──今もソロで活動しているんですよね。
加納 はい。今も事務所には所属してないです。
──ここまで話題になると声をかけてくる事務所もあるんじゃないですか。
加納 ゼロではないですけど、所属するまでには至ってないですね。先方との相性もあるでしょうし、焦って決めるよりも時間をかけたほうがいいのかなと。
──フリーにこだわっている訳ではないんですね。
加納 もう来年にでも、どこかに入りたいです(笑)。いろいろやることが多いので1人だとキャパがパンパンになるんです。
──確かにアーティスト活動以外の作業も多いでしょうね。
加納 そうなんですよ。
──在庫も自分で抱えているんですか?
加納 CD、グッズのTシャツや缶バッジ、ハンドタオルなど、全部家にあります(笑)。
──ファンからしたら、アーティスト本人が梱包までしてるのはうれしいですよね。
加納 梱包まで自分でやっているのは応援の材料になりますかね(笑)。
──Tシャツや缶バッジのデザイン発注や、どれだけ在庫を抱えるかも自分で判断するんですよね。
加納 ジャッジを下すのは自分ですね。
──原価計算や予算管理も大変ですよね。
加納 おかげさまでグッズは黒字なんですけど、今回のアルバム制作で最近はライブも全然できてないし、支出も多かったので、収支の波はありますね。
──CDを制作する場合、普通はレコード会社が経費を持ちます。加納さんの場合は自分持ちなんですか?
加納 そうです。なので前払いですね。入金も自分でしてますよ。
──ちなみに今バイトなどはしているんですか?
加納 月に1回ぐらいしかできてないです。
──むしろ月1で許してくれる職場があるんですか。
加納 昔からお世話になっているところで、こういうお仕事をしていることも理解してくれているので融通がきくんです。本当はもうちょっとシフトを増やしたいんですけど、音楽活動を優先にしたいから、月1が限界ですね。
──でも月1程度のバイトでやっていけるのはすごいことですよ。
加納 今年の春先から徐々にシフトを減らしていったんですけど、その時は月に10本程度ライブを入れていたから、ライブの収入だけで生活できたんですよ。今はライブの本数を減らしているのと、アルバム制作もあって貯金を切り崩している状態です。今回のアルバムは全国流通で、原盤権も自分で持っていますけど、まとまった売り上げが入ってくるのは先ですからね。
──そもそも、どうしてフリーで活動しようと思ったんですか。
加納 もともと大手レコード会社と育成契約をしていたんですけど、そことの契約が切れたんです。違うレコード会社に所属したい気持ちもあったんですけど、探すのにも時間がかかるし、私はものすごく年齢が若い訳でもないから、とりあえずフリーで活動してみようと思ってフリーになりました。
──周りで先にフリーで活動している先輩はいたんですか?
加納 1人もいなかったですし。
──そういう状況から抜け出すきっかけはあったんですか?
加納 昨年の12月28日にCHELSEA HOTELで開催されたイベント「『涙』第14回」に、星野みちるさん、脇田もなりさん、スカートの澤部渡さんたちと一緒になぜか出させて頂いて、そこから少しずつ道が開けていきました。ソロ活動を始めたのが昨年5月の初めだったので、半年以上はかかりましたね。
──事務所などの力を借りずに1人でやったと考えると早いと思いますけどね。
加納 客観的に見るとそうなのかもしれないですけど、自分的には実感がないんですよね。ただ、それから徐々にメディアで取り上げて頂くことも増えましたので、ありがたいです。
──ライブイベントのオファーも増えたんじゃないでですか?
加納 確かに増えましたけど、それほどではないです。グループだとメンバー一人ひとりにファンの方がつくのでソロよりも集客力がありますからね。
──今回のアルバム『GREENPOP』はなりすレコードからの発売ですけど、以前リリースした『ごめんね』の7インチシングルも、なりすレコードでしたよね。
加納 7インチシングルは去年2月に出して数ヶ月でソールドアウトしました。
──リリースイベントも自分で組んでいるんですか?
