24年冬のドラマで、複数作にレギュラー出演し、存在感を見せている櫻坂46の藤吉夏鈴。グループ外の作品でも表現力を開花させつつある彼女の、演技者としての持ち味を探ってみたい。


【関連写真】藤吉夏鈴が出演する『作りたい女と食べたい女』場面カット
 
藤吉は、1月19日から放送が始まったWOWOWドラマ『アオハライドSeason2』で成海唯として出演している。アニメ化もされた咲坂伊緒の同名マンガをSeason1、Season2の二部構成で連続ドラマ化した本作は、高校生たちの恋愛群像劇。Season1では馬渕洸(櫻井海音)と吉岡双葉(出口夏希)が仲を深めていったところに、藤吉が扮する成海唯がSeason2から登場。唯はかつて洸が長崎に住んでいた時の幼なじみで、彼女が洸と双葉の近くに引っ越してきたことででストーリーは急展開していく。
 
唯は洸と双葉のカップルが相思相愛になってきたところに登場し、洸への愛の強さをストレートに言動で現わしていく、いわば物語をかき回す存在。正ヒロインである双葉にとっては恋のライバルで、トリックスターのようにseason2から登場した。

 
藤吉本人も「Season1から観ている方は、『なんだ、この子は』となると思うのですが(笑)、私は人に対してこれほどまで熱をもって接することがあまりないので、唯を少し羨ましく思っています。愛されるキャラクターになると良いなと思いながら演じました」と出演にあたってコメント。独占欲の強い10代の心境をていねいに演じている。洸たちとは別の高校に通い、彼らSeason1のレギュラーキャラクターが一つのコミュニティでまとまっている中に唯が登場すると、視聴者にとっては何かが起こりそうな気がしてさらにドラマの展開にひきつけられてしまう。

藤吉はNHKの「夜ドラ」枠で1月29日から毎週月~木曜に放送中の『作りたい女と食べたい女 シーズン2』にも出演している。同名マンガをドラマ化した一昨年のシーズン1の続編で、料理を通じて女性同士の心の交流を描く。
比嘉愛未の野本ユキと西野恵未の春日十々子が暮らすマンションに引っ越してきたのが藤吉の南雲世奈だ。野本と春日は食卓を共にすることで友情を深めあってきたが、南雲は実は人と一緒に食事ができない「会食恐怖症」を持っている。
 
まず、マンガの南雲のボーイッシュな髪型とたたずまいをほぼ完璧に再現してくれた藤吉は、朴訥ながらも野本さんと春日さんにいろいろな“気づき”をもたらしていく。シーズン1では野本さんと春日さんの2人だけの世界という印象が強かったところに南雲が登場するが、2人の関係を乱すわけではなく彼女たちの背中を押す存在でもある。食事に誘われることもある南雲だが、野本と春日と違って心の底から会食を楽しむことができない。

一歩引いた目線から、野本と春日の関係を客観的に見られるクールさが藤吉らしく、櫻坂46での彼女の存在感とリンクする。
南雲が心を開いて表情も柔らかくなっていく過程は、クールそうな藤吉の内面や折に見せる笑顔でファンが彼女を好きになっていくプロセスにも似通っている。やはり「つくたべ」でも、登場する度に気になってしまうトリックスター的存在だ。ビジュアルの再現度もあいまって、文句のないベストキャストと言えそうだ。

藤吉が演じた時に見せる、物語性の深さが大きく注目され始めたのは櫻坂46の楽曲『偶然の答え』(2021年)のMVにて。短い映像の中にしっかりストーリーが描かれていて、藤吉の「カリン」が、高校時代の過去を振り返って映像が展開されていく。高校生のカリンは、親友のリコ(永瀬莉子)に思い切って告白するが、それは同性への好きを越えた愛情であり、リコとの関係にヒビが入ってしまう。


表向きは学校で穏やかに過ごす2人だが、カリンは卒業を機に俳優を目指して上京することをリコに告げて想いを断ち切り、ラストには、渋谷の街で大人になったカリンがこちら側を振り返るカットで終わる。短編ではあるが、ズームアップされる藤吉の表情、リコに向けて見せる笑顔を見た人はカリンのリコへの想いの深さや、上京を決めた心の中を想像したくなる。
 
その後、22年には恋愛バラエティ『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日系)内の「あざと連ドラ」では、大手広告代理店で働く今井愛香役で第5弾・第6弾に出演。第6弾は愛香を主演に描かれ、働く格好よい女性の姿もものにしていた。

「Start Over‼」のライブパフォーマンスでも注目を集め、昨今の櫻坂46の躍進の屋台骨を担ってきた藤吉。抜群のトーク力、あるいは万人受けするビジュアルの持ち主ではないかもしれないが、たたずまいには「もっとこの人を見ていたい、知りたい」と思わせる吸引力がある。
そんな、映像の作り手の創造力をくすぐる藤吉は、これからも多彩な役で印象を残していくことだろう。

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