乃木坂46 5期生による舞台「美少女戦士セーラームーン」が4月に上演されることが決まった。加入3年目の5期生が初めて経験する本格的な舞台演劇になるが、グループの先輩も舞台経験がキャリアにいい影響になってきた。
その主なものを振り返ってみたい。

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1992年から、キャストを変えて何度も上演されてきた「セラミュ」こと「美少女戦士セーラームーン」のミュージカル版を初めて乃木坂46メンバーが演じたのが5年前の2018年。5人のセーラー戦士を1期生から3期生のダブルキャストで演じ、セーラームーン(月野うさぎ)は山下美月井上小百合で演じた。ほかに現役メンバーでは梅澤美波がセーラージュピター(木野まこと)、伊藤理々杏がセーラーマーキュリー(水野亜美)役で出演している。
 
翌年にはキャストを一新し、セーラームーン:久保史緒里、セーラーマーキュリー:向井葉月、セーラーマーズ(火野レイ):早川聖来、セータージュピター:伊藤純奈、セーラーヴィーナス(愛野美奈子)田村真佑で上演された。
 
ミュージカルゆえに歌やダンスも生で演じ、シリーズにお決まりの変身シーンや名乗りも格好よく決める舞台で、アイドルらしいキラキラ感を活かせる機会に恵まれた彼女たち。
主演した山下と久保はこれ以後も当時の欅坂46、ひらがなけやきのメンバーと演じたホラー・サスペンス舞台『ザンビ』も経験し、今では俳優として引くて数多の2人に。

伊藤理々杏も自身の個性を活かしてアイドル的な役を演じる機会に恵まれ、早川は華のある役だけでなく、シリアスな作品でも印象を残してきた。梅澤も山下・齋藤飛鳥との映画『映像研には手を出すな!』や舞台『キングダム』で、アクの強い存在感を放っている。

もともと、乃木坂46と演劇界の接点は多い。在籍中から何作もの人気ミュージカルに出演してきた生田絵梨花のように個々のメンバーによる外部出演も盛んなだけでなく、メインキャスト、あるいは全出演者を乃木坂46で占める舞台企画も継続してきたことが特徴だ。その原点といえるのが、結成後まもない2012年に初演された『16人のプリンシパル』だ。


まだデビュー2年目で演技経験もほとんどない1期生だけで演じ、1幕でのメンバーの自己PRを観た観客が幕間に投票して2幕の芝居の配役が決まるという、リアルオーディション形式の舞台である。しかも、投票で16人に漏れたメンバーは2幕の出番がないというシビアな公演で、サバイバルオーディションの要素も持っていた。
 
毎日シビアに結果が表れる本作はメンバーにとってもハードな経験で、ドキュメンタリー映画の『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』にもその様子が描かれている。メンバー・スタッフとも試行錯誤だった12年の初演から13年には『16人のプリンシパル deux』、14年には『16人のプリンシパル trois』を上演する。「trois」ではコントも演じ、役柄を広げていった。
 
3期生と4期生はそれぞれ加入から約半年になるタイミングで『3人のプリンシパル』を演じる。
こちらは2幕の芝居の3人の出演者(3期生は『銀河鉄道の夜』4期生は『ロミオとジュリエット』)を1幕のオーディションで選ぶもので、公演が進むと3役全てを演じるメンバーも現れる。17年の3期生の公演では山下・久保・伊藤・中村麗乃与田祐希が3役を制覇し、19年の4期生バージョンでは早川が3役全てでの出演を勝ち取った。皆その後も順調にドラマ・映画や舞台での出演を続けているメンバーだ。

卒業したメンバーがメインキャストを演じた舞台の中で特徴的な作品が『じょしらく』と『すべての犬は天国へ行く』だ。『じょしらく』は、5人の女流落語家が登場するゆるい日常系4コママンガを舞台化。5人の配役をトリプルキャスト、合計15人で演じた舞台だが、劇中では生の落語披露に加えて、原作のゆるさを再現したギャグやショートコントのようなやりとりも見どころ。
現実のメンバー同士の関係性を活かしたメタ的な展開もあって、5人で客席を笑わせ続けたメンバーのコメディセンスが生かされた舞台になり、2015年と16年の二度にわたって上演された。

『すべての犬は天国に行く』はもとは劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチが01年に手がけた戯曲で、15年の再演に乃木坂46メンバーが出演した。内容は開拓時代のアメリカ西部で、男がおらず女だけになった街で展開される西部劇ベースの不条理劇で、現役アイドルがやさぐれた女たちを演じるハードルの高い芝居でもあった。

本作に出演していたのは生駒里奈・伊藤万里華・井上小百合・桜井玲香新内眞衣松村沙友理若月佑美斉藤優里。全員が『じょしらく』にも出演経験があり、卒業後も多くのメンバーが俳優業でポジションを築いている。伊藤は多くの映画で性格俳優として個性的な役を演じ、アーティストとしても才能を発揮。
桜井はミュージカル、井上は小劇場をメインに存在感を見せている。

今クールの『セレブ男子は手に負えません』で連ドラ初主演の若月はどんな役もできるバイプレイヤーとして芸能界で不可欠な俳優になり、松村は実写映画化された『劇場版 推しが武道館行ってくれたら死ぬ』でのアイドルファン・えりぴよのようなエキセントリックな役でも印象を残している。

『セラミュ』『じょしらく』『すべての犬は天国に行く』は、いずれもネルケプランニングが企画を担った。同社は2.5次元舞台や小・中規模の劇場での多彩な内容の舞台を強みとしていて、新しいセラミュも舞台の規模感を活かした、臨場感ある演出が期待できそうだ。
 
5期生は加入後「プリンシパル」を経験せず、全員が生の舞台出演は初めて。『乃木坂スター誕生!』などで磨いてきた小芝居にコント、芝居の間合いの感覚を活かせる機会がやってきた。
またセラミュが終わると、5月からは奥田いろはがミュージカル『ロミオとジュリエット』ヒロインのジュリエットという大役に挑戦する。セラミュをきっかけに、5期生にも演技のオファーが続いてくれることを望みたい。

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