【写真】登美子(松嶋菜々子)がバイキンマン?『あんぱん』第5週【5点】
今作は「アンパンマン」の作者・やなせたかしの人生が切り取られているだけあって、作中には「アンパンマン」の要素がふんだんに盛り込まれている。なかでも視聴者が特に注目しているのが、登場人物の名前だ。初回放送時から、のぶ(今田美桜)の母・羽多子(江口のりこ)=バタコさん、ヤムおじさんこと屋村草吉(阿部サダヲ)=ジャムおじさんでは?と、キャラクターたちを「アンパンマン」的視点で見て楽しんでいる人も多い。
また、のぶの妹・蘭子(河合優実)とメイコ(原菜乃華)は、それぞれ青色、緑色の着物を着ていることから、ロールパンナとメロンパンナなのでは、という声もある。そのほか、かっちゃんこと貴島勝夫(市川知宏)=かつぶしまん、小川うさ子(志田彩良)=ウサ子ちゃんなど、「アンパンマン」を彷彿とさせる人物が多く登場する。
SNSでは、登美子(松嶋菜々子)がバイキンマンなのでは?という意見が多く見られた。確かに登美子の振る舞いは目に余るものがあった。幼い嵩を置いて再婚し、フラッと戻ってきたと思ったら医者になることを強要し、最後には「好きにしなさい」と再び家を出ていく……悪役のような役割を担っていたのは確かで、実際、視聴者からも反感の声がたびたび寄せられていた。
では、登美子が完全に悪者なのかというと、そうとも言い切れない。嵩が受験した美術学校の合格発表の日、会場には登美子の姿があった。嵩の合格を知るも、嵩本人には声をかけない。
のぶは登美子を悪とみなし「これ以上、嵩を傷つけるのはやめて」と言ってしまったこともあったが、嵩は「それでもこの人に会いたかった」と、母を思う自分の気持ちを貫いた。嵩の中には、家族みんなで美村屋のあんぱんを食べた日の、優しい母の記憶が残っている。自分のあんぱんを分けてくれた母、絵を褒めてくれた母、嵩ならできると自分を信じてくれた母。そんな嵩の思い出を無視して、登美子を悪者だと決めつけるのは違うのではないか。
人は誰しも自分なりの「正義」を持っていると思うが、それはあくまで自分にとっての正義であって、他人から見たら「悪」と捉えられることもある。第1話で嵩が言っていたように、信じていた正義が突然ひっくり返ることもあるし、逆に悪だと敵視していたものが、とある場面では救いになることもあるだろう。正義と正義がぶつかって、衝突することだってあり得るのだ。
「それいけ!アンパンマン」の公式サイトに掲載されている、バイキンマンのプロフィールを見てみると「自分では天才科学者だと思っているが、変なものばかり作ってしまう」「食べ物が大好きで、すぐに横取りをしようとする」と書かれている。
さらには「綺麗なものが大嫌い」と書かれているものの、アニメ内では美しい女性を好んだり、オーロラや星空に見惚れたりと、あまのじゃくな一面もあるキャラクターだ。自分の力を過信してしまったり、人が持っているものが羨ましくなってしまったり、そんな人間の弱い気持ちが反映されているとも考えられる。
そう思うと、私たちはみんなアンパンマンであり、バイキンマンなのかもしれない。来週も『あんぱん』を見ながら、自身の「悪」を受け入れつつ、自分なりの「正義」と静かに向き合っていきたい。
【あわせて読む】松嶋菜々子『あんぱん』で見せた圧倒的な美と存在感─なぜ彼女は今なお輝き続けるのか?