──前島さんは今年でデビュー10周年、ソロになってからもこの3月でまる3年になります。今の活動スタンスは、アイドルを卒業する前に思い描いてものだったんですか?
前島 私は12歳から19歳までアイドルとして活動していたんですけど、最初は卒業するタイミングに芸能活動もすべて終えようと考えていたんです。でも、17歳のときに「デスノート The Musical」という舞台をやらせていただいて、そこで演出の栗山民也さん、役者として第一線で活躍されている吉田鋼太郎さんや濱田めぐみさんなど皆様とご一緒させていただいたことで、演劇の楽しさを知りました。また、同時期に初めて声優をやらせていただいた『BanG Dream!(バンドリ!)』という作品も走りはじめて、事務所の方々とお話していく中で「引退するよりも、もっとお芝居や声優として頑張ってみたい!」と気持ちが切り替わったんです。そこを経て、今は演劇と声優、YouTubeでのタレント活動という3本の軸で頑張っています。
──「演じる」と一言でいっても、舞台と声優とではまったくアプローチが異なりますよね。
前島 声優業界の方は舞台と声のお仕事って親和性があると言ってくださるけど、私自身は別モノという感覚があって。特に声優さんの現場には毎回緊張しながら行くんですよ。1人でブースに入るゲームアフレコにはだいぶ慣れたんですけど、新規のアニメアフレコでずっと観てきた声優さんや大御所の方と一緒にお芝居をするとなったらすごく緊張してしまうんです。
──そういう現場では、周りの方とすぐに打ち解けられましたか?
前島 実は私、同世代の方に人見知りしちゃうんです。
──そうなんですね(笑)。そんな前島さんが声優としてブレイクしたのが、『バンドリ!』の丸山彩役。Pastel*Palettes(丸山彩が所属するアイドルバンド)のメンバーとして日本武道館のような大きなステージでまた歌う機会を与えてくれた、すごく大きな出会いでしたよね。
前島 人生の転機っていくつかあると思うんですけど、その1つが『バンドリ!』なのは間違いありません。お話をいただいた頃は人生がここまで変わるとは思ってもみませんでしたが、アイドルを経験した自分だからこそ丸山彩という物語に共感できる部分も大きいですし、アイドルとしては叶わなかった夢も『バンドリ!』というコンテンツを通してキャラクターに叶えてもらっていますし、すごく特別な縁だなと思っています。
──ステージには丸山彩として立っているわけですが、その感覚は同じ武道館にグループで立ったときとは違うものなんですか?
前島 全然違いました。『バンドリ!』で最初にライブをしたときに一番感じたのが、責任感の大きさでして。グループでは10数人で1曲を歌って、歌割りも多くて3つぐらいでしたけど、声優としては1人でまるまる1曲歌わなくちゃいけないし、1人でステージを保たせなくちゃいけない。でも、声優でありながらキャラクターとしてライブパフォーマンスをすることはキャラクターの人生を背負っているわけで、2倍感動するんです。以前、「ステージからそのキャラクターが観ている景色を目にしたら、もっとキャラクターのことを大切にできると思う」とおっしゃった声優さんがいらして。
──女優としてもさまざまな舞台で活躍していらっしゃいますが、演じることの魅力はどういうところに感じますか?
前島 人間がお芝居をするので同じ公演は1つとしてなく、舞台の皆さんの生き方や表現、モノ作りの姿勢からすごく感銘を受けまして、「お芝居ってこんなに楽しいんだ!」と知れたのが演劇だったんです。私は根がわりと暗いので悩みがちなところもあるんですけど、そういう人に寄り添ったり救ってくれるような作品も演劇にはあると思っています。
──特に印象に残っている作品は?
