NHK連続テレビ小説『虎に翼』(総合・月曜~土曜8時ほか)が話題を集めている。日本初の女性弁護士・判事・裁判所所長になった三淵嘉子氏をモデルに、法曹界に飛び込んだ猪爪寅子(伊藤沙莉)の奮闘を描いた本作。
参政権が認められないなど女性が虐げられていた昭和初期が舞台となっており、女性の生き辛さをまざまざと見せつける内容になっているが、NHKで4月30日から放送開始された『燕は戻ってこない』(総合・火曜22時~)では令和を生きる女性の葛藤が描かれている。

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 桐野夏生の同名小説をドラマ化した本作は、2人の女性を軸にストーリーが進む。1人目は“リキ”こと地方出身の29歳・大石理紀(石橋静河)。リキは手取り14万円の医療事務として非正規雇用で働くが、来年には雇い止めになる。憧れの東京で仕事をしているものの、経済的に激しく困窮しており、キラキラした生活とは無縁。

もう1人はバレエ界のサラブレッド・草桶基(稲垣吾郎)を夫に持つ44歳・悠子(内田有紀)。
広々とした家に住んで豊かな生活を送っている 悠子ではあるが、不育症と卵子の老化によって妊娠を諦めざるをえない状況に立たされている。子供を切望する基と基の母・千味子(黒木瞳)からのプレッシャーに日々耐えており、心は豊かではない様子。

 住んでいる世界も年齢も異なる2人ではあるが、“代理出産”をキッカケに交差する。自身の遺伝子を残すことに強いこだわりを持つ基は、ある日悠子に代理出産で子供を授かる選択を提案。悠子は困惑するが、子供ができないことに罪悪感を覚えており、 「妊娠できないのなら離婚してほしい」と考えている千味子の存在も影響して渋々了承。

一方、リキは最低でも報酬として300万円をもらえることに魅了され、こちらも渋々ではあるが代理出産のための卵子提供に前向きな姿勢を見せている。


 全10話の放送を予定しており、現在までに2話が放送された『燕は戻ってこない』。とにもかくにも女性の苦しみを丁寧に描いており、リキと悠子の葛藤がこれでもかと見せつけられる。1話でリキは同僚の河辺照代(伊藤万理華)と一緒にコンビニでカップラーメンにお湯を入れている時、照代が「たまには外食もいいよね」と口にして、リキも「本当。贅沢しないとね」と返す。

コンビニで買ったカップラーメンをイートインスペースで食べることを“外食”と言い、そのことを贅沢と語っていた。冗談っぽい口調で話していたが、ノリでごまかさなければ受け入れられないほど辛い環境に置かれていることが伺える。


 リキを直視できなくなるシーンと言えば、リキの隣人で高齢男性の平岡(酒向芳)とのやり取りにも触れたい。1話でリキは出勤のために駐輪場に向かうが、自転車の上に自転車を置くというダイナミックな駐輪がされていた自転車を目にする。

リキは自転車を持ち上げてどかした後、「このやろう」と口にして軽くその自転車を蹴ると「おい!俺の自転車だぞ!」と怒鳴りながら平岡が姿を見せてリキに詰め寄る。リキは謝罪して自分の自転車に乗ってその場を去ろうとするが、平岡が前に立って進路を塞ぐ。何とか制止を振り切って自転車に乗ってペダルをこぐが、平岡も自転車で追いかけてくる。この“カーチェイスシーン”はホラー以外の何物でもない。


 恐らく平岡は女性だからリキに強い口調で絡んだのだろう。平岡のいやらしい性格に加え、リキが平岡に絡まれている最中に助けることもなく駐輪場から自転車を取り出して颯爽とその場を去ったサラリーマンにも辟易した。女性ということで理不尽な出来事に遭遇することは珍しくなく、被害に遭っても周囲の人は助けてくれない。そんな女性のしんどいリアルを見事に再現したシーンだった。

 また、リキに負けず劣らず悠子の葛藤もしんどい。1話で1年前に流産を経験した悠子が家に帰り、母子手帳を引き出しにしまうシーンの攻撃力も半端ない。
引き出しの中には“使わなかった母子手帳”が2冊入っており、「3回流産した」とは言わずに描写で「3回流産した」ことを伝える演出はすごい。そして、3冊目の母子手帳を泣きながらしまう内田の演技も相まって、子供ができないことの苦しさを痛感させられた。

他にも、2話で悠子は「産んでくれる女性の気持ちはどうなるの?」「不妊治療ってとっても辛いのよ」と代理出産の利用に慎重になるように説得するが、基は「じゃあやめる?」「決めて、悠子。キャンセルする?」とあまりに残酷な決断を迫る基。稲垣だからこそのスマートかつクレバーかつサイコパスな演技に圧倒され、さらには悠子の気持ちを考えて身につまされる思いになった。

 リキと平岡、悠子と基の掛け合いはもちろん、演出でもしんどい気持ちにさせられる『燕は戻ってこない』。
女性のリアルを突きつける展開に、今後も考えさせられるドラマになりそうだ。

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