山本直樹原作の短編コミックを実写映画化した『ファンシー』。永瀬正敏演じる彫師の郵便配達員と窪田正孝演じる詩人、そして1人の女性のねじれた三角関係から巻き起こるエロスと暴力を描いた注目作品だ。
本作でヒロインを演じるのが小西桜子。これが映画初出演とは思えないほど自然な演技で、2人の間で揺れる少女を伸びやかに表現しており、大胆なベッドシーンにも挑戦している。
小西は、本作のヒロインをオーディションで勝ち取った。本作以降も三池崇監督のカンヌ国際映画祭出品作『初恋』、日本映画スプラッシュ部門出品作品『猿楽町で会いましょう』(児山隆監督)と次々と注目映画に出演する小西が女優を目指した理由とは。

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──原作者の山本直樹さんのことはご存知でしたか?

小西 知ってはいたんですけど読んだことはなくて、オーディションの前に原作の『ファンシー』を読ませて頂きました。全体的に低めの温度感で今まで読んだことのない作品だったんですけど、すごく面白かったです。絵柄の雰囲気や出てくる女の子も魅力的で、タイプのマンガでしたね。原作は短編ですけど、台本は新しい要素が増えて違う世界観になっている印象でした。

──小西さんの演じる“月夜の星”は、若い詩人(窪田正孝)と文通を交わすファンという役柄ですが、どこか捉えどころのないキャラクターです。かなり役作りは難しかったのではないでしょうか。

小西 恥ずかしながら、ほぼ演技自体が初めてだったんです。廣田正興監督も細かく役柄を説明されるタイプではなかったので、きっちりと役作りをしないままクランクインを迎えて、現場の雰囲気に委ねながら演じていました。
今がリハーサルなのか本番なのかも分からない状態でしたからね。

──それまで演技経験はなかったんですか?

小西 一度だけ自主映画に出させてもらったことがあって、そこからお芝居をやりたいなと思ってオーディションを受け始めたんですけど、それから1、2か月で『ファンシー』の出演が決まったんです。今考えると大変なことなんですけど、当時は芸能界のことが分からな過ぎて、あまり状況を理解していなかったんですよね。クランクイン後も現実感がなくて、けっこう記憶が飛んでいます(笑)。

──しかも芸能事務所に所属せず、フリーで活動しているんですよね。

小西 芸能事務所には一度も所属したことがないです。

──それで2019年だけで三池崇監督のカンヌ国際映画祭出品作『初恋』、日本映画スプラッシュ部門出品作品『猿楽町で会いましょう』(児山隆監督)と、次々と映画に出演しているのはすごいですね。

小西 『ファンシー』の出演をきっかけに広がっていったので本当にありがたいです。

──演技の勉強は全くしてないんですか?

小西 オーディションを受け始めるようになって、ワークショップに通ったんですけど、参加している方たちの熱がすごくて、その熱気に負けていました(笑)。当時は演技をすることに照れがあったんですよね。いろんな現場を経験させてもらって、そういう恥ずかしさはなくなりましたけど。

──昔から芸能活動に興味はあったんですか?

小西 興味を持ったのは18歳の時です。
大学に入ってから交友関係が広がって、周りに芸能関係のお仕事をしている友人が増えたんです。その繋がりでモデルのお仕事などをやらせて頂いていました。

──主演の永瀬さんは、どんな印象でしたか?

小西 優しくて穏やかな方で、気さくに接してくれたので気楽に演じることができました。永瀬さんが先にクランクアップしたんですけど、いなくなったのが寂しくて撮影中に泣いてしまいました(笑)。

──窪田さんとは『初恋』でも共演していますね。

小西 窪田さんも気取らず優しい方で、どちらの現場でも安心感がありました。

──月夜の星が成長していく様をナチュラルに表現していましたが、そこは意識して演じたんですか。

小西 正直、お芝居のことが分からな過ぎて、流れに身を任せていたらこうなったというか。何も考えていなかったのが良かったのかもしれません。あと永瀬さんと窪田さんにお芝居を引き出してもらったのが大きかったと思います。

──大胆なベッドシーンもありましたが、かなり緊張したんじゃないですか。

小西 皆さん気を遣ってくれていたのもあるかと思うんですが、けっこう淡々とした雰囲気だったので、それが逆に面白くなっちゃって(笑)。
それほど抵抗なく演じることができました。

──淡々とした雰囲気は、『ファンシー』全体に流れるオフビートな空気感に現れていますね。

小西 廣田監督の演出を見ていて、抽象的な空気感を撮りたいのかなと感じました。

──完成した映画を観てどう感じましたか。

小西 『ファンシー』の後に、幾つかの映画に出させて頂いたので、今の自分が月夜の星を演じたら全く違ったキャラクターになるだろうなと思いました。女優としてゼロの状態で初々しかった自分を映像に残して頂けたなと感じましたし、今演じようと思ってもできないですね。

──出演した映画はオーディションで決まったものですか?

小西 ほぼそうですね。ただ「受かりたい!」って強い気持ちで行くと、大抵落ちるんですよ(笑)。あまり気を張らずに行くと、受かることが多いですね。

──ドラマのお仕事もしているんですか?

小西 最近、ドラマと映画の連動作品に出演しました。それもコミックの実写化作品でコメディです。かなり作りこんだキャラクターで、アクションも大袈裟なので振り切って演じました。


──ドラマと映画の違いってあります?

小西 映画のほうが、1シーンの撮影が長くて、自分の中にあるものを丁寧に引き出して、内面を表現するのが難しいなと思いますし、大変な分やりがいもあります。

──今後、どんな役柄を演じてみたいですか。

小西 今は変わった役が続いているので、逆に等身大の女の子を演じてみたいですね。

──普段の小西さんはどういうタイプなんですか。

小西 わりとフワッとしてます(笑)。

──オフはどう過ごしていることが多いんですか?

小西 かなりインドア派で、けっこう家に引きこもって映画を観ていますね。大学で映画史を専攻しているのもあって、一人で映画館に行くことも多いです。

──憧れの女優さんは?

小西 いっぱいいるんですけど、特に憧れているのは若尾文子さんです。大学の課題で若尾さんについて書いたこともあるぐらい好きで、愛情をこめて“あやや”って呼んでます(笑)。作品で言うと、増村保造監督と組んだ一連の作品や、川島雄三監督と組んだ『しとやかな獣』や『雁の寺』が好きです。映画好きの友達に、昔っぽい雰囲気が「若尾文子さんに似ている」と言われたことがあってうれしかったですね。

──最後に2020年の抱負を聞かせてください。


小西 映画でもドラマでも一つひとつ心を込めてお芝居に向き合っていきたいですね。2020年は『ファンシー』を皮切りに、私の出演作を観て頂ける機会も増えると思うので、今が人生のピークぐらいの気持ちで(笑)。全力で駆け抜けていきたいです。

▽映画『ファンシー』
2月7日(金)テアトル新宿 ロードショー
原作:山本直樹/監督・脚本:廣瀬正興(第一回監督作品)/出演:永瀬正敏、窪田正孝、小西桜子ほか/配給:日本出版販売

スタイリング/吉田ナオキ ヘアメイク/松田陵(Y’s C) 衣装協力/PAULOWNIA(プリマクレール・アタッシュプレス 03-3770-1733)、ロイヤルプッシー(blue in green PR 03-6434-9929)
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