2度に渡る緊急事態宣言をはじめ、新型コロナウィルス対策によって大打撃を受けるエンタメ界。中でも特に影響を受けているのが、ライブを活動のメインに置くライブアイドルや、ファン参加の撮影会などを多く開催するグラビアアイドル達だといわれている。
ファンとの1対1の会話、握手、チェキ撮影など、武器である“接触”が避けるべき行為になり、この1年、大きく活動を制限されたことで、解散や引退という道を選んだ人も少なくない。

一方、現状を悲観するだけでなく、前へ進もうと模索している人達もいる。今回はそんな人達の中から、演者と事務所社長という二足のわらじを履く里咲りささん。グラビアアイドルでありながら看護師としても働く桃里れあさんを取材し、リアルな“コロナ渦の活動”に迫った。

【別カット】看護師姿の桃里れあさん&ライブで圧巻のパフォーマンスを魅せる里咲りささん【9点】

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まず話を聞いたのは、グループ活動を経て、現在はソロで活動する里咲さん。2017年には、キャパ2000人のZepp DiverCity TOKYOでの単独公演を成功させるなど、活躍する一方、自ら事務所とレーベルを立ち上げ、アイドル達のサポート活動も行っている。通常であれば、ライブやイベント出演は、年間100本程という彼女。しかし昨年の緊急事態宣言を前に、予定していたものは全て白紙に。この1年の(リモートを除)出演本数は0となり、メディアへの出演もほぼリモートで対応するなど、状況は大きく変化した。収入面でもイベントが軸であったため、窮地に立たされた。

そんな中、「皆が動けない時だからこそ、エンタメで元気になって欲しいと、逆にアクセルを踏みこみ、新しい手を打とうと思った」と、苦しいながらも、配信ライブ、配送不要の写真データ、ボイスデータなどデジタル商品の物販、リモートサイン会などに早くから挑戦した。それらはあくまで従来の活動の代替策だったが、結果的にこれまでとは違った“出会い”にも繋がった。


その一つが、遠方に住み、普段はなかなか会場に足を運べない人達との出会い。九州や沖縄をはじめ、さらには国境を越え、台湾やメキシコからの応援も。また「興味はあったものの、実際に足を運んだことはなかった」という人達が、配信という気軽さから視聴し、そこからファンになってくれた、というケースも多かったという。

ただ収益的には、従来の水準に戻った訳ではなく。自らが運営する事務所の状況も同様で、「生きるか死ぬか。後ろからハイエナが追ってきていて、いま少しでも休んだら食われる」感覚だという。国からの融資などを受けつつ、「資料を作りまくって、(リモートで)営業しまくって、商談しまくっている」とのことで、別企業とのコンテンツ制作をはじめ、これまでとは違った新規事業を開発しながら、日々をしのいでいる。

「新しいことをやらないと潰れると思っていて、例えコロナが収束しても、以前からの形態でやっていたら長くはないと感じていて。新しい可能性を先に探れた人が勝ちだと思っているので、2023年、2025年くらいを見据えて、模索している」といい、これからも戦いは続きそうだ。

続いて話を聞いたのは、昨年グループアイドルを卒業し、グラビアアイドルに転身した桃里れあさん。今年1月発売の1stDVDが、Amazon女性アイドルカテゴリーで売れ筋ランキング1位に輝くなど、注目を集めている。そんな彼女、かつては大学病院に勤務し、現在も週に数日、看護師として働いている。


コロナについては「後遺症を持つ患者さんと接する機会が多く、こんなにも後遺症で困っている人がいるんだなということを、強く感じています。倦怠感が強く残ってしまって、仕事もままならない方だとか、学校にもしっかり行けなくなってしまった方もいる」と話し、さらに「妹が大学病院で看護師として働いていて、実際にコロナにかかっている患者さんの対応もしている。妹との話でも、情報を得たりしています」とのことで、他のアイドルに比べ、より身近でリアル、危難な問題として捉えている。

そんな桃里さんの芸能活動も勿論、コロナによって大きな影響を受けた。昨年5月に予定していたグループ卒業ライブは、延期に延期を重ね、開催されたのは8月。声出しや接触、来場人数も制限され、不完全燃焼に終わった。また、グラビアアイドルとしてスタートを切ろうにも、予定していた仕事も次々と延期に。「すごい不安で。このままで大丈夫なのかなと思った」という。普通なら腐ったり、反発を覚えたりするだろうが、コロナに対して前述のように捉えていたため、「仕方ないこと」とすぐに切り替えられた。

そして、今の自分に出来ることが何かを柔軟に考え、一つの答えにたどり着いた。それは「みんなが家にいてネットを見るだろうから、ひたすらSNSを頑張って知名度を上げていこう」というもの。
持て余す力を最大限、注ぐことにした。「考えてやり続ければ必ず伸びると信じました。ただ写真を載せるのではなくて、これが伸びやすいかなと考えながら選んだり、文章を考えたり、毎日けっこう時間を使っています」といい、結果的に、アイドルをやっていた頃には2000人にも満たなかったInstagramのフォロワーは、半年で3万6000人にまで増加。活動が制限される中で、多くの新規ファン獲得に成功し、DVDの売上好調や、メディアへの露出増加にも繋がった。

また「正しい感染対策について、世の中の人に知って貰いたい」という思いが強くなり、Twitterにて、アルコール消毒の正しい使用法を紹介したところ、「知らなかった」「ためになった」と予想以上の反響が。こうした取り組みも、知名度拡大の後押しになったという。

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攻めの姿勢で切り拓こうとする里咲さん、出来ることを見極め全力を注ぐ桃里さん。冒頭にも書いた通り、2人のように現状に対応できているのは、珍しいケースだ。

里咲さん曰く「多くのアイドルにとって、実際にファンに会うことが人生の一部で、肉親に会えないくらいのダメージがある。現場の空気や、ファンの人同士の会話、ライブの感想を言い合う飲み会など、交流を通して別の楽しさも生まれたりする。コミュニティがバラバラになりつつあるのは、アイドルもファンの人も寂しいと感じている」とのこと。

対応しきれず、苦しみ混乱しながらも、それぞれ試行錯誤を重ね、新たなモノを生み出そうとする中、アイドル界は今後、どのようになっていくのだろうか。


【あわせて読む】芥川賞『推し、燃ゆ』にみるアイドルを“推す”意味とは?「現実逃避ではなく現実と向き合うために」
▽里咲りさ
アイドル、シンガーソングライターとして活動しながら芸能事務所・フローエンタテイメントの社長も務める。@risamusic925

▽桃里れあ
グループ活動を歴て、現在はグラビアアイドルとして活動する傍ら現役看護師としても勤務。1stDVDはAmazonランキング1位を獲得した。@rea_momosato
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