東京五輪に参戦するU-24日本代表は、7月17日に行われる大会前最後の強化試合でU-24スペイン代表と戦う。スペインは東京五輪の優勝候補筆頭だ。
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U-24スペイン代表メンバーには、今月11日にイタリアの優勝で幕を閉じた「UEFA EURO 2020 サッカー欧州選⼿権(ユーロ2020)」に出場しベスト4まで進出したフル代表から、GKウナイ・シモン、DFエリック・ガルシア、パウ・トーレス、MFペドリ・ゴンサレス、FWダニ・オルモ、ミケル・オヤルサバルの6人がエントリー。この6人全員が7月6日に行われたユーロ準決勝のイタリア戦に出場している。延長120分間を1-1で終えPK戦で新王者に屈したものの、途中出場のパウ・トーレス以外の5人は先発だった。さらに東京五輪にはオーバーエイジ枠として、MFダニ・セバージョス、ミケル・メリーノ、FWマルコ・アセンシオの3人が加わっている。
つまり、今回のU-24スペイン代表「ラ・ロヒータ(スペイン育成年代代表呼称)」は、限りなく「ラ・ロハ(スペインフル代表の呼称)」に近いB代表以上のチーム編成である。

スパニッシュとフレンチの“良いとこ取り”
率いるのは、スペインのラ・リオハ自治州出身のルイス・デ・ラ・フエンテ監督。スペインは多民族国家であるが、ラ・リオハ自治州はバスク自治州の名門で“純血主義”を貫くアスレティック・ビルバオが本拠に定める地域だ。デ・ラ・フエンテ氏自身も現役時代はビルバオやデポルティーボ・アラベスなどのバスク州のクラブで長くプレー。指導者転身後もビルバオのセカンドチームやアラベスでの指揮経験もある現在60歳のベテラン監督である。トップチームの監督としての実績は乏しいが、2013年に現在の東京五輪世代に相当する年代の代表監督に就任。2015年にはU-19欧州選手権、2019年にはU-21欧州選手権で優勝に導くなど、育成年代の指導者としてはエキスパートである。
今回の五輪メンバーには世界最高の育成機関を持つバルセロナの下部組織出身であるDFガルシアやオスカル・ミンゲサ、フアン・ミランダ、マルク・ククレジャ、FWオルモが選出されている。ただ、“バルサ産”が不作である現在、GKウナイ・シモン、MFメリーノ、マルティン・スビメンディ、ジョン・モンカヨラ、FWオヤルサバルなど、スペインで最も自給自足が奏功しているバスク州のクラブで育成された選手が多い。
ではどう戦うのか?筆者は、日本の男子サッカー界初の女性指揮官となったスペイン人ミラグロス・マルティネス監督(7月5日にJFL鈴鹿ポイントゲッターズを退任)をよく取材していたが、彼女の言葉の中に「選手の特徴を活かすサッカー」というキーワードが頻繁に出て来た。スペインと言えば「パスサッカー」がイメージされるが、個々の選手の特徴を活かすためにパスサッカーを主体とすることが多いだけで、最も大事なことは「選手の特徴を活かすこと」なのである。
料理で例えると分かり易い。スペイン料理は肉や魚などの素材の良さを活かすレシピが主である。逆に、ソースでしっかりとした味付けが特徴なフランス料理も美味である。MFメリーノやスビメンディ、FWオヤルサバルが在籍しているレアル・ソシエダが本拠を置くバスク州ギプスコア県のサンセバスチャンは地中海に面し、「世界で最も三ツ星レストランが多い」地区の1つである。そして、地中海を挟んだ北側にはフランスがある。また、バルセロナやエスパニョールが本拠を置くカタルーニャ自治州も隣国フランスとの国境沿いに位置している。バスクやカタルーニャの料理は、スペイン料理とフランス料理の“良いとこ取り”をしていると表現される。
サッカーでもそれは同じで、前線の選手の特徴という素材を活かすために、最終ラインから丁寧にパスを繋ぐ足下の技術に長けたGKやDFが多く輩出されている。

10年に1人生まれるカナリア諸島の天才MF、ぺドリ
今回のU-24スペイン代表で最も注目を浴びるのはバルセロナに所属するMFぺドリだろう。世界的名門バルセロナとスペインフル代表でレギュラーを担う若干18歳の選手だが、ぺドリは“バルサ産”ではない。
ぺドリはアフリカ大陸に近く、北大西洋に浮かぶスペイン国土のカナリア諸島出身である。地元のUDラス・パルマスで育てられ、16歳でトップチーム契約。即デビューも飾った。プロ契約締結後2カ月も経たないうちにバルセロナが引き抜き、その後1年間はラス・パルマスへレンタル移籍する形で残留。スペイン2部とはいえ、年間通して主力としてプレーした。
真冬でも日中の気温は25℃あるカナリア諸島では、牧歌的な雰囲気の土地に合った古き良き時代のラテンスタイルのサッカーが志向される。パスワークを重視するそのスタイルから「10年に1人天才MFが生まれる」伝統があり、ファン・カルロス・バレロン(46歳)や、ダビド・シルバ(現レアル・ソシエダ、35歳)が輩出され、その最新版としてアップデートされたのが、ぺドリである。
筆者は、2019年10月から11月にかけてブラジルで開催された「FIFA U-17ワールドカップ」に出場していたU-17代表時代のぺドリを観たが、すでに現在のようなアンドレス・イニエスタ(現ヴィッセル神戸)と比較されるようなボール捌きを披露。チームはベスト8で敗退するも、ぺドリは素早く的確な状況判断力で全く相手にボールを奪われない存在感を放っていた。
その後、2020年の夏から正式に加入したバルセロナでもあまり時間をかけずに主力として定着したぺドリは、「リオネル・メッシの最高のパートナー」と表現されるまでに至っている。

