J1リーグの上位に、プレミアリーグを新設するという構想がある。J1のクラブ数を減らし、より上位のリーグを形成することで、リーグ全体のレベルアップや経営規模の拡大を目指すというものだ。
2010年、Jリーグチェアマンが鬼武健二氏(第3代)から大東和美氏(第4代)に交代したタイミングで、J1クラブの中から8~10クラブを選抜することが検討されていると報じられた。また、2014年に第5代チェアマンに就任した村井満氏は、リーグの抜本的な改革を検討する「リプランニング推進サポートチーム」の中にプレミアリーグ構想を盛り込み、クラブ数を10~14とする案を示した。
これを引き継いだのが、2022年に就任した現在の第6代チェアマン野々村芳和氏だ。野々村氏は「本気で競争しないといけない時期に来ている」と語り、Jリーグが30年以上維持してきた「護送船団方式」からの脱却を示唆。また、現在はJリーグが試合の放映権を一括管理してるところ、各クラブがより積極的に収益を上げ、独自の戦略を立てられるようにする案なども検討される見通しだった。
ここでは、Jリーグにおけるプレミアリーグ構想の概要と、その核心となるクラブ選出の基準やプロセスについて示していきたい。
一方でJリーグは、国内はもちろん、海外(主に東南アジア諸国)向けにおいて、より魅力的なコンテンツを提供しファン層を拡大していく必要に迫られている。既に日本は人口減社会に突入し、内需拡大が見込めないとあればなおさらだ。
このような状況を打破し、Jリーグを世界で戦えるリーグへと押し上げるために浮上したのがプレミアリーグ構想と考えるならば、その主な目的は以下の通りだ。
そもそも、イングランドで1992年にプレミアリーグが創設されたきっかけは、当時、放映権契約を結んでいたBBCとITVとの間でカルテルが結ばれていたことが発覚し、また放映権料の分配もリーグ全92チームに均等に行われていたため、人気・実力両面でリーグを引っ張っていた当時の「ビッグ5」(リバプール、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、トッテナム・ホットスパー、エバートン)が不公平感を抱き、リーグ脱退をチラつかせた上で、カルテルの廃止と放映権料の増収を図らせたことが引き金だった。
現在、Jリーグは放映権を一括管理し、DAZNとの契約金(2023年から2033年までの11年契約で総額約2,395億円)を各クラブに配分している。その配分は順位などによって変動するが、Jリーグにおける人気クラブとそうでないクラブの格差は、先んじてプレミアリーグを形にしたイングランドほどではない。
また、イングランドのプレミアリーグは従前のイングランド・フットボールリーグ(EFL)1部の22クラブが横滑りする形でスタートを切った(1995年に20クラブに削減)が、Jリーグで計画されているプレミアリーグ構想は、現在のJ1クラブをほぼ半減させ、国際的な競争力と上げようとする野心的な試みだ。
これが実行されれば当然、資金力や集客力で劣るクラブはこぼれ落ちることになり、この点こそが改革に踏み切れない大きな要因となっていると思われる。
Jリーグプレミアリーグ構想は、J1の20クラブから数を絞り込み、よりエリート主義的なリーグ構造を目指す可能性が高い。
プレミアリーグに選出されたクラブは、Jリーグの顔として国内外にその価値を発信する役割を担うことになる。そのため、単に競技レベルが高いだけでなく、経営の安定性、集客力、施設、育成体制、地域貢献といった多角的な観点から、真にトップリーグにふさわしいクラブが選ばれる必要がある。選出基準として、主に以下の要素が複合的にかつ総合的に判断されるだろう。
このスタジアム問題を放置し、AFC基準どころかJ1基準すら満たせていない柏レイソルや清水エスパルスなどは、J1に居続けることが出来たとしても注意が必要で、対策は急務だ。さらに、クラブがスタジアムを所有し、優先利用権を保有していることが望ましいことは言うまでもないだろう。
しかし、その実現には多くの課題も存在する。最も大きな問題は合意形成の難しさに尽きる。全てのJ1クラブが納得する形での制度設計は容易ではない。特に、選考基準や分配金の配分については、慎重かつ丁寧な議論が求められる。また、プレミアリーグと下位リーグ間の経済的・戦力的な格差が生じ、リーグ全体の多様性や健全性が損なわれる格差拡大の懸念も考慮しなければならない。
選出されなかったクラブにとっては、リーグカテゴリーの変更(事実上の降格)やそれに伴う収益減などの大きな影響が予想される。これらのクラブへの配慮や、下位リーグの魅力向上策も同時に検討していくことが不可欠となる。
さらにはファンの理解と支持も不可欠だ。ただでさえ混乱が予想されるプレミアリーグへの移行に伴うスケジュール調整など、実務的な課題は山積みだ。Jリーグはプレミアリーグ構想の意義や目的をファンに丁寧に説明する責任が伴う。
選出基準の策定と選考プロセスにおいては最大限の透明性を確保し、全てのステークホルダーが納得できる形にしなければならない。そして選ばれたクラブは、日本サッカーの牽引役としての大きな責任を負うことになる。同時に、選ばれなかったクラブへの配慮と、Jリーグ全体の発展を見据えた施策も不可欠だ。
この構想が、日本サッカー界にとって真の「プレミア」な未来を切り拓くためのエポックメーキングな改革となることを、多くのサッカーファンが固唾を飲んで見守っている。Jリーグの英断とクラブの真摯な姿勢が、