キャッシュレス決済比率が4割を超えた日本ですが、逆に言えば支払いの6割は現金のままです。そうした中で10代のキャッシュレス比率の増加が期待されています。
ただ、単に10代がキャッシュレス決済に移行すればいいという話ではなく、安全な使い方を学んでいくことも求められます。10代のキャッシュレス事情について、MMD研究所が高校生とその保護者を招いて開催した座談会の様子から考えてみたいと思います。
お小遣いはその都度、管理はせず
この座談会には、PayPay利用を中心にしているという2組の親子と、楽天ペイ中心に利用している親子が1組、そして同じく楽天ペイを中心に利用している高校生が1人という4組7人の参加者が、キャッシュレス決済の利用状況について話し合いました。参加者の中には、現金とキャッシュレス利用が半々という人もいれば、財布を持ち歩かずにほとんどキャッシュレス決済という人もいて、それなりにキャッシュレスの利用比率は高いようです。
高校1年生よりは高校3年生の方が積極的にキャッシュレス決済を使っているようで、また中には高校生になってからキャッシュレス決済を使い始めたという人もいて、利用歴が長いほど利用率は向上していくのでしょう。高校生たちは定期券は利用しているようですが、それを電子マネーとしてはあまり利用していないようでした。
今回の参加者は高校生なので、通常クレジットカードは持てないのですが、現金チャージを行うコード決済は高校生でも利用できるため、残高の範囲内で利用しており、その残高は主に親からの送金によってチャージしているようでした。
こうした決済残高は“お小遣い”という位置づけのようですが、「毎月定額を入金する」というよりも「その都度必要な額を入金する」という親子が多かったのが印象的です。同時に、子どもの利用状況や利用履歴を管理していないという親の回答も多くありました。
グローバルで見ると、お小遣いを定額で渡して親が履歴を管理するかどうかは、国により事情が違うようです。例えばRevolutが9月5日に発表した調査によれば、アジア太平洋地域の4カ国では、定額のお小遣いを渡す例は日本より少し高い程度ですが、「子どものお小遣いを管理していない」という回答が日本では5割を超えたのに対し、シンガポールでは9%にとどまっていました。
今回の座談会の参加家庭では、支払いが足りないときや必要なときにお小遣いを渡して細かい用途は尋ねないなど、子どもの自由に任せている傾向がありました。もちろん、親は渡している金額を把握しているため、問題のある使い方があれば確認することもできますし、渡した金額以上は使えないので過剰な利用にはならないという判断もあるのでしょう。
学校での金融リテラシー教育はまだまだ不十分
こうした状況では、学校の金融リテラシー教育が期待されるところです。ところが座談会に参加した4人の高校生はいずれも学校での金融教育を受けたことがないと回答。1人は、「別のクラスの先生が教えていた」と話していたため、学校全体のカリキュラムには組み込まれていないようです。
調査でも、日本は他国に比べて学校の金融リテラシー教育に対する評価が低いようで、効果的な教育が家庭でも学校でも行われていないのかもしれません。
座談会に参加した4人の高校生に聞いたところ、うち2人は学校へのスマートフォンの持ち込みが可能で、1人の学校では朝にスマートフォンを回収するルールになっており、もう1人の学校ではスマートフォンの持ち込みが禁止されているとの回答でした。今や金融リテラシーにスマートフォンの存在は欠かせないでしょう。その点で、学校は生徒のスマートフォン持ち込みを許容した上で教育することが必要なのかもしれません。
座談会では、コード決済アプリの送金機能の利用状況について、親から子への残高送金では利用されているものの、高校生の間では送金機能の利用者が少ないため、割り勘などの際には現金での受け渡しが多いとの声も聞かれました。
こういった座談会に参加する親子ですから、普段からキャッシュレス決済を使っている人たちです。ですが話を聞くと、実際はまだまだ周囲のキャッシュレス決済があまり広まっていないことがうかがわれます。
高校生になると、アルバイトをして自らお金を稼ぎ始める年頃です。お小遣いだけではなく、子供自身の収入が増えると、改めてお金に関する教育が必要になってきます。学校側の金融教育も重要ですし、家庭での教育も必要になるでしょう。
2023年の金融広報中央委員会の調査では、15歳(高校1年生)の半数が中学校の授業でお金について学んだと回答しています。ただ、金融リテラシースコアが低い人が3割近くいて、最低限の知識が身についていない生徒も多いとの分析がなされていました。
つまり、高校でも金融リテラシー教育を継続することが大事ということです。安全で健全なキャッシュレス決済の拡大に向けて、業界全体での取り組みが今後さらに必要とされるでしょう。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。