●「特別な心構えでやらなきゃいけない」タイトル
松本幸四郎主演、池波正太郎原作『鬼平犯科帳』シリーズの最新作『鬼平犯科帳 兇剣』が、時代劇専門チャンネルで2026年1月10日(13:00~、19:00~ほか)に独占初放送される(時代劇専門チャンネルNETで独占配信、YouTubeチャンネル「24/7 SAMURAI-SHINOBI」で世界同時配信)。第7弾を数える同シリーズをエグゼクティブ・プロデューサーとして仕掛けたのは、25年6月に「時代劇専門チャンネル」と「日本映画専門チャンネル」を運営する日本映画放送で初のプロパー社長となった宮川朋之氏だ。
1969年から名優たちが演じてきたこのタイトルで新たに挑戦しているのは、メディアミックス展開など放送にとどまらないIP(知的財産)戦略。そこで見えてきた可能性とは。今シリーズの成立経緯や幸四郎率いる抜群のチームワークなど、話を聞いた――。
○幸四郎にオファーするまで5年の歳月
2024年1月に放送をスタートした松本幸四郎主演の『鬼平犯科帳』。この出発点は、1989年から28年にわたって続いた中村吉右衛門主演シリーズの4K化構想だった。
当時編成制作局長だった宮川氏が、当時の社長・杉田成道氏(現・取締役相談役)に「4Kにして多くの人に見てもらいたいんです」と、約150作品という膨大な話数におよぶシリーズの4K化について相談すると、杉田氏からは「新しい『鬼平犯科帳』を作るのはどうか?」という提案が返ってきた。
その発想に納得しながら、「主演は誰がいいと思う?」という杉田氏の問いに、即座に頭に浮かんだのが十代目松本幸四郎。「“幸四郎さんしかいないでしょう”と言ったところ、“私もそう思う”と杉田からも賛同を得て、ここからすべてが始まりました」とプロジェクトが動き出した。
このやり取りの後、実際に幸四郎に会ってオファーするまでには5年もの歳月を要した。
「『鬼平犯科帳』という作品は大ベストセラー作品なので、まずは関係各所のご理解をいただかなければいけません。放送局としては後発の弊社が『鬼平犯科帳』をしっかり作るとなると、制作予算を工面するために編成費などを調整する必要があります。他にも、ありとあらゆることに時間がかかりました」
日本映画放送では2010年から、概ね毎年1作品のペースでオリジナル時代劇を制作。
こうした準備を整え、いざ幸四郎にオファーすると、本人は大いに喜んだという。
「御祖父様(初代松本白鸚)も叔父様(二代目中村吉右衛門)も演じられていたので、ご自身も覚悟を決めて受けてくださり、本当に喜んでくださいましたね」
○全部を受け止める座長が作るチームワーク
幸四郎率いるキャスト陣は、何十年もともにしてきたような抜群のチームワークを築いている。25年6月に初開催されたファンイベントで、平蔵が右腕と重用する筆頭与力・佐嶋忠介を演じる本宮泰風は幸四郎について、「人の上に立つ人の中ではすごく珍しいタイプだと思います。50年以上生きてきた中で、あまり出会ったことのない、すごく人間らしい方です」と、親しみやすい存在であることを話していた。
宮川氏は「幸四郎さんに余裕があるからこそ、全部受け止めてくださる。座長は少しピリッとされていたりすることもあるのですが、幸四郎さんはいい意味で“ゆるさ”もありつつ、やるときはピリッとする。その独特の感じが、人格・人望としてキャスト、スタッフに伝わっているからこそ、現場にいい雰囲気ができていますし、皆さんの幸四郎さんへのリスペクトがあるから、あの関係性が成立しているんです」といい、そのチーム感は第1弾のクランクイン直後にはできあがっていたそうだ。
幸四郎主演の新たな『鬼平犯科帳』では、本編放送後にキャスト陣が登場して撮影秘話などを振り返る「アフタートーク」も放送(※時代劇専門チャンネル限定)し、視聴者から好評を得ている。俳優陣がプライベートなどを明かしながら和気あいあいとトークをする姿を見せることに慎重な声もあったが、「 “こんなにわちゃわちゃと楽しそうな人たちが、あれだけリアルな芝居をするんだ”というギャップを見せることで、俳優としてのスキルの高さが際立つのではないかと思います」と捉え、継続しているという。
そのアフタートーク(「暗剣白梅香」編)を公開収録した6月のファンイベントも、ファンの熱量が高く、「先日、高麗屋(※幸四郎の屋号)さんのファンミーティングに伺ったら、“『鬼平』のファンイベントは今度いつやるんですか?”とファンの方に聞かれました。幸四郎さんとは“最終的には東京ドームでやりたいね”なんて話をしています(笑)」と意欲を示している。
●「自分たちのコンテンツ」の意識で組織活性化
幸四郎主演シリーズを展開する中で改めて実感したのは、『鬼平犯科帳』という原作の強さ。「みんなこのタイトルを知っていますよね。ある会社の方からは“僕は時代劇があまり好きじゃないけど、『鬼平犯科帳』は知ってるからすごい銘柄なんですよね”と言われました」と、抜群の知名度を誇る。
