつもりで二人の会話に耳を側立てていたい。

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