プレミアリーグ、トッテナム・ホットスパーのFWでもあり、イングランド代表のキャプテンも担う、世界最高峰ストライカー、ハリー・ケイン。

ヨーロッパ各国のシーズンで最も多くの得点を挙げた選手に捧げられるゴールデンシュー賞は、これまでに3度受賞。

その他にもさまざまな個人受賞歴と数えきれないほどの名プレーで、2019年には大英帝国勲章(MBE)を受勲しており、間違いなくイングランドのフットボール伝説として語り継がれていく人物の1人だ。

そんなケインが10月10日に、自身で初めての財団を設立。「ハリー・ケイン財団(Harry Kane Foundation)」という名の組織として、メンタルヘルスケアに関する事業を開始した。それはサッカーとはまた別の道となるが、一体どんな内容なのか少し探ってみよう。

ワールドクラスプレイヤー、ハリー・ケインが挑むサッカーとは違う道

ポジティブ思考を広めるために

ケインは、かねてから自身の経験を積む過程で「メンタルヘルスケア」について興味を持ち、またそれに関していくつかの疑問や考えがあった。そこで、自身が今後サッカーと共に更にメンタルヘルスケアを学びながらも、いくつかの慈善団体と共に協力し、世代毎のメンタルケアの考え方を変える手助けをすることを決意。長期的な活動を視野に入れ、10月10日の世界メンタルヘルスデーに合わせて「ハリー・ケイン財団」を設立した。

財団は、ポジティブ思考を共有し取り戻すための授業教材を作成。10月11日からイングランドとウェールズ地域の約18,500の小学校に対して、無料提供をしている。また実際にそれらの教材をもとに、ケイン自身が先生となり、イングランドの小学校の1つ(セント・ジョンズ・チャーチ・オブ・イングランド校)で指導を行った。

ケイン先生の質問「ネガティブな考え方はどんな影響があると思う?」に対して、生徒の1人は「本当に何かをできなくなると思う。でももし、もっと前向きな考えがあったら、多分何かを続けられることができるだろうし、今やっている何かをもっと上手くできると思う」と回答。真剣な眼差しでディスカッションが行われた。

ケインの公式ホームページでは、この財団についての活動も紹介され、4種類の窓口が用意されている。「Shout(シャウト)」「Mind(マインド)」「The Mix(ミックス)」「YoungMinds(ヤングマインズ)」というように、それぞれの年齢や困難(問題)の種類によって利用者が自由に窓口を選択し、専門スタッフに悩みを聞いてもらうことができる。電話、チャット、メールなどで連絡可能だ。

ワールドクラスプレイヤー、ハリー・ケインが挑むサッカーとは違う道

アニメで伝える自身の体験

公式ホームページやSNSで、財団の活動にまつわる1話のアニメストーリーを公開しているケイン。そこには実体験から得たケイン流のメンタルケア方法が描かれている。

「幼少期に感じる『拒絶』とは理解し難いものでもあり、非常に厄介なもの」との語りで始まる背景には、実際にケインが8歳の時に契約を結んでいたアーセナルのユース・アカデミーから契約解除を言い渡された出来事が存在した。

I'm very proud to launch the Harry Kane Foundation – it marks the start of a journey for me as my Foundation aims to transform a generation’s thinking about mental health. pic.twitter.com/oZzNcviyp3

— Harry Kane (@HKane) October 10, 2022

当時、まだ幼かったケインにそう教えてくれたのは父親だった。

しかし、ケイン自身はその出来事に対して、自身の中で湧き上がってくる感情がどんな種類のものなのかが理解できなかったという。父は失望することなく現実を受け止め「もう一度頑張って、どこまで行けるか見てみよう」と、ケインの大きな支えとなっていた。

その後に縁があって、11歳の時に現在のトッテナムのユースチームに入団する。ファーストチーム入りを目指し、必死に我慢強くトレーニングを積み、常に試合前に「絶対にやってやる!」と自身に言いかけせ続けていたケイン。 しかし、その願いに反しレンタル移籍をすることになってしまう。

当時の苦悩をアニメの中でケインはこのように語っている。

「簡単なことではなかった。本当につらい時期を乗り越えて、頑張らなければならなかった。自分を信じられなくなって、自問自答をすることもあったけれど、誰にも同情してほしくなかった。もう一度自分を信じなければと、言い聞かせていた。そして、自分は優れたプレーヤーであるということを証明しようと決意したんだ。チャンスは必ず来ると信じて……」

その決死の想いが、現在のワールドクラスプレイヤーとしての地位を築き上げた訳だ。

苦難をどのように乗り越えれば良いのか?どうやって向き合っていけば良いのか?ケインは、自身の経験からいくつかのメンタルケアの方法論を掲げている。

「どこにいようと、どんな困難があろうと努力を続け、進み続けること。そして最も重要なことは、常に自分自身を信じること。なぜなら自分を信じれば信じるほど、また周囲に自分のことを話せば話すほど、サポートをもらい少しずつすべてが現実となっていくから」

ワールドクラスプレイヤー、ハリー・ケインが挑むサッカーとは違う道

アントニオ・コンテ監督の後押しも

ケインがそんな幼少期から長らく活躍し続けるトッテナムで、2021年11月から指揮を執るアントニオ・コンテ監督は、ケインの財団設立についても精一杯頑張ってほしいと背中を押している。

「サッカーに集中することはもちろん大事なことだが、ケインは単純にサッカープレイヤーだけではなく、人間としても勿論素晴らしい人物。人々のロールモデルとして責任を持って挑戦をしていくこと、そしてさまざまなヒントを周囲に与えていくことは良いこと。

サッカーと両立しながら、精一杯頑張ってほしい」

今後もピッチ内外でのハリー・ケインの動きにますます目が離せなくなりそうだ!