ミュージカル、ライブ、映画、コミック……テレビバラエティの常識の“壁”を打ち破り続けてきた『有吉の壁』(日本テレビ系、毎週水曜19:00~)が、また新たな挑戦で道を切り開いた。きょう16日から3週間限定で全国公開される『有吉の壁 劇場版アドリブ大河「面白城の18人」』は、AI時代に突入したエンタテインメント業界に一石を投じる作品になるかもしれない――!?

久米宏さんも認識していた…ムチャブリの奇跡

「アドリブ大河」は、時代劇の世界観の中で、有吉弘行のムチャブリを受けて即興の体当たり演技を披露していく企画。
今回の劇場版は、多忙な有吉監督が撮影初日に4つのシーンをムチャブリ撮影し、良かった演技を採用するオーディション形式で配役を決定。その間をつなぐシーンは芸人たちに丸投げされ、辻褄を合わせていくことになる。

見どころはもちろん、追い込まれた状況から芸人たちがアドリブで起こす奇跡の瞬間。『有吉の壁』がこれまで何度も実証してきた“笑いの火事場の馬鹿力”が、いかんなく発揮されているが、有吉や番組スタッフの壁芸人たちへの信頼がなければ成立しない企画であることを改めて感じさせられる。

先日亡くなった久米宏さんの自叙伝『久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった』を読んでいると、『ぴったしカン・カン』で共演したコント55号では、萩本欽一に無理難題をふっかけられた相方の坂上二郎さんが困惑しながら必死に応えようとする悪戦苦闘ぶりで爆笑を生んでいたことに触れ、『ザ・ベストテン』では山口百恵さんに信頼を置いて台本ない質問をぶつけ、初めて見せる表情を引き出していたことが記されていた。

ムチャブリが奇跡の瞬間を生むことは先人たちも認識していたものの、その“点”を作品という“線”に昇華させるには至っていなかった。無理難題を突きつけられ続けたAIはPCやスマホのCPUを過熱させるかもしれないが、その温度が思いもよらぬ返しを生み出す可能性の高さに比例することはないだろう。

○思考回路が垣間見える打ち合わせ風景の面白さ

そしてこの映画で注目したいのは、芸人たちとスタッフによる打ち合わせの風景。即興で演じた結果、重要な配役に決まった芸人が、収録後に具体的なストーリーや背景を考えていくのだが、前後のシーンが決まっているという縛りがある中で、常人では思いつかない発想が次々に飛び出すのだ。

真剣な眼差しで「これだったらどうですかね?」と、双方が議論を重ねて生み出されるアイデアは、過去の事例の学習から最適解を出すAIに聞いても、到底返ってこないようなものばかり。それでいて決して荒唐無稽に終わらず、きちんと設定に落とし込もうと悩み、もがく姿は、まさにクリエイティブの現場だ。


筆者が毎度足を運んで観覧する『久保みねヒャダこじらせライブ』(フジテレビ)では、漫画家の久保ミツロウ、コラムニストの能町みね子、音楽クリエイターのヒャダインの3人とゲストが、即興で楽曲や芝居などを作り上げていく企画が行われている。まるでクリエイターたちの思考回路を覗き込んでいるような気分になり、それもまた一つのエンタテインメントになっているのだが、今作の打ち合わせシーンを見て、そんな感覚を想起した。

この打ち合わせシーンは映画本編にも登場するが、YouTubeではロングバージョンが公開されている。それを見てメタ的視点も持ち合わせながら劇場で鑑賞すれば、より重層的に作品を楽しめるに違いない。
○「国宝」「イワクラの演技」…図らずも生まれた縦軸

有吉はこの映画の発表時から「『国宝』を越えます」と意気込んでいたが、とにかく明るい安村も『国宝』の名シーンをとにかく差し込みたいとアピールするなど、劇中ではみんなが“『国宝』やりたい願望”を随所で吐露。

さらに、酷評されたイワクラ(蛙亭)の演技力の“成長”を追っていくことになるというストーリー展開とは別の縦軸も、バラエティ発の映画ならではの構造として楽しい。幼少期を演じる名子役との演技力の逆転現象は、鑑賞後に思い出すだけで笑いが込み上げてくるはずだ。

有吉の壁 劇場版アドリブ大河「面白城の18人」
同時上映~映画「京佳お嬢様と奥田執事~京佳お嬢様パリへ行く~」
1月16日(金)より 3週間限定 全国公開
(C)Nippon Television Network Corporation
配給:TOHO NEXT
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