今年も、チャンピオンズリーグ(CL)が行われる時期がやってきた。と言っても多くの方が思い浮かべるであろう「UEFAチャンピオンズリーグ」のことではない。
「なんだ、下部リーグの話か」と思われた方もいるかもしれないが、下部リーグと侮るなかれ。毎年インターネット上でのライブ配信があるため、どこに住んでいる方であっても気軽に視聴可能。2021年大会配信についても、例年通りJFA(日本サッカー協会)のサイトから視聴ページへのリンク準備されているのが確認できる。Jリーグでプレーしていた選手も数多く出場するこの大会は、日本サッカーを愛する者であればあるほど興味を持って頂けるに違いない。

日本サッカー界の、社会人年代の仕組み
これは多くの方がご存じだろうが、サッカー界には昇降格という制度が存在する。簡単に言うと、優秀な成績を残すと上の舞台で戦えるようになり、成績が優れないと下の舞台で戦わなければならなくなる、というものだ。
日本サッカー界のピラミッドにおける頂点はJ1リーグ。これを1部リーグとして、その下にJ2リーグ(2部リーグ)、J3リーグ(3部リーグ)がある。ここまでをJリーグと呼ぶ。これより下にももちろんカテゴリーは存在しており、JFLが事実上の4部リーグ。ここまでが全国リーグで、これより下は地域や県ごとに分かれて戦っている。
事実上の5部リーグとなる地域リーグは、全国を9つの地域に分け、それぞれのリーグで8~12のチームが総当たりのリーグ戦を繰り広げている。この地域リーグからJFLへの昇格をかけた大会が、全国地域サッカーCLなのである。
ちなみに全国地域サッカーCLは知らなくとも「地決」なら聞き覚えがあるという方もいるのではないだろうか。2015年度までは全国地域サッカーリーグ決勝大会という名称で「地決」という略称が定着しており、大会名が変わったあとも「地決」と呼ぶ人が後を絶たない。実際に、これまで地域リーグでプレーしている選手を何人か取材してきたが、この舞台で戦う選手でさえもほぼ全員が「地決」と呼んでいた。

なぜ、全国地域サッカーCLはコアなサッカーファンを惹きつけるのか
過酷な戦いであればあるほど、それを見ている人は応援する気持ちが強くなる。全国地域サッカーCLは「日本一過酷な大会」とも言われ、なおさらファンを惹きつける。この大会の厳しさには主に2つの面がある。
1つは、JFL昇格までの道のりの険しさだ。所属しているリーグで優勝すれば昇格できるカテゴリーが多いなか、地域リーグからJFLへの昇格は異なっている。各地域リーグで優勝、もしくはそれに近い成績を収めた計12チームがこの大会に出場し、JFLへたどり着けるのはそのうちの2チームのみ。地域リーグで何度優勝したとて、全国地域サッカーCLを勝ち抜けなければJFLで戦えないのだ。
例えば、Jリーグを目指し北信越フットボールリーグで戦う福井ユナイテッドFC。
そしてもう1つは、日程面の過酷さだ。2021年度は11月12~14日に1次ラウンド、11月24日、26日、28日に決勝ラウンドが行われる。1次ラウンドも決勝ラウンドも4チームの総当たりで行われるのだが、1次ラウンドの日程は3日間。
Jリーグなどを観ている方ならご存じだろうが、中2日でも選手のパフォーマンスは落ちる。にもかかわらず、中0日で3連戦。これを突破すると決勝ラウンドだが、ここも中1日で3試合を戦うこととなる。

2021年度大会の出場チーム紹介
1次ラウンドは12チームを3つのグループに分けて行われる。各チームのJリーグに所属経験のある選手を挙げながら、全チームの紹介をしていこう。おそらく、知っている選手もいるのではないだろうか。その選手を、その選手がいるクラブを応援してみたり、住んでいる地域のクラブを応援してみるのも1つの楽しみ方だ。
グループA
グループAは九州サッカーリーグの沖縄SV、東海社会人サッカーリーグのFC.ISE-SHIMA、北信越フットボールリーグの福井ユナイテッドFC、東海社会人サッカーリーグの藤枝市役所の4チーム。
沖縄SV(エスファウ=ドイツ語でスポーツクラブの意味)は沖縄県全域にホームタウンを置くクラブで、元日本代表の髙原直泰がCEO、前田俊介氏がコーチを務めている。
FC.ISE-SHIMAは京都サンガの監督を務めた中田一三氏が立ち上げたクラブで、三重県中南勢地域にホームタウンを置いている。現在理事長兼監督を務めるのは、初代レフティーモンスターの小倉隆史氏。中田一三氏の甥の中田永一が主力を担っている。初の全国地域サッカーCLを、一気に駆け抜けることはできるか。
前述した福井ユナイテッドFCは福井県にホームタウンを置くクラブ。千葉奏汰、橋本真人、リュウ・ヌグラハ、起海斗、オークランド・シティFC(NZ)時代にFIFAクラブW杯に出場した岩田卓也、尾崎瑛一郎、畠中佑樹、角野翔汰、廣岡睦樹、賀澤陽友、川崎フロンターレ時代に沖縄県出身者初の日本代表選手となった我那覇和樹らがプレーしている。9回目の全国地域サッカーCLを突破し、悲願の昇格なるか。
静岡県藤枝市にホームタウンを置く、藤枝市役所サッカー部は異色なチームだ。監督・コーチを含めて全員が藤枝市の職員または志太広域事務組合消防本部藤枝消防署の職員。だが地元で強豪クラブとして知られており、サッカー処・静岡県内の強豪校でプレーしていた選手を中心に構成されている。

