ワールドカップ(W杯)における、サッカーイタリア代表の活躍を楽しみにしていたサポーターの期待は再び裏切られた。イタリアは、3月14日に行われたカタールW杯欧州予選プレーオフにて0-1で北マケドニアに敗れ、2018年ロシアW杯時に続く2大会連続の予選敗退となった。

FIFAランキングでは6位という上位に位置する強国のイタリアが、W杯出場をなかなか決められないのはなぜか?疑問に思っている人は多いだろうが、この敗北にはちゃんとした理由がある。イタリア人ライターとして、イタリアのW杯予選敗退の裏にある8つの問題点をまとめてみよう。改善しない限り、今後も惨劇を繰り返す一方だと思われる。

W杯予選敗退の裏にあるイタリアサッカーの8つの問題

1)自惚れやすい問題

昔からイタリア代表の悪い癖の1つは「我々は強いから大丈夫」「この相手になら負けるはずがない」と自らより弱いと感じる相手に対し、簡単に自惚れることだ。2018年ロシアW杯の際に史上2度目の予選敗退(1度目は1958年)で絶望を味わい、その癖は無くなったと思われていた。

2018年大会の敗退時は、全ての罪を被せられたジャンピエロ・ベントゥーラ監督が解任となった他に、2006年ドイツW杯優勝に貢献したGKジャンルイジ・ブッフォン、DFアンドレア・バルツァッリ、MFダニエレ・デ・ロッシらも代表を引退。さらに、イタリアサッカー連盟(FIGC)カルロ・タベッキオ会長の解任も決定し、イタリア代表は再スタートを切ることとなった。

そして2018年5月14日、現在も指揮官を務めるロベルト・マンチーニ監督が就任してから、生まれ変わったかのような素晴らしい時期に突入する。マンチーニ監督就任以降、イタリアは31試合無敗の新記録を樹立し、53年ぶりにユーロ2020(UEFA欧州選手権)での優勝までを果たした。

しかしその素晴らしい結果に、自惚れる癖が再び現れたようだ。今カタールW杯欧州予選では、イタリアは明らかに格下のブルガリア戦(1-1)、北アイルランド戦(0-0)、北マケドニア戦(0-1)で油断し、再び本大会への進出を逃すこととなった。

W杯予選敗退の裏にあるイタリアサッカーの8つの問題

2)強いFW不足問題

2002年の日韓W杯では、イタリア代表の最強FWのプレーを目の当たりにしてサッカーに憧れた日本人もたくさんいることだろう。アレッサンドロ・デル・ピエロ(当時ユベントス)、フランチェスコ・トッティ(当時ローマ)、フィリッポ・インザーギ(当時ミラン)、クリスティアン・ビエリ(当時インテル)ら名だたる選手が揃っていた。

一方、現在のFWメンバーは、イタリア国内でも優勝経験がほとんどない。

チーロ・インモービレ(ラツィオ)、ロレンツォ・インシーニェ(ナポリ)、ジョアン・ペドロ(カリアリ)、マッテオ・ポリターノ(ナポリ)、ジャコモ・ラスパドーリ(サッスオーロ)。21世紀に入ってから、間違いなく最も弱い前線と言っていいだろう。

ブラジル人FWジョアン・ペドロが代表選抜されたことは、イタリアがどれほどFW不足に陥っているかを証明する。2017年にイタリアの市民権を取得したペドロは、ブラジルU-17の選抜経験こそあれど、A代表の実績がない。しかし、これらはすぐに解決できる問題ではないだろう。サッカー教育や、クラブの基準が変わらないと、イタリアは今後もW杯に出場できない可能性がある。

W杯予選敗退の裏にあるイタリアサッカーの8つの問題

3)欧州大会で結果を残せないセリエA問題

イタリア代表の活躍は、国内リーグであるセリエAの活躍に直接関係している。2009/10シーズンのインテルのチャンピオンズリーグ(CL)優勝以降、セリエAのクラブは欧州大会で優勝できないだけではなく、決勝戦に辿り着いた実績もほとんどない。

過去12年の間には、ユベントスが2度CL決勝に進出するも、2014/15シーズンはバルセロナ相手に1-3、2016/17シーズンはレアル・マドリード相手に1-4で敗れている。インテルは、2019/20シーズンにようやく辿り着いたヨーロッパリーグ(EL)決勝で、セビージャ相手に3-2で敗北。さらに、レアル・マドリードの22冠(CLとEL以外のUEFAトーナメントを含む)に次いで最も欧州タイトルが多いミラン(17冠)には、国際的な活躍が見られなくなった。

つまり、セリエAクラブに所属しているイタリア人選手は、高いレベルで戦う機会を持てていない。それによってリーグ全体、延いてはイタリア代表のサッカーレベルも下がるのは当然のことだろう。

4)先延ばしのリーグ新体制問題

イタリアに再び栄光をもたらすためには、まずは忙しいセリエAのリーグスケジュールに目を向ける必要がある。その形態を変えることで、少しは現状から抜けられるのではないだろうか。