前島 「幸福な職場」(2017年上演)という実話を元にした作品で、まだ障害者雇用が普及してない頃の日本の小さなチョーク工場で16歳の知的障害を持った少女が頑張って働くという物語の、知的障害を抱える少女の役を演じさせていただいて。実際にご健在だったご本人ともお会いしてお話をさせていただいたり、チョーク工場にも足を運んでお仕事を1日体験したりと、テレビもケータイも触らず2カ月くらいお芝居だけに没頭して、あのときにすごくやりがいを感じました。もう亡くなられてしまったんですけど、そのときにご一緒させていただいた中嶋しゅうさんという役者さんが「お芝居だけはどんな人生の瞬間も無駄にならない職業だから、すごく楽しいしやりがいがあるよ」とお話してくださって。その出会いもすごく忘れられなくて、強く思い出に残っています。
──2月に「バレンタイン・ブルー」、4月に「雪やこんこん」と舞台が2本続きます。その合間に声優としてのお仕事もあると思いますが、切り替えはどのようにされていますか?
前島 昨年悩んだのがまさにそこで。朝と夜に声優のお仕事があって、その間に舞台の稽古などがあるとなかなかうまく切り替えができなくて。どちらもお芝居であることには変わりないので、もっと心を柔軟にして、チャンネルの切り替えをうまくできるようになるのも今年の目標ですね。
──そして、2018年秋に開設されたYouTubeチャンネルでもさまざまなことに挑戦しています。
前島 これは自分がやりたい企画や月に1回の生放送を通して私の存在をより身近に感じてもらいたいという意図があって。自分のケータイの中身を晒したり、昔の写真を見せたり、ぼっち企画として1人でお花見やボーリング、焼肉に行ったりしています(笑)。
──個人的にお気に入りの企画は?
前島 憧れの1つだったASMRという音フェチ動画を撮影できて、それをアップしたときは感動しました(笑)。実は再生回数が一番伸びている動画なんです。
──今は役者、声優、YouTubeと3つの軸足で活動していますが、今後挑戦してみたいことは?
前島 以前は「1年後の自分、3年後の自分」みたいに漠然と考えるタイプだったんですけど、最近は目の前のことを頑張る方が大切だと考えるようになりまして、細かく目標設定をしているんですよ。演劇だと「この劇場に立ちたい、この演出家さんとご一緒したい、この戯曲をやってみたい」という目標があるし、声優としては「この枠のアニメに出たい、この監督さんとご一緒したい、この先輩とアフレコしたい」みたいな夢があり。最近はナレーションにも興味があって、そちらにも挑戦してみたいですし、YouTubeももっとチャンネルを大きくしたい。どれも1つひとつ叶えていけたらなと思います。
──1月7日の動画生配信では、新年の抱負として「感謝を伝える人になる」とおっしゃっていましたよね。
前島 ここ数年は本当に周りの皆様に恵まれていたので、その皆さんに見合う素敵な自分でありたいと思いまして。それで今実践しているのが、感謝を伝えるときに「ありがとうございます」と言うことなんです。私、すぐに「すみません」と口にしてしまうので、まず先に感謝を伝えられる人間になりたくて。
──「すみません」って便利な言葉で、口癖として言いがちですものね。さっきご自身のことをネガティブと表現していましたが、ポジティブな言葉を発していけば内側からどんどんポジティブになりそうです。
前島 そうですよね。『バンドリ!』で共演させていただいている先輩の声優さん、加藤英美里さんや金元寿子さんは朗らかで素敵なんですよ。私もそういう人間になりたくて。
──最近はアイドルのセカンドキャリアに注目が集まっていますが、前島さんの活動はこれまでの経験がすべてつながっていて理想的ですよね。
前島 すごくうれしい言葉です。昨年、俳優の山崎樹範さんと6年ぶりにご一緒させていただいたんです。山崎さんは悩みでいっぱいだったアイドル時代の私を知っているので、改めて最近のことを相談したときに「亜美ちゃんは絶対にいつか整うと思うから、諦めないでお芝居を続けた方がいいよ。それに顔もしっかり見ると童顔じゃないんだから、大人になった方が素敵になると思うよ」と言っていただけたので(笑)、30代になったときにすごく凛とした女性でいられるように頑張りたいです!
(取材・文/西廣智一)
▽前島亜美(まえしま・あみ)
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。B型。163センチ。
Twitter:@_maeshima_ami