愛用する腕時計を手がかりに"人生の時"を語ってもらうインタビュー連載『夢を刻む、芸人の時計』。テレビでおなじみのあの芸人は、どんな若手時代を過ごし、ブレイクの瞬間を迎え、どうやって未来を刻んでいくのだろうか? そのストーリーに迫る。


本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ トータルテンボスの大村朋宏さん。1975年4月3日生まれの静岡県御殿場市出身。1997年にNSC (お笑い養成所)東京校の3期生として入学し、小学生からの幼なじみである藤田憲右さんとトータルテンボスを結成。10月4日(土)より全国漫才ツアー2025「半世紀」がスタートし、全国14箇所16公演で開催する。
○麻雀に明け暮れた大学時代に芸人を志す

――人生で初めて購入した時計は覚えていますか?

昔はあんまり時計に頓着していませんでした。だからよく覚えていませんが、初めて買ったのはスウォッチだったかもしれないですね。高校生ぐらいの頃に流行っていた時期があって、確か当時の彼女にプレゼントするついでに自分のも買ったんじゃなかったかなと思います。

――大村さんはどんな高校生だったんですか?

今年の高校生クイズで優勝した沼津東高校に通っていました。地元でも有数の進学校でしたが、僕は遊びまくっていましたね。友達の家やたまり場みたいなっている下宿先に夜な夜な集まっては、麻雀、麻雀、ファミスタ、麻雀、ファミスタ、麻雀みたいな感じでした。

――その後、明治大学に進学するも中退。そしてNSC東京校ということですが、これはどういった経緯でしたか?

楽しいから大学には毎日行っていましたが、授業には出ず学食にたまってはメンツを探して雀荘通い。
気づいたら2年間で単位が2つしか取れていなくて、これはヤバいとふと我に返りました。2回目の2年生、3回目の2年生と留年が決まって、「なんだよ、来年の春からまた2年かよ」となり――。じゃあもう大学は辞めよう、来年からはNSCに行こうと思って藤田に声をかけたんです。

藤田は小学校からの同級生で、違う大学に通っていたのですが同じようにくすぶっていて。毎日、一人暮らしをしていた千葉の自宅でドラクエ三昧です。それもレベルを99まで上げたらリセットして、また99まで上げるっていうクソみたいな生活をしているのを知っていたので(笑)、誘ったら2つ返事でやるって言ってくれました。

「俺も大学は辞めるからはお前も辞めてくれ」って言ったら藤田も「わかった」と言って、2人で大学を辞めてNSCに入学しました――と思っていたのは俺だけで、後に発覚するんですが、藤田は保険をかけて大学に籍を残していて実は辞めていなかった。本当、ふざけんなですよ(笑)。

――初舞台の時のことは覚えていますか?

NSC生として初めて立った舞台にはめちゃくちゃ友達を呼んだので、俺らだけめちゃくちゃウケて、もう独壇場みたいな感じでしたね。

NSCを卒業した後の芸人としての初舞台は、1分ネタの舞台で。ロンドンブーツ1号2号さんとかを目当てにくるお客さんを相手にネタを披露していたなかでも、全部ウケたんですよ。

そのステージでトップの記録をたたき出し、舞台にレギュラーで出られるようになった頃には、"なんかすごい若手がいるらしいよ"と噂になるくらいでした。


でも、その頃は鉄板の2つのネタでずっと回していて、何ていうか新人らしからぬですよね。普通、新人だったら、毎日のようにネタを考えては滑ってを繰り返してだんだんと仕上げていくのに、いきなりウケるネタが2つできたからってそればっかりなんて。もちろん、社員の方の目にも止まるし、先輩方にも怒られたりしたんですが。

――いまお話に出た最初にできたウケるネタ2本を、あらためていま見返すとどうですか?