他の欧州トップリーグ(プレミアリーグ、ブンデスリーガ、ラ・リーガ、リーグ・アン)のクラブにサッカーのクオリティでもう勝てないのなら、セリエAの参加クラブ数を20から18に下げるしかないだろう。そうすれば対戦スケジュールに余裕が生まれ、欧州大会に向けての準備時間を増やすことができる。ちなみに各トップリーグでは、ブンデスリーガのみが18クラブ(他は20クラブ)で行われている。

イタリアサッカー連盟(FIGC)は、数年前からセリエAの新体制を模索しているという。しかし、新型コロナウイルス問題や、欧州スーパーリーグ構想(ミラン、ユベントス、インテルを含めた欧州トップクラブで構成され、CLを取って代わることを目的とした大会。

発表から3日後にプロジェクトは停止となった)に伴う危機対応に追われ、話は進行していないようだ。

W杯予選敗退の裏にあるイタリアサッカーの8つの問題

5)クラブ所有のスタジアムが少なすぎ問題

イタリアが改善すべきもう1つの問題は、クラブ所有のホームスタジアムの少なさである。現在セリエAで独自スタジアムを持つクラブは、ユベントス、ウディネーゼ、アタランタのみ。全20クラブ中と考えると非常に少ない。

ミラン、インテル、ローマ、ラツィオ、ナポリのようなビッグクラブが、未だに独自スタジアムを持ってないことは最も不思議だ。構築に向けて準備はしているものの、イタリア国内の政治的トラブルで話がスムーズに進んでいないという。

スタジアム構築には莫大な金額がかかるが、独自スタジアムではチケットの収入がすべてクラブのものとなる。

また、スタジアムを作ることによって他のビジネス(レストラン、グッズ販売店、ミュージアムなど)も、クラブ経済の大きな武器となる。

イタリアの各町が運営するスタジアムは、1990年のイタリアW杯からほとんどリニューアルされておらず、半壊状態だ。手放す方向で進むべきだろう。

W杯予選敗退の裏にあるイタリアサッカーの8つの問題

6)スーパースターの獲得がない問題

欧州大会で優勝できない、独自スタジアムもない。新型コロナウイルス問題がなかったとしても、セリエAの経済的な状況の厳しさには、ほとんど変わりがなかっただろう。

現在イタリアのクラブは、欧州のトップ選手と契約する余裕もない。2018年7月に話題となったポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド(現マンシェスター・ユナイテッド)のユベントス加入以外に、世界中のサポーターに熱を与えるスーパースターの獲得はなかった。

そうなると、イタリアのサッカーを昔から追っているサポーターが離れていくだけではない。これからサッカーを好きになる人も、セリエAより多くのスターが揃うプレミアリーグやラ・リーガなどの観戦を選ぶだろう。それに伴っては、イタリア代表の人気度ももちろん下がることになる。

W杯予選敗退の裏にあるイタリアサッカーの8つの問題

7)クラブと代表の人気比問題

日本ではJリーグに興味がある人より、代表チームの活躍をフォローする人が圧倒的に多いと感じるが、イタリアはその逆だ。つまり、セリエAクラブがサポーターにとっての魅力を失いつつあるなら、イタリア代表は尚更人気を失うことを意味する。

もちろんW杯やユーロ本大会は別として、代表チームによるW杯予選や練習試合などがイタリア国内で行われていても、スタジアムで観戦するサポーターはとても少ない。また、広場や喫茶店でリーグ戦の話をよく口にするイタリア人は多くても、重要でない代表戦の話はほとんど耳にすることがない。

今カタールW杯予選にしてもそうだった。予選敗退が決まった北マケドニア戦以外の試合は、それほど話題とならなかったのだ。イタリア国民の希望を背負っているのに、代表がほとんど注目を浴びないのは不思議なことだ。

W杯予選敗退の裏にあるイタリアサッカーの8つの問題

8)若手のサッカー教育問題

最後の問題点はすぐにでも取り掛かるべきだ。イタリアでは、中学生以上の青年の技術的な練習をあまり重要としていない。サッカースクールは彼らのテクニックのスキルアップよりも、ひたすらフィジカルを鍛えることに力を入れている。

プロクラブの選手選びにも似たような考え方が確認できる。テクニックに優れていても、身長が低かったり体がまだ出来上がってなかったりする選手は加入できないケースが多い。さらに若手選手の加入が決まったとしても、1部でのプロデビューまでには時間がかかり、レンタルで2部3部のリーグで経験を積むしか方法がない。

しかし、このサッカー教育の文化を変えようとしている監督は少しずつ現れている。2部クレモネーゼでセリエA昇格の一歩手前まできている元アビスパ福岡のファビオ・ペッキア監督は正にそうだ。同クラブはほとんど若手の技術だけで、現在セリエBの首位に立っている。2022年1月には同監督が指導するGKマルコ・カルネセッキとMFニコロ・ファジョーリが、2部クラブ所属にもかかわらずA代表に選抜された。