フランスで開催されたパリ2024オリンピック(パリ五輪)が8月11日に閉幕し、オリンピック旗は次回開催地であるアメリカ・ロサンゼルスへと渡った。約17日間の限られた期間に多種多様の競技が行われた今大会。
どれを応援しようか迷うほどバラエティに富んだ内容であった。

なかでも会期最終日に行われた女子サッカー決勝戦(ブラジル対アメリカ)は、4万3千813人が観戦する盛り上がりをみせた。日本女子代表を含めた参加12カ国のうち約半数がFIFAランキングの上位国(2024年6月14日付)だったこともあり、予選(グループステージ)から決勝までハイレベルなプレーが繰り広げられたことも人気を集めた理由の1つと考えられる。

結果的にメダルを手にした3カ国はアメリカ(金)、ブラジル(銀)、ドイツ(銅)であったが、結果だけに留まらないのが女子サッカーの面白味!そこでこの記事では、各国が戦った予選から決勝戦までの試合で、筆者の印象に残った3つの“驚き”を紹介していく。

※記事内の日時は全て日本時間

パリ五輪で魅力爆発!女子サッカーで印象的だった“驚き”3選

W杯王者の敗退とブラジルの脅威

1つ目は8月7日に行われた準決勝でFIFAランキング1位のスペインが、9位のブラジルに敗れたこと。言い換えれば、他国にとってブラジルが脅威へと変わった記念すべき日とも捉えられる。

実はブラジルは今大会、一度グループステージでスペインと対戦し0-2で惨敗している。しかし、その後は着々と準決勝まで上り詰め再びスペインと対決!両チームともにゴール前の絡みが非常に多く、一時は互いに1得点ずつオウンゴールしてしまうという異例の試合展開となったが、ブラジルの粘り強さが功を奏し最終スコア4-2とスペインに2点差で勝利を掴んだ。

2023年のFIFAワールドカップ(W杯)ではオーストラリアの地で世界の頂点に立った王者スペイン。今夏のパリ五輪では”燃え上がる”赤色のユニフォームとは対照的に、どこか燃焼しきれていない印象を受けた。昨年に続き「五輪初出場で金メダル」というスペインのシンデレラストーリーを期待していたファンも多かったと思うが、ブラジルはその予想を打ち破り、信念で銀メダルを掴んだ。優勝国はアメリカだが、ブラジルの見事な駆け上がりぶりは世界中に驚きと感動を与えたに違いない。

パリ五輪で魅力爆発!女子サッカーで印象的だった“驚き”3選

若手選手たちのハイレベルプレー

2つ目は我らが日本女子代表(なでしこジャパン)のMF谷川萌々子やDF古賀塔子を筆頭とする、各国若手選手たちが魅せたスーパープレーの数々だ。思い返してみると準々決勝で日本から点を奪ったアメリカのFWトリニティ・ロッドマン(22歳)の巧みなシュート技術や、フランスのFWマリーアントワネット・カトト(25歳)の全4試合で5得点など各国のヤングプレーヤーたちの存在が光っていた。


その中でも、なでしこジャパン谷川のプレーは抜きん出ていた。それは7月29日のグループステージ(日本対ブラジル戦)でのこと。谷川は0-1とブラジルに一歩リードされ危機的状態のなか後半80分に途中出場。その後のアディショナルタイム(8分)で日本に一筋のチャンスが巡ってきた。92分を経過した頃、キャプテンのDF熊谷紗希がペナルティーキックで得点を挙げ1-1の同点で流れを変えることに成功。誰もが「あと1点」を願っていた時、谷川はなんと中盤から思い切りのよいロングシュートを放ち、96分にして2-1と逆転で日本を勝利へと導いた。

「まさか…」と思わず声が溢れそうになる谷川の偉業は、会場の視線を釘付けにするほど圧巻のパフォーマンスだった。試合後、若干19歳にしてチームの救世主となった谷川にチームメンバーが歓喜の涙を浮かべて駆け寄る姿は、なでしこジャパンのチーム力の素晴らしさと女子サッカーの面白さや醍醐味を改めて感じさせるワンシーンだった。

パリ五輪で魅力爆発!女子サッカーで印象的だった“驚き”3選

アメリカを連覇に導いた新監督

最後の1つは、アメリカ代表のエマ・ヘイズ新監督が就任から約2ヶ月の短期間で金メダル連覇を達成させたことだ。アメリカは今年5月中旬頃、イギリスの名門クラブ『チェルシー・ウィメン』から代表チームの監督として彼女を迎え、チーム力の底上げやヘイズ流の戦術を取り入れた新しい戦い方をスタートさせたばかりだった。ヘイズ監督下で迎える初の世界大会となったパリ五輪では、アメリカらしいスピード感や攻めの動きが目立った昨夏W杯とは異なり、冷静に相手の動きを分析するプレーが際立っていた。それが顕著だったのが、なでしこジャパンとの準々決勝だ。


日本もアメリカ同様、相手の動きを先読みして守備を固めていたため互いに一歩も引かない緊迫した120分となったが、結果は1-0でアメリカが勝利。ヘイズ監督は決勝戦後のインタビューで胸の内を明かした。

「これまで見る側だったオリンピックに、まさか自分が監督としてチームを率いて(出場し)優勝できたことに信じられないほど感激している。金メダル獲得はスタッフのサポートや選手たちそれぞれの素晴らしい経験値があったからこそ。みんなで一緒に大会を楽しむことができた」

またヘイズ監督によると、金メダル獲得の背景にはアメリカ代表キャプテンMFリンジー・ホランの存在が大きかったと言う。「ピッチ外でもリンジーが常に若い選手や周囲の人々をサポートし、単にキャプテンとしてではなく私(監督)の仕事を支えてくれていた。リンジーと一緒に仕事ができたことに感謝している」

会見で語られたヘイズ監督のこの言葉を隣で聞いていたホランは感極まって涙を流し、17日間におよんだパリでの闘いを噛み締めた。

パリ五輪では各国それぞれたくさんのドラマがあった。次の世界大会となる2027年のW杯では、一体どんなサプライズが待ち受けているのか。勝敗だけに留まらない女子サッカーの魅力に、今後もきっと世界が注目するだろう。
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