わかりやすい、かつ古くさくないボケばっかりを集めた感じのネタですが、よくそのレベルでやっていたなと思いますね(笑)。賞レースですごい発想だとうならせるようなネタでは決してないです。でも、こぢんまりと完成している分、いまでも多少は成立するんじゃないかなとは思います。

○「M-1」で漫才の魅力に取りつかれ、いまも芸人の世界に

――これまで順風満帆といった感じですが、そんな大村さんでも芸人を辞めたいと考えたことはありますか?

もちろんあります。2001年に『ルミネtheよしもと』ができたこともあって、全国各地からたくさんの芸人が東京に集まってきました。

大阪からは次長課長さん、チュートリアルさん、ブラックマヨネーズさん、野生爆弾さん、北海道からタカアンドトシさん、九州からはパンクブーブーさんや博多華丸・大吉さん――みんな面白くて。これはえらいことになったなとちょっと焦ったんだと思います。

この人たちと競いながら売れる順番を待っていたら、最低でも5年はかかるんじゃないかって。

それで藤田に「辞めよう。
早い決断こそ一番頭がいい。ズルズルいくのが一番良くない」って言いましたね。

――それはまたある意味で思い切った判断ですね。

こう言うと少し失礼かもしれませんが、芸人しか道はないと思ってこの世界に入っていなかったことは大きいかもしれません。最初はいろいろやろうというなかで、面白そうだからまずは芸人を試してみるかぐらいの気持ちでした。それでやってみたら面白いし、ある程度結果も残せましたが、思ったよりも早く売れないから違うことやろうかって感じですね。

その頃、藤田に200万円ぐらい借金があって、僕が誘っちゃったからそんな状況になってしまっていることも申し訳なくて。結果売れたらいいけど売れないパターンもあるじゃないですか。だったら芸人を辞めて、まずは2人でマグロ漁船に乗って借金を返そう。それからまた何か別のことを考えればいいじゃんって思っていました。

藤田には「借金あったって売れればいいじゃん。こんなに売れそうなのに」と反対されましたが、最後には説得して、2人でルミネtheよしもとの支配人に伝えに行ったんです。


そうしたら「『M-1』が今年から始まんねん。お前らは漫才やったことないやん、これ結構大きいで、夢あるで。一気に順番抜かしできるチャンスやで」って言われて。

「お前らだけを贔屓するわけにはいかないから平等には見るけど、男としていま辞めるのはもったいない」と、引き留めてくれました。

――それで、辞めない決断をされたんですね。

1年目のM-1は2回戦で敗退したんですが、初めて漫才をやったのに、1回戦をクリアしたというのが大きくて。これはちょっと突き詰めると可能性はありそうだと思いました。

2年目、3年目は準決勝まで進んで、2004年には決勝まで残って。その年はアンタッチャブルさんが優勝するんですけど、その人たちと肩を並べるくらいになれた。

――2007年には準優勝を果たされていますね。

最初は1年やって結果が出なかったら辞めようと思っていたんですが、一念発起して漫才を始めてみたら、その魅力に取りつかれて、いまがあります。
○ロレックスマラソンは時計に"出会えた"っていう感じがいい

――いま一番大切にされているのはどんな時間ですか?

やっぱり娘と遊んでいる時間は、いまが人生のピークなのかなって思うぐらいとても幸せです。
息子はもう大学生なので、あとは普通に立派に育ってくれ、としか思わないですけど。娘は小学5年生で、いまはまだ好き好きしてくれているので、一緒にディズニーに行ったり、鹿児島旅行に行ったり――すごくいい時間です。

それから、趣味の時間は大切にしています。ツアーの準備やYouTube撮影などで結構忙しいのですが、「この日は休みにして」とマネージャーに頼んで、ゴルフや麻雀をする時間は確保しています。趣味の時間があるから、それ以外が頑張れるっていうところはあると思いますね。

――いま一番大事にされている時計は?