スペイン新時代の旗手ダニ・オルモ
東京五輪では、オルモ、オヤルサバル、アセンシオのような本職がセンターフォワードではないタイプの選手を「偽CF」として起用する案が浮上している。特にユーロ2020の準決勝、イタリア戦で偽CFとして先発起用されたオルモには期待がかかる。
ぺドリがラス・パルマスで育成され、バルセロナでプロとして才能を開花させたのとは逆に、オルモはバルセロナの下部組織出身でありながら、16歳で自らクロアチアのディナモ・ザグレブ加入を決断。バルセロナ時代はウイングのポジションでプレーするドリブラーだったが、単身クロアチアに乗り込んで逞しさを育み、インサイドMF、ボランチ、センターフォワードでもプレーできるポリバレント性(多機能型)も身につけ、クロアチアリーグの最優秀選手にも選出された。
現在は23歳。1年半前からドイツの新興勢力RBライプツィヒでプレーしている。クロアチアとドイツで培った強度の高いプレーと中盤でのプレーも身につけたオルモは、ウイングとしても現代的である。ワイドで張ってドリブルを仕掛ける典型的なウイングプレーと、中央よりのハーフスペース(中央とサイドの中間)でパスを受け、周囲を活かしたり自らシュートに持ち込むなど、両方のプレースタイルがミックスされた多彩なアタッカーである。
そして、2019年にはデ・ラ・フエンテ監督の下、U-21欧州選手権決勝のドイツ戦でゴールを挙げマン・オブ・ザ・マッチに選出されたように、勝負強さも兼ね備えている。スペイン流の技巧だけでなく、10代から異国で育まれた強さも併せ持つオルモは、スペインの新時代を象徴する選手である。
ぺドリとメッシが最高のパートナーとなれるなら、ぺドリとオルモも最高の相棒となれるのではないか?ユーロ準決勝敗退からまだ10日ほどしか経過しておらず、疲労の懸念はある。しかし、このコンビがすでに1カ月半ほど共同生活をして挑む東京五輪では、2人の連携は熟成されている。
金メダル獲得を目指す森保ジャパン(日本代表)にとって大きな壁が現れた。彼等とは強化試合で戦って現状の収穫と課題を洗い出し、最高の準備ができる。そして「決勝で再戦しよう」と誓おう!
U-24スペイン代表、東京五輪登録選手(所属クラブ)
GK
アルバロ・フェルナンデス(ウエスカ)
ウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)
アレックス・ドミンゲス(ラス・パルマス)
DF
オスカル・ミンゲサ(バルセロナ)
ヘスス・バジェホ(レアル・マドリード)
エリック・ガルシア(バルセロナ)
パウ・トーレス(ビジャレアル)
オスカル・ヒル(エスパニョール)
フアン・ミランダ(ベティス)
MF
マルク・ククレジャ(ヘタフェ)
ジョン・モンカヨラ(オサスナ)
マルティン・スビメンディ(レアル・ソシエダ)
ダニ・セバージョス(レアル・マドリード)
ミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)
カルロス・ソレール(バレンシア)
ペドリ(バルセロナ)
FW
ブライアン・ヒル(セビージャ)
マルコ・アセンシオ(レアル・マドリード)
ダニ・オルモ(RBライプツィヒ/ドイツ)
ミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)
ラファ・ミル(ウォルバーハンプトン/イングランド)
ハビ・プアド(エスパニョール)
U-24スペイン代表、東京五輪対戦スケジュール(グループC)
参加16カ国が4カ国ずつに分かれて挑むグループステージ。上位2位までが決勝トーナメントに進出。スペインが入るグループCの突破国は、準々決勝でブラジル、ドイツ、コートジボワール、サウジアラビアが争うグループDの突破国と対戦する。
- 7月22日(木)16:30:第1節 エジプト vs スペイン(札幌ドーム)
- 7月25日(日)19:30:第2節 オーストラリア vs スペイン(札幌ドーム)
- 7月28日(水)20:00:第3節 スペイン vs アルゼンチン(埼玉スタジアム2002)