2024明治安田J1リーグ第24節の計10試合が、7月20日と21日に各地で行われた。同リーグ18位の湘南ベルマーレは20日、敵地パナソニックスタジアム吹田で2位ガンバ大阪と対戦。
最終スコア1-0で勝利している。

7月の公式戦計4試合で全勝と、復調ムードが漂っている湘南。リーグ戦においてはJ2リーグ降格圏の18位から、J1残留圏内の16位に浮上している。今季J1リーグで最少失点(※)を誇るG大阪の堅守を、いかに攻略したのか。ここではG大阪戦を振り返るとともに、この点を中心に論評していく。

(※)第23節消化時点で17失点。第24節終了時点(18失点)でも今季J1リーグ最少

7月全勝の湘南ベルマーレ。G大阪戦で結実した新たな攻撃配置とは

キックオフ直後に見られた湘南の不具合

この試合における両チームの基本布陣は、G大阪が[4-2-3-1]で湘南が[3-1-4-2]。前半1分、湘南DFキム・ミンテが味方MF池田昌生へ縦パスを送ったものの、このボールをG大阪のMFファン・アラーノに奪われる。池田とMF鈴木雄斗の帰陣により事なきを得たが、相手の速攻に繋がっていてもおかしくない場面だった。

ここでは湘南DFキムとインサイドハーフ池田の距離が開きすぎており、これがアラーノにボールを奪われた原因である。自陣後方からのパス回し(ビルドアップ)の際に、湘南3センターバックと2インサイドハーフの距離が遠くなる傾向は、7月10日の天皇杯3回戦(東京ヴェルディ戦)でも見られた。湘南が8月以降も勝利を積み重ねるには、この細部を改めて突き詰める必要があるだろう。

7月全勝の湘南ベルマーレ。G大阪戦で結実した新たな攻撃配置とは

旺盛だったウイングバックへのサポート

今回のG大阪戦序盤では、湘南の両ウイングバックが自陣後方且つタッチライン際へ降りてくる場面がちらほら。前半2分には湘南DF畑大雅(左ウイングバック)がこの場所でボールを受け、G大阪のDF松田陸(右サイドバック)に寄せられた。


このシーンでは湘南MF茨田陽生(インサイドハーフ)が中央からタッチライン際へ立ち位置を移したほか、畑にパスを出したMF鈴木淳之介(センターバック)も最終ラインから攻め上がり、畑をサポートしている。ウイングバックがここでボールを受けた場合、自身の傍にはタッチラインがあるため、左右どちらかのパスコースが必然的に消える。これによりタッチラインとは逆方向、もしくは相手サイドハーフやサイドバックに塞がれやすい縦方向へのパスを強引に出すかの二択をウイングバックは迫られるが、茨田と鈴木淳之介が畑を素早くサポートしたことでアウェイチームは難を逃れた。

ウイングバックの立ち位置に改善の余地があるものの、インサイドハーフとセンターバックによるここへのサポートが旺盛になったことで、湘南は直近の公式戦で安定感のあるビルドアップを披露している。茨田と池田の2インサイドハーフ、及び3センターバックによるウイングバックのサポートは今後湘南の生命線となりそうだ。

7月全勝の湘南ベルマーレ。G大阪戦で結実した新たな攻撃配置とは

際立った池田の立ち位置修正

G大阪が最前線からの守備(ハイプレス)をあまり仕掛けてこなかったことと、相手のビルドアップを片方のサイドへ追いやるような守備の仕組みを整えていなかったこと。この2点も湘南にとって有利に働いた。

前半14分には、MF鈴木徳真を中盤の底に据える[4-1-4-1]に近い陣形で守っていたG大阪を尻目に、湘南DF髙橋直也(センターバック)が自陣からボールを運ぶ。その後髙橋から池田への縦パスが繋がると、池田のラストパスを受けたFW鈴木章斗が惜しいミドルシュートを放っている。

センターバック髙橋から遠ざかりすぎず、G大阪のアラーノとMF倉田秋の2人にとって斜め後ろにあたる場所でパスを引き出した池田の絶妙なポジショニングが光ったワンシーンだった。前半開始直後こそ味方センターバックとの距離が遠すぎたが、試合のなかで立ち位置を的確に修正できるようになったのは大きな進歩と言えるだろう。G大阪の漫然とした撤退守備を巧みに突いた。

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決勝ゴールの立役者は

湘南が新たな攻撃配置でG大阪を手玉に取り、決勝ゴールを挙げたのが後半38分だった。


ここでは右ウイングバックの鈴木雄斗が自陣からボールを運び、敵陣右サイドのタッチライン際に立っていた池田へパスを送る。その後池田、MF田中聡、FWルキアン、途中出場のFW福田翔生の順で小気味よくパスが繋がると、福田が逆サイドの畑へボールを渡す。このラストパスを受けた畑がペナルティエリア左隅あたりからダイレクトシュートを放ち、これがゴールマウスに吸い込まれた。

相手ゴール前でのパスワークの質も高かったが、ここで物を言ったのは鈴木雄斗を含む湘南最終ラインの立ち位置の妙だ。

7月全勝の湘南ベルマーレ。G大阪戦で結実した新たな攻撃配置とは
決勝ゴールが生まれる直前、湘南は鈴木淳之介、キム、髙橋、鈴木雄斗の4人が自陣後方で横並びとなり、4バックに近い形でビルドアップ開始。一時的に4バックの右サイドバックと化した鈴木雄斗がボールを運んだことで、湘南はチャンスを迎えている。

4バックが横並びになってビルドアップを始めた場合、サイドバックがタッチライン際に追い詰められてボールを奪われやすくなるが、この場面では湘南4バックがペナルティエリアの横幅に概ね収まる立ち位置をとったため、左右どちらにもパスを散らせる状態に。鈴木雄斗がタッチライン際ではなくその内側でボールを保持したことで、G大阪陣営としてはパスコースの限定やプレスのかけ始めの判断が難しい状況になった。

鈴木雄斗がボールを運んだ際、右サイドのタッチライン際に池田、中央には福田やルキアンが立っていたため、G大阪のDF黒川圭介(左サイドバック)やボランチの鈴木徳真はボール保持者にアプローチできず。ゆえに撤退守備を余儀なくされたホームチームは、そのまま湘南の小気味よいパスワークを浴びている。理に適った立ち位置でG大阪のプレス(守備)を無力化した鈴木雄斗こそ、このゴールの立役者と言えるだろう。

G大阪の堅守を破ったこの新たな攻撃配置を、湘南は今後も武器とすべきだ。
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