加納 私が担当しているところもあるんですけど、なりすレコードの平澤さんという方と一緒に組んでいます。あと今回のアルバムは流通がスペースシャワーなんですけど、その担当者の方も組んでくれていますね。
──今回のアルバムはレコードとカセットでも発売するそうですけど、その判断も加納さんなんですか?
加納 平澤さんの意向も強いんですけど、私もアナログのフォーマットで出したいって気持ちが強くて、二人の意見が一致してです。
──加納さん自身はレコードプレイヤーとカセットデッキを所有しているんですか?
加納 レコードプレイヤーは平澤さんから頂いたんですけど、あまり使いこなせていません(笑)。サブスクしか聴かないんですけど、アナログはカッコいいかなと思って。
──80年代テイストが濃厚なMVのぶっ飛んだ内容も加納さんの意向が強いんですか?
加納 そうですね。一通り仕上がったものを確認して細かいところを直したりしています。
──音楽以外の作業を自分でやることによって、アーティスト活動にプラスになったことはありますか?
加納 レコード会社に所属していた頃よりも行動的になりました。以前は大人のジャッジがないと動けなかったですからね。平澤さんも自由にやらせてくださいますし、私も好きに動けるのが楽しいんです。
──そもそもどういう経緯でレコード会社に所属したんですか?
加納 高校卒業後、音楽学校に通っていたんですけど、学校で発表会があって、今回のアルバムにも収録されている『恋愛クレーマー』という曲を披露したんです。そしたら発表会に来ていたレーベルの方が声をかけてくださいました。それから2年半ぐらいレコード会社にお世話になっていました。
──レコード会社に所属していた頃はフラストレーションってありました?
加納 めっちゃありました。2年半ぐらいいたんですけど、ライブにも出られなかったですからね。当時は音楽活動よりもバイトをしていた時間のほうが長かったです。
──どんなバイトを経験したんですか?
加納 いろいろやりましたけど、たとえばコンビニや雑貨屋さん。あとディスクユニオン新宿店でも働いていました。
──おー! それは今の活動に直で繋がっているじゃないですか。
加納 そうなんです! 当時、新宿店で店長を務めていた方が、今でも交流があって、何度もインストアライブをやらせて頂きました。ポスターもお店の良い場所に貼ってもらってます。
──もともとアーティスト志望だった加納さんが、どうしてフリーになる時にアイドルというフォーマットを選んだんですか?
加納 アイドルってカルチャーとして成熟しているじゃないですか。フワッと「カッコいい系のアーティスト」みたいな中途半端なところに行くよりは、たとえば吉田豪さんや南波一海さんのようにアイドルカルチャーに熟知した方に知ってもらえるかなと思いましたし、そこで自分の音楽性を伝えられると世に広まっていくのかなと考えたんですよね。
──戦略的にアイドルを選んだんですね。
加納 そうですね。ただ、アイドルはほとんど知らなかったですし、今もあまり分かってないです。なのでアイドルファンには、ライブで湧きたい方もいれば、楽曲派と呼ばれる方もいるみたいなことは、自分がアイドルになって初めて知りました。それを知ってからは、まず楽曲派の方に刺さるようにしようと思いました。
──今後のプランは?
加納 大きなフェスに出てみたいです。他にも漠然としたプランはありますけど、CDをリリースしてみての反応で戦略も変えていかないといけないし、あまり先走らないようにしています。
──とてもアイドルの発言とは思えないほど堅実ですね(笑)。2月にインタビューした時、年内にアルバムを出したいと仰ってましたけど、しっかりと達成してるから説得力もあります。
加納 一応、ここでシングル出して、ここでアルバム出して、ここでワンマンみたいな目標を書いてパソコンの上に貼っているんですけど、今のところはクリアしてます。ただ今はリリイベやライブで全国も回りますし、アルバムのプロモーションに専念します!
──最初の話に戻りますが、事務所に所属する時期はいつ頃に設定しているんですか?
加納 そればかりはご縁ですからね。もしかしたら来年もずっとフリーでやっているかもしれません(笑)。

▽加納エミリ ファーストアルバム『GREENPOP』
発売中