「今、音楽事務所で一番勢いがあるところは?」そう聞かれるとこの事務所の名前を上げる人も多いだろう。BiSH、BiS、豆柴の大群など7つの女性グループを擁するWACKだ。
そのWACKを率いるのが音楽プロデューサーの渡辺淳之介氏だ。

“破天荒”“型破り”そんな言葉とともに語られることの多い渡辺氏に、このほど公開されたWACKの合宿オーディションを追った映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』と、現在のアイドルシーンについて聞いた。(2回連載の1回目)

【写真】精神と体力の限界を超える少女たち…映画場面カット

     *     *     *

――『らいか ろりん すとん-IDOL AUDiTiON-』は2020年に行われたWACKアイドルオーディション合宿を追った映画ですが、コロナ禍でオーディション合宿そのものを中止するという選択肢はありましたか?

渡辺 コロナが騒がれだした2月から興業の中止を考え始めて、オーディション合宿は緊急事態宣言が出るかどうかの時期だったので、やらないほうがいいという選択肢も間違いなくありました。でもオーディションを受ける子たちの中には、そこに向けて1年間頑張ってきた子たちもいるので、その気持ちを無駄にするのは避けたいなと思ったんです。なので世間からの批判も承知の上で、オーディションの候補生に連絡をして、この状況なので選択は任せます、それでも大丈夫な方のみ来てほしいとお伝えしました。その時点で辞退した方もいます。

――本作を観る限り、過去のオーディション合宿よりも、候補生への追い込み方や、渡辺さんの言葉が激しくなかったように感じたのですが、実際の現場ではどうだったのでしょうか。

渡辺 例年と変わらず厳しかったと思いますが、前作までは僕がストーリーテーリング的な見せ方が多かったんです。でも本作は意識的にオーディション候補者と、WACKから参加しているメンバーに焦点を当てた部分が大きかったので、あえて編集の段階で僕の要素を減らしてもらいました。今回は仲の良い2人の候補生と、なかなか殻を破れない候補生。そこに絡まっていくWACKのメンバーという形で、彼女たちのストーリーを反映させたいと思って、監督の方々にお話しさせていただきました。

――オーディション合宿中に映画の核となりそうな候補者は見えてくるものなんですか。


渡辺 僕たちは“覚醒”と呼んでいるんですけど、1週間の合宿で4日目ぐらいまでは全然目立ってなかった子が、いきなり輝きだすみたいなときもあって、僕的には読めないです。それがオーディションの醍醐味でもあります。

――どういう基準で合格、不合格を決めているのでしょうか?

渡辺 どれだけ向き合ってくれるかですね。WACKのオーディション合宿は、スタンリー・キューブリックの映画『フルメタル・ジャケット』みたいなところがあるんです。あの作品では、短期間で新人海兵隊員をソルジャーとして養成するブートキャンプが描かれていますけど、WACKのオーディション合宿もブートキャンプみたいなところがあって。合格した子はすぐにデビューするので、1週間で事務所の戦力となるように育成します。ある種、マッチングみたいな要素も強くあるので、そういうところも含めて、真剣に課題や自分に向き合ってくれるかどうか。単純に僕が一緒に仕事をしたいと思わせる可能性を感じさせてくれるかどうか。そこを軸に見ています。

――候補生によっては、すぐに自分に向き合う姿勢を出せないタイプもいますよね。

渡辺 そうですね。なので、1日目に落ちた子も4日目まで残っていたら可能性もあったかもしれないので、本当に理不尽ですが、運も味方にしないといけない世界なので仕方がないのかなと。


――昨今はパワハラ、モラハラなどの問題が深刻化して、コンプライアンスも厳しくなっていますが、それによって過酷なオーディション合宿がやりにくくなったと感じることはないですか?

渡辺 厳しくしないと成功できない世界だと思っていますし、言葉遣いが少し優しくなったぐらいで、あまり僕自身は変わってないです。僕たちがやっているタレントビジネスって、代わりのいないビジネスなんですよね。極端な話、『らいか ろりん すとん』でフィーチャーされているセントチヒロ・チッチの代わりは一人もいないですけど、僕がいなくなってもBiSHというグループは残りますからね。なのでオーディション合宿では厳しく接する以外に選択肢がないのかなと考えています。

――WACKのオーディション合宿は2016年から行われていますが、応募者に変化は感じますか?

渡辺 おかげさまでBiSHの活躍などもあって、応募者の幅も広がりました。分かりやすく言うと、以前は“WACKのアイドル”になりたくて来てた子たちが多かったんですけど、今は純粋にアイドルを目指している子が増えたのかなと。

――応募者の幅が広がったことの弊害はありますか?

渡辺 選択肢は広がりましたが、WACKのフィロソフィーは変わらないので、本当についていけるのかなというのは感じます。僕たちは、かっこいいことはもちろん、変なことや、ダサいこともやるので、いわゆる“アイドル”をイメージされてしまうと、厳しい部分はありますね。

――過去のオーディション合格者に共通するものは何ですか?

渡辺 一日一日、手を抜かないこと。オーディションに真摯に向き合えるかどうか。自分の限界を超えていこうとする信念みたいなのが見える子が残っていくのかなと思います。

――オーディションの時点で歌とダンスはあまり重視しないんですか?

渡辺 そんなに気にしてないですね。
たとえばダンス面で言うとTWICEみたいに何年も厳しいレッスンを受けている人たちには勝てないので、僕たちは気持ちの部分で勝負したいなと思っています。

※インタビュー後編「NiziUが羨ましいと思う一方、だからこそ共存できているのかなとも」はこちらから。
プロデューサー渡辺淳之介氏が語る「WACK合宿オーディション合格・不合格の決め手」

▽『らいか ろりん すとん-IDOL AUDiTiON-』
1月15日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開
監督:岩淵弘樹 バクシーシ山下 エリザベス宮地
プロデューサー:渡辺淳之介
撮影:岩淵弘樹 バクシーシ山下 エリザベス宮地 白鳥勇輝
出演:BiSH BiS EMPiRE CARRY LOOSE 豆柴の大群 GO TO THE BEDS PARADISES WAgg オーディション候補生
配給:松竹 映画営業部ODS事業室/開発企画部映像企画開発室
2020年/82分/ヴィスタサイズ/2.0ch ステレオ/(C)WACK.INC

▽『らいか ろりん すとん-IDOL AUDiTiON-』公式サイト
http://rolin-ston-movie.com/
編集部おすすめ