明治安田生命J1リーグ2021シーズンは、すでに全体の約3分の2の日程を消化し、ここからはいよいよ佳境に入る。通常は18クラブ全34節で実施されているJ1だが、昨季は新型コロナウイルス感染症の影響でJ2降格制度がなくなったために、今季に限っては20クラブ全38節となっている。

前例のない4クラブのJ2降格が伴う残留争いなど、それぞれに緊張感のある試合が増えると思われる。

より長丁場になった今季J1の、13という残り試合数を考慮し、ここでJ1優勝争いとJ1得点王争いの行方について見てみよう。特に得点王については、現時点J1得点ランキングトップのFW古橋亨梧(元ヴィッセル神戸)や4位のFWオナイウ阿道(元横浜F・マリノス)がそれぞれ欧州に移籍し、リーグに不在の状況だ。その場合はどうなるか、前例とも合わせて紹介したい。

前例なき2021シーズンJ1得点王の行方は。古橋とオナイウの欧州移籍で上位不在

J1優勝争いは2強に絞られた

まずはJ1優勝争いについておさらいしよう。

先週末(8月21、22日)第25節終了時点、依然として首位に立つのは前年王者である川崎フロンターレだ。19勝6分の未だ無敗をキープし、すでに63もの勝点を積み上げている。しかし、今夏に東京五輪へ出場していたMF田中碧がドイツ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフへ、FW三笘薫がプレミアリーグのブライトン・ホーブ・アルビオン(今季はベルギー1部のロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズへ期限付き移籍)へと海外移籍した影響だろうか、ここ2試合は引き分けが続いている。

そして2位につけるのは、2019シーズンの王者である横浜F・マリノスである。今季途中にアンジェ・ポステコグルー前監督がスコットランドの強豪セルティックから引き抜かれ、松永英機暫定監督を挟み、現在のケヴィン・マスカット監督への指揮官の交代があったにも関わらず、直近12試合を10勝2分無敗の快進撃。自慢の攻撃サッカーで直近2試合連続5得点を挙げた。総得点56は川崎と並び、勝点でも4差に迫っている。

暫定3位(大雨の影響で未消化試合があるため)のサガン鳥栖は勝点44と差があり、残り試合数と川崎と横浜FMがほとんど勝点を取りこぼしていない事実を踏まえると、J1リーグ優勝争いは完全に2強に絞られたと言えるだろう。

では、上位に海外移籍した選手の多い今季のJ1得点王はどうなるだろうか?

前例なき2021シーズンJ1得点王の行方は。古橋とオナイウの欧州移籍で上位不在

得点王争いはL・ダミアンと前田大然に?

得点王争いも、優勝争い同様に大幅な変化は期待できないだろう。ここからは1試合の持つ意味、勝点1ポイントの重みがさらに増し、得点はこれまでよりも減っていく傾向になることが想像できるためだ。

シーズン途中まで神戸に所属していた古橋が、現在J1の得点ランキングトップにつけている。日本代表にも定着し、今季は21試合に出場して15得点を記録。7月にはセルティックに引き抜かれ、リーグ戦初先発となったホームデビュー戦ではダンディー・ユナイテッドを相手に3ゴールを決めてハットトリックを達成するなど、新天地でもゴール量産のフィーバーぶりが続いている。

また、12得点で一時は得点ランキング2位につけていた横浜FMのオナイウも、同じく今年7月にフランス2部のトゥールーズに移籍した。同12得点を挙げていた北海道コンサドーレ札幌のブラジル人FWアンデルソン・ロペスも中国超級リーグの武漢足球倶楽部へとシーズン途中で移籍しており、現在の得点ランキング5位以内の3選手がすでにJ1の舞台を後にしている状況だ。

5位以内で現在もJ1でプレーしているのは、川崎の元ブラジル代表FWレアンドロ・ダミアンと、横浜FMの日本代表FW前田大然の2人となる。ダミアンが得点ランキング2位の14得点を挙げ、前田は同3位の13得点で得点王の座を争っている。6位タイで並んでいる川崎の元日本代表FW小林悠と鳥栖の山下敬大、FC東京のディエゴ・オリベイラは未だ9得点。残り13試合と考えると、得点王争いはダミアンと前田の2人に絞られたと見える。そして、彼等は共に優勝争いをするクラブに所属するライバル同士でもある。

しかし、ダミアンには母国ブラジルのクラブへの復帰の噂は根強く、前田には再びの欧州移籍の可能性も否定できない。

彼等がもし今夏に海外移籍を選択したり、何らかのアクシデントによってJ1から離れるような事態が起きると、9得点で並ぶ小林や山下、D・オリベイラが得点王候補になる。しかし、残り13試合で古橋の15得点まで届くかどうかも分からない。その場合はどうなるか。

前例なき2021シーズンJ1得点王の行方は。古橋とオナイウの欧州移籍で上位不在

リーグに所属していない選手が得点王の前例

結論としては、他国リーグへと移籍した場合でも記録は残る。例えばもし現状のままJ1リーグが終了した場合、今季のJ1得点王は古橋のものとなる。

同じような例は、過去に奇しくも古橋が移籍したスコティッシュ・プレミアリーグで起きていた。2006/07シーズンにセルティックで元日本代表MF中村俊輔(現横浜FC)ともプレーしたスコットランド代表FWケニー・ミラーの例だ。同シーズン、ミラーは31試合に出場して僅か4得点に終わるなど、点取り屋としてではなく突破力を武器にするチャンスメイカーとして知られていた。

そんなミラーが、2010/11シーズンに当時31歳で自身2度目の在籍となったグラスゴー・レンジャーズで突如変貌を遂げる。自慢の快速を活かして開幕からゴールを量産。1月上旬までの18試合に出場して21ゴールを挙げた。しかし、冬の移籍市場でトルコ1部のブルサスポルへ移籍。

スコットランドでの後半戦には1度も出場しなかったが、他の選手には誰にも追い付かれることなく、見事に「リーグに所属しない選手」として得点王に輝いたのだ。得点王のトロフィーも無事にミラーの手元に届けられている。

29年目を迎えているJリーグだが、すでに他国リーグへ移籍してしまった選手が得点王に輝いた前例は今のところない。果たして、古橋は「第2のケニー・ミラー」となるのだろうか?今季のJ1得点王争いには、こうした違う角度からも注目が集まる。

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