グループB
グループBは東北社会人サッカーリーグのコバルトーレ女川、関西サッカーリーグのおこしやす京都AC、関東サッカーリーグのCriacao Shinjuku、中国サッカーリーグのFCバレイン下関の4チーム。
コバルトーレ女川は宮城県牡鹿郡女川町にホームタウンを置くクラブ。ガイナーレ鳥取で活躍した奥山泰裕らが所属。東北社会人サッカーリーグで8試合9得点、得点ランクトップの野口龍也にも注目だ。2018年にはJFLで戦った経験をいかし、新たな本拠地・女川スタジアムの完成をJFL復帰で祝いたい。
天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会で、サンフレッチェ広島に5-1で勝利したことで全国的に有名になった関西のおこしやす京都AC。京都府京都市にホームタウンを置くクラブで真田幸太、大原彰輝、榎本滉大、西村洋平、尾本敬、清川流石、稲垣雄太、平石直人、石津快、貫名航世、堤聖司、林祥太、今季限りでの引退を表明している原一樹らが所属している。この舞台でも「観る人の心を動かす自分たち主導のサッカー」を体現できるか。
関東リーグのCriacao Shinjuku(クリアソン新宿)は東京都新宿区にホームタウンを置いており、百年構想クラブの1つ。愛媛FCのコーチを務めた成山一郎が監督を務め、岩舘直、瀬川和樹、井筒陸也、米原祐、小林祐三、黄誠秀、伊藤大介、池谷友喜、森村昂太、大谷真史、岡本達也らがプレーしている。関東サッカーリーグの終盤戦を11連勝しこの大会への切符を勝ち取った勢いで、初出場ながら勝ち抜きを目指す。
中国サッカーリーグのFCバレイン下関は山口県下関市にホームタウンを置くクラブ。

グループC
グループCは四国サッカーリーグのFC徳島、中国サッカーリーグの三菱水島FC、北信越フットボールリーグのアルティスタ浅間、北海道サッカーリーグの北海道十勝スカイアースの4チーム。
FC徳島はホームタウンを徳島県徳島市に置いていたが、今年3月に吉野川市と連携協定を結び徳島県吉野川市に移転。選手も大幅に入れ替わったが、四国サッカーリーグ優勝を果たした。3年連続3度目の出場で、JFL昇格なるか。萩野賢次郎、天羽良輔、石川雅博、松本圭介らが所属している。
三菱自動車水島FCは岡山県倉敷市にホームタウンを置くクラブ。過去にはJFLに所属していた時期もあるが、2010年には資金面の問題で岡山県1部リーグから再出発を余儀なくされた。それでも1年で中国サッカーリーグにカテゴリーを上げ、今季の中国サッカーリーグでは優勝。この大会の参加資格を得た。滝裕徳、石川隆汰らが所属している。
アルティスタ浅間は長野県東御市を中心とする東信地域にホームタウンを置くクラブ。北信越フットボールリーグで2位に入り、出場を決めた。玉林睦実、橋村龍ジョセフらが所属している。「アルティスタ」はイタリア語で「芸術家」という意味。2018年以来のこの舞台で、人々を魅了して勝ち抜き、JFL昇格なるか。
北海道十勝スカイアースは北海道帯広市を中心とする十勝地域にホームタウンを置くクラブ。元日本代表の城彰二氏がGMを、長野聡氏が監督を務めている。曳地裕哉、内山裕貴、永坂勇人、堀河俊大、中川洋介、なでしこジャパンの高瀬愛実の兄である高瀬証らが所属。5年連続6回目のこの舞台でJFL昇格を掴みたい。
死闘の数々が生まれること必至の全国地域サッカーCL。厳しい関門を突破し、JFL昇格を決める2つのクラブはどこになるだろうか。