毎回登場するゲストは、オファーをすると「『鬼平』ですか!?」と驚きと喜びの反応があるのだそう。宮川氏は「そういう作品は、なかなかないですね。かつての『北の国から』や、『古畑任三郎』の犯人役のように名誉なことと感じていただけているのだと思います」とブランド力もあるからこそ、「改めて映像化するとなると、吉右衛門さん主演のシリーズと比べられたりもしますし、それだけ作品に対する重みを感じています」と覚悟を持って取り組んでいる。
この強みを生かした幸四郎主演シリーズの大きな特徴が、メディアミックスだ。時代劇専門チャンネルでの放送、時代劇専門チャンネルNETでの配信、劇場上映、朗読劇、ラジオドラマ、ファンイベント、オリジナルグッズの販売に加えて、松竹が歌舞伎として公演するなど、次々に従来のテレビ時代劇の枠を打ち破る展開を見せている。
背景にあるのは、制作予算の確保。「従来の放送や配信だけに頼った収益構造から一歩進んで、IP化することによって制作体制を強固にして作り続けよう、という発想でスタートしました」といい、これだけバラエティに富んだ展開でも「まだ走り始めたばかりです。イメージはもっと膨らんでいます」と構想が広がる。
各セクションでIP展開に取り組むことが、会社にとっての原動力にもなるそうで、「従来の有料専門チャンネルにありがちな完成された作品を権利元から許諾をいただいて放送するだけではなく、“自分たちのコンテンツなんだ”という意識があると、やはり社員のモチベーションは高くなります」と、組織を活性化させる効果を生んでいるそうだ。
○原作者側も太鼓判「いいですね!」
多岐にわたるIP展開を進めるには、原作者側の理解も不可欠だが、「映像化されることで、改めて今、原作が読まれているそうです。お客様は映像を見て、原作を読んで、という形で楽しみが倍になるんですよね。だから、映像化は原作にとっても良いことだと受け止めてくださっていて、他の展開の提案にも寛大に応じてくださいます」と後押ししてくれている。
一方で、絶対に譲ってはいけないラインもある。
「池波正太郎先生の作品に登場する人物の描き方ですね。映像の都合やプロデューサー、ディレクターの判断でキャラクターが本来持っている魅力と違う方向に導くことは、1968年の刊行以来、3000万部以上発行されている『鬼平犯科帳』の原作ファンを裏切ることになる。そうならないよう、一番気をつけています」
それは決して、厳しい縛りとは捉えていない。「キャラクターの“側”は変えてもいいけど、“根っこ”を変えないということです。そこをきちんと守れば、表現としての自由度は認めてくださります」とのことで、キャスティングについても「火付盗賊改方メンバーは“江戸の町のFBI”というコンセプトでオファーをさせていただいたのですが、池波先生の原作を管理されているオフィス池波様も“いいですね!”と言ってくださっています」と太鼓判を押しているそうだ。
○『侍タイムスリッパー』と『鬼平犯科帳』が夢の“共演”
そして、1月10日に放送・配信するシリーズ最新第7弾『鬼平犯科帳 兇剣』の注目は、第1弾『本所・桜屋敷』にも登場した平蔵の親友・ 岸井左馬之助役として、『侍タイムスリッパー』のブレイクを経て再び登場する山口馬木也と、幸四郎の再タッグ。「幸四郎さんと馬木也さんの関係が“実際に親友だった!?”と思ってしまうくらい、すごくいいんです。『侍タイムスリッパー』と『鬼平犯科帳』の“共演”ですから、見どころになると思います」と予告する。
ストーリーは、平蔵が休暇を取って京都に父の墓参りに行くところから始まる。「『鬼平』といえば、江戸の街で盗賊たちを取り締まるというイメージが強いですが、今作は京都に向かうロードムービーになっています。京都に行くまでの景色、着いてからの景色、その美しさも楽しめて、いつもの『鬼平』とはちょっと違う雰囲気があって、面白いと思います」とのことだ。
●宮川朋之1967年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部卒業。98年「日本映画専門チャンネル」「時代劇専門チャンネル」の開局から編成、企画を担当。時代劇専門チャンネルのオリジナル時代劇、35作品以上の企画、プロデューサーを務める。主な劇場映画として『最後の忠臣蔵』(杉田成道監督)、『LIAR GAME The Final Stage』(松山博昭監督)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(岩井俊二監督)、『Ribbon』(のん監督)、『仕掛人・藤枝梅安(一)(二)』(河毛俊作監督)、同作品で23年、第42回藤本賞新人賞を受賞。松本幸四郎主演『鬼平犯科帳』シリーズ(山下智彦監督)、『おいハンサム!!』(山口雅俊監督)連続シリーズ&劇場版のエグゼクティブ・プロデューサー。25年「伊丹十三4K映画祭」、アクション時代劇『SHOGUN'S NINJA』(坂本浩一監督)を企画。22年常務執行役員、25年6月から現職。

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