宮藤官九郎が、自ら企画、脚本、監督を務めたドラマ『季節のない街』(テレ東系)が、昨年夏のディズニープラスでの先行配信を経て、地上波での放送がスタートする。黒澤明『どですかでん』の原作をベースにした作品で、12年前に起きた“ナニ”の大災害をきっかけにすべてを失い、仮設住宅で生活を送るようになった人々の日常や、そこに住む若者たちの葛藤をユーモラスに描いた群像劇。
4月5日からの地上波放送を前に、宮藤監督と同作に酒屋の青年・オカベ役で出演した俳優・渡辺大知氏にインタビューを実施。ドラマ『季節のない街』の見どころを聞いた。

【写真】池松壮亮主演、『季節のない街』場面写真【24点】

──宮藤さんは、黒澤明監督の『どですかでん』が20代の頃からもっとも好きな映画とのことで、今回のドラマ化に至った経緯を教えてください。
宮藤 ちょうど『いだてん』(NHK)を書き終えたあとで、少し疲れていたタイミングでドラマ化したいテーマを聞かれたんです。それからすぐにコロナ禍になり、世の中がストップした感覚があったんですよね。そんななかでいろいろと企画を考えるうちに、自分が昔からやりたいのは『どですかでん』だ、つまり『季節のない街』だと気づいて提案しました。
それから多くの方々に協力してもらい、ドラマ化が実現しました。

──思い入れが強いからこその作り手としての難しさはありましたか?

宮藤 でも“自分がやりたいこと”だったので、不思議と難しさは感じなかったです。ただ、一話完結の30分ドラマなので、時間内に収めなきゃいけない大変さや、(渡辺)大知くんが演じてくれたオカベは、原作でも「がんもどき」のエピソードだけに出てくる登場人物なので、1話からどうやって(主要人物である)青年部に加わってもらうかなど、構成は悩みましたね。

渡辺 岡部少年は、映画でもそれほどフィーチャーされてないですよね。僕もオファーをいただくよりも前に『どですかでん』を観たことがあったんですけど、岡部少年がどんな役だったか思い出せなくて……。でも、なぜか印象だけは残っていたたので、『季節のない街』でのオカベも“どんなヤツかは覚えてないけど、存在感がある男”になれたらいいな、と撮影に臨みました。
改めて映画を見返したら、ちょっとお節介焼きというか、キメキメのかっこつけてるキャラクターでした(笑)。

宮藤 映画の岡部少年はドラマほどいいヤツでもないしね。個人的に『どですかでん』に寄せたい部分と、まったく別物にしたい部分が両極端で、オカベのキャラクターは後者。細部を見ると『どですかでん』なんだけど、引きで見ると違う作品にしたい、とは考えてました。

──たしかに、ドラマのオカベは朗らかな印象でした。作中では、街でいちばん内気なかつ子(三浦透子)に恋をしますが、役作りではどんな点を意識しましたか?

渡辺 じつは、撮影が始まってから思いついたんですけど、小学校時代の同級生の男子をオカベのモデルにして演じていたんです。


宮藤 へぇ!

渡辺 小学生の頃は、彼と仲が良かったわけでもなかったんですけど、成人式のときに「大知くん久しぶり!」と、元気に背中を叩かれたんです。話をしていると、小学校を卒業してからも担任の先生と毎月のように連絡を取り合っていると言っていて、とても驚いたんです。お世話になった相手に、人一倍愛情を持って関わり続ける彼の姿と、大好きなかっちゃん(かつ子)を見ると周りが見えなくなるオカベのイメージが重なったんですよね。

──身近な人が役に影響を与えることもあるんですね。

渡辺 そうですね。オカベに“世界のどこかに存在する人物”という説得力を持たせたくて……「ちょっと世間からズレてるけど、アイツならそうするだろうな」なんて考えながら演じていました。


宮藤 増子(直純)さんも言ってたなあ。「みんなは六ちゃん(濱田岳演じる“見えない電車”を毎日1人で運転する青年)がヤバいって言うけど、オカベも相当ヤバい」って(笑)。

渡辺 そんな……(笑)。

宮藤 オカベは、仮設住宅の近くに住んでいる、いわば“部外者”なんですよね。街に行くと落ち着くし、友人もいるけど、ずっと疎外感を抱いていて、笑ってるけど泣いてる役……。大知くんは、明るくも暗くもないオカベのキャラクターを見事に演じてくれました。
スタッフはもちろんですが、キャスティングに関しても、これ以上ない役者さんに集まってもらえて感無量です。たとえば、4話の「牧歌調」でメインになった益夫と初太郎は、怒髪天の増子さんと荒川(良々)くん以外考えられなかったし、2人でなければあのグルーヴ感は出せなかったと思います。

渡辺 僕、益夫が持っている(完全に壊れてる)ケータイ電話がすごく好きで、何回観ても笑っちゃうんですよ。小道具で爆笑したのは、益夫のケータイが初ですね(笑)。

宮藤 あはは! あんなケータイを持っててもリアリティあるのは、増子さんくらいかもしれないですね。

──4月からのドラマを観る方は益夫のケータイに注目ですね。
これまで、宮藤さんが手掛けてきた作品は、切り口は違えど“家族”というテーマが根底にあるように感じるのですが『季節のない街』に登場するなかでは、どの家族が気になりますか?

宮藤 今回“家族の話”として意識して作ったのは、2話の「親おもい」かな。『どですかでん』にはないエピソードで、ドラマではタツヤ(仲野太賀)がメインの回ですね。自分はマジメに家族のために働いて貯金しているのに、母親は金をせびりにくる兄のほうを「優しい長男」と可愛がるストーリーは、原作に沿っています。

──子の心親知らずというか、子の心が伝わっても意味がないというか……どの家庭でも抱えていそうな問題だったので生々しかったです。

宮藤 今回、ドラマの企画を考えながら昭和30年代に発表された原作の『季節のない街』を読み返したんです。改めて読むと、親子や貧困の問題がテーマになっていて、現代に置き換えても通用する……むしろ、今の人が見たほうが“刺さるはず”と感じました。もちろん現代に合わせて、舞台は12年前の“ナニ”のあとの仮設住宅にしたり、スマホを登場させたりしましたが、人間の生活の根っこは変わってないので、違和感なく受け入れてもらえるかな、と思います。

渡辺 僕も、台本を読んだときに「今、自分はこういうドラマが見たかったんだ!」と気づかされたひとりです。コロナ禍以降、世界全体が混沌としていて、自分は明るい作品が見たいのか、暗い作品を観て鬱屈とした気持ちを掬いとって欲しいのか、わからなくなっている時期にオファーをいただいて……。季節のない街で、明るくも暗くもなく、“その日をただ生きている登場人物たち”に僕自身が救われました。これからドラマを観るみなさんも、街の住人たちに共感できる部分がたくさんあると思います。

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