チームで働く職場において、人とのコミュニケーションは基本中の基本でありながら、決して簡単ではありません。その難しさの一因は、コミュニケーションの「方向性」が多岐にわたることにあるでしょう。
最も難しいコミュニケーション相手は誰だ?
その中で、皆さんが最もコミュニケーションに難しさを感じるのは誰でしょうか?おそらく、それは「隣の部門の部長」ではないでしょうか。「あの仕事をやってくれ」と、あなたの上司を通さずに"斜め上"から指示が飛んでくる場合があるかもしれません。
そんなとき、「それは上司に任せたい」と思うのも無理はありませんよね。しかし、実はここがあなたの腕の見せ所なのです。かつて筆者がマイクロソフトに勤めていた頃、「それが君の仕事だ」とよく言われた記憶があります。当時は「そんな殺生な!」と思ったものですが。
なぜ「隣の部門の部長」とのコミュニケーションは難しいのか?
隣の部門の部長とのコミュニケーションが難しいのには、主に2つの理由が考えられます。
まず、異なる優先順位を持っていることです。これは、それぞれの立場や役割の違いから生じるズレです。最終的なゴールは同じでも、部門ごとにその下位のKPIをそれぞれの目標としているため、利害が一致しない例があります。
もう一つは、心理的な距離が遠いということです。あなたの上司や同僚の心理はある程度理解できても、隣の部門の部長と親しい間柄でなければ、まるで"宇宙人"とコミュニケーションしているような感覚になるかもしれません。
筆者も、隣の部門の部長とのコミュニケーションに悩んだ経験があります。そんなときに出会ったのが「アサーション」という考え方でした。私は書籍『アサーション入門――自分も相手も大切にする自己表現法』(講談社現代新書 著者:平木典子)を読んで学びました。そして最近、同じ本を再び購入し読み返しています。なぜなら、同じような悩みを持つ若者から相談を受けたからです。
アサーションとは?
英語の「assertion」には、「主張する」「断言する」といった意味があります。「Assert」という動詞は知っていましたが、海外でのコミュニケーションで使ったことはありませんでした。筆者の中では、かなり強い言葉という感覚だったからです。
しかし、ここでのアサーションは、簡単に言うと「相手の意見を尊重しつつ、それをすべて受け入れるのではなく、自分の意見を主張すること」を意味します。非常に建設的な意味合いが強いのが特徴です。
アサーション実践のための6つのステップ
コミュニケーションで円滑に自己主張するアサーションを実践するには、以下のステップを踏みましょう。これはとっさにできるものではないので、事前に準備ができる状況でぜひ練習してみてください。何度も実践することで、このコミュニケーションスタイルを身に付けられます。
1.自分の要求を理解する
まず、あなたが何を求めているのかを明確にすることが重要です。漠然とした不満ではなく、「具体的にどうしてほしいのか」を整理しましょう。
2.相手の主張を理解する
相手の意見をすべて受け入れるという意味ではありません。相手がなぜそのような主張をしているのか、その背景も含めて理解するのが目的です。相手の立場や置かれている状況を想像してみましょう。
3.伝える内容を整理する
次に、相手に伝える内容を整理します。アサーションは攻撃的な主張ではなく、相手を尊重しつつ自分の気持ちを伝えるものです。
・「私(I)メッセージ」で伝える:相手を非難する「あなた(You)メッセージ」ではなく、「私は~と感じています」「私は~してほしいと思っています」のように、主語を「私」にして伝えましょう。これにより、相手は責められていると感じにくくなります。
・具体的に伝える:「いつも手伝ってくれない」のような抽象的な表現ではなく「先週から〇〇の件で困っていて、手伝ってほしいと思っています」のように、具体的な状況や行動を伝えます。
・期待する行動を明確にする:相手に何を期待するのか、具体的な行動を明確にすることも大切です。例えば、「もっと気遣ってほしい」ではなく「次回からは〇〇する前に一言声をかけてほしいです」のように、実現可能な行動を提案しましょう。
4.タイミングと場所を選ぶ
アサーションを行うタイミングと場所も大切です。相手が忙しいときや感情的になっているときは避け、落ち着いて話ができる時間と、二人だけで話せるプライベートな空間を選びましょう。
5.実際に伝える
準備ができたら、実際に相手に伝えてみましょう。感情的にならず、落ち着いた声のトーンで話すことで、相手も耳を傾けやすくなります。また、相手の表情や言葉から反応を読み取り、必要であれば説明を加えたり、質問に答えたりしましょう。
6.相手の反応を受け止める
アサーションは一方的な主張ではありません。相手の反応も尊重し、対話することを意識しましょう。相手が反論したり異なる意見を述べたりすることもあるでしょう。その際は相手の意見にも耳を傾け、理解しようと努めます。
これらのステップでアサーションを実践することで、より建設的で健全なコミュニケーションを築き、あなたの自己主張が今まで以上に円滑に受け入れられるようになるでしょう。
ちなみに、筆者には結構"ブラック"な一面もあり、うまく自分の意見を通そうと考えることがあります。そんな時は、まず相手の性格や思考の癖をできるだけ理解しようとします。そして、それに合わせて、うまくこちらの意見を刷り込ませる作戦を練るのです。相手に気持ちよく受け入れてもらいながら、こちらの意見を通す。我ながら、悪いやつですね(笑)。
北川裕康 キタガワヒロヤス 35年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。現在は、独立して経営・マーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら、AI insideの Chief Product Officer(CPO)を担当。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。