7月8日、J2リーグに所属するアルビレックス新潟の背番号10、MF本間至恩が欧州クラブへ移籍することが発表された。メディカルチェックを経て正式契約を結ぶため現時点でクラブ名は明言されていないが、ベルギー1部のクラブ・ブルッヘ(クラブ・ブルージュ)へ向かうようだ。
クラブ・ブルッヘはベルギー屈指の強豪で、2021/22シーズンはレギュラーシーズン2位、プレーオフ1で優勝。2022/23シーズンはUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)出場権を獲得している。従って本間のJ2からCLにも出場するベルギーのチャンピオンクラブへ、というステップアップが注目されている。まずはベルギー2部に所属するリザーブチームでプレーする予定との報道も出ているが、本間はベルギーで活躍をみせられるだろうか。

冨安健洋の系譜とは
本間には、日本代表の中心を担うDF冨安健洋(アーセナル/イングランド)との大きな共通点がある。J2から、それも育成年代を過ごしたクラブでのみプレーし、海外移籍を果たしているという点だ。
冨安はアビスパ福岡の下部組織で育ち、トップチームへと昇格。プロとして約2年福岡でプレーしたのち、シント=トロイデンVV(ベルギー1部)へと移籍。そこからボローニャ(イタリア1部)を経由し、アーセナルまでステップアップしている。
そして本間はアルビレックス新潟の下部組織で育ち、トップチームへと昇格。プロとして約3年半新潟でプレーしたのち海外移籍を発表した。
また、J2東京ヴェルディの下部組織で育ちトップチームへ昇格、2020年8月にジル・ヴィセンテ(ポルトガル1部)へと移籍したMF藤本寛也なども同じような道筋を辿っている。さらには、7月13日にボアヴィスタ(ポルトガル1部)への期限付き移籍が発表されたばかりのMF渡井理己も、静岡学園高校からの加入ではあったもののJ2徳島ヴォルティスでのみプレーした選手だ。
以前は欧州への移籍を目指すのであれば、J1クラブでプレーする必要があった。しかし冨安、藤本、そして本間や渡井のような形が増加しており、これはJリーグ全体、日本人選手全体の評価が高まっている表れだといえるだろう。J2クラブのサポーターにとっても、自クラブで育った選手が直接海外へと旅立つことで、その選手との距離感を近くに感じられる。

Jリーグ評価の高まりと懸念点
冨安にせよ、ジル・ヴィセンテで背番号10を背負って定位置を確保している藤本にせよ、同じ道程で現在海外で活躍している選手らが日本人選手とJ2の評価を上げており、それらが本間の移籍にも少なからず関係している。J2から海外移籍を果たす選手はこれからさらに増え、Jリーグはより面白くなるに違いない。
海外でのプレーを夢見る選手にとってはJ1への移籍が絶対条件でなくなり、育ててもらったクラブに残留することや出場機会を得やすいクラブを選ぶことなど、選択肢が増加する。Jリーグはただでさえ順位が予想できず混戦続きだが、さらに活性化することが予想される。
懸念材料として挙げられるのは、移籍金の割安感が欧州クラブが日本人選手を獲得する要因の1つとなっていることだ。しかしこれも需要が高まるにつれ、徐々にバランスが取れていくことだろう。実際に、以前はフリーでの移籍も少なくなかったが、Jリーグの各クラブが適切な対応をすることで移籍金が1億円を超える例が増えてきた。本間に至っては、J2からの移籍でありながら移籍金は120万ユーロ(約1億6000万円)だと推定されている。

本間至恩はベルギーで結果を残せるか
本間の最大の武器といえば、なんといってもドリブルでの突破力だ。これが通用するかは、クラブ・ブルッヘのファーストチームで出場機会を得られるかに大きな影響を与える。
とはいえその点は、あまり心配いらないだろう。ドリブルを仕掛ける選手と対峙するDFは通常、ボールが足から離れたタイミングや、ドリブルのリズムの合間を突いてボール奪取を狙う。ところが本間のドリブルはボールタッチが細かく、リズムが一定ではない。DFとしては飛び込むタイミングが測りにくく、細かなミスを狙い粘り強く対応するせざるを得ない。海外の選手ならではの間合いや、想像以上に足が伸びてくる感覚に慣れる必要はあるだろうが、ドリブルが通用せずに苦しむということは考えにくい。
むしろその他の部分が、ファーストチームで多くの出場機会を得られるかを左右すると予想する。
本間は164cmと非常に小柄で、屈強な外国籍選手とのフィジカルコンタクトではどうしても不利である。守備面での評価を上げることと合わせて、そういった課題を乗り越えられるかが重要だ。昨2021年まで新潟を率いたアルベル・プッチ・オルトネダ監督(当時の登録名アルベルト、現FC東京監督)からの指導などで、毎年徐々に改善してきたものを、ベルギ―屈指の強豪クラブでアピールしてほしいものだ。