ロレックスの"グリーンサブ"です。いわゆるロレックスマラソンで2年ほど前に購入しました。

ルミネの舞台の合間などにいまはなくなってしまった伊勢丹のロレックスにフラっと行って「ありますか?」と。だいたいは、ないのですが、こっちも別に焦ってもないし、あればいいなぐらいだし。それで、たまたまあった時の"出会えた"って感じがいいんです。

呼ばれる時のドキドキもたまらないですね。お目当ての時計ではないパターンもありますが、部屋に招かれる時のあの瞬間はなんとも言えない高揚感があります。


――いま持っているのはグリーンサブだけですか?

GMTも持っていますが、グリーンサブの方がガシガシ使えるので気に入っています。GMTは鏡面仕上げでピカピカだけどちょっと傷が付きやすい、グリーンサブはサテン仕上げで傷が付きづらい。子どもと川遊びをする時に着けていても気にしなくていいので、重宝しています。

○高級時計に見合う自分になることが目標

――いつか手に入れたい時計ってありますか?

パテック・フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンと並んで世界三大高級時計ブランドと言われるオーデマ・ピゲは着けてみたいですね。いつかはと思う半面、僕は資産としてよりも着けたいタイプなので。そんなバカ高い腕時計を買う意味はあるのかとも思います。

高級時計なんて上を見ればキリがないですが、身の丈にあった時計を探したいという思いはあります。身の丈に合わなすぎる時計は恐れ多いし、そんな時計を着ける身分ではないということはわきまえつつ、目標というかちょっと上の腕時計に見合う自分になっていくために着けているところはありますね。

――この時計と、これからどんな時間を刻んでいきたいか教えてください。

自分の目標になってくれる存在として一緒に成長していきたいですね。グリーンサブを着けていると、「この時計に恥ずかしくない男になろう」という気持ちになります。

やっぱり時計や車にはそういうところがあると思っていて、車だって乗っていれば人から見られるからオラつかないようにしているし、クラクションを鳴らされても僕は道を譲るようにしています。

――最後に、10月4日にスタートする全国ツアー「半世紀」の意気込みをお聞かせください。

ツアータイトルは毎年その時僕らを担当しているマネージャーがつけるのが恒例で、僕らには拒否権がありません。歴代マネージャーのなかには、「天下統一」とか思わず「本気かよ」「止めてくれ」とツッコミたくなるタイトルを出されたこともありました(笑)。それに比べて今回の「半世紀」は、今年50歳になる僕らだから50年(半世紀)と意味もわかりやすい。全国ツアーは毎年気合いを入れていますが、節目の年ということでより気合いも入っています。ぜひ足を運んでいただけると、うれしいです。

トータルテンボス全国漫才ツアー2025「半世紀」
・チケット料金:4,000円(前売)、4,500円(当日)
【静岡公演】沼津ラクーンよしもと劇場/10月4日(土)、10月5日(日)
【千葉公演】よしもと幕張イオンモール劇場/10月11日(土)
【高知公演】高知県立県民文化ホールグリーンホール/10月13日(月祝)
【愛知公演】名古屋市青少年文化センター(アートピア)/10月17日(金)
【宮城公演】電力ホール/10月25日(土)
【鹿児島公演】ライカ南国ホール/10月26日(日)
【北海道公演】共済ホール/10月31日(金)
【広島公演】西区民文化センター/11月1日(土)
【茨城公演】つくばカピオホール/11月7日(金)
【熊本公演】熊本城ホールシビックホール/11月14日(金)
【新潟公演】新潟市民プラザホール/11月22日(土)
【大阪公演】なんばグランド花月/11月28日(金)
【福岡公演】福岡大和証券劇場/12月6日(土)
【東京公演】ルミネtheよしもと/12月12日(金)、12月13日(土)

安藤康之 あんどうやすゆき フリーライター/フォトグラファー。編集プロダクション、出版社勤務を経て2018年よりフリーでの活動を開始。クルマやバイク、競馬やグルメなどジャンルを問わず活動中。 この著者の記事一覧はこちら
編集部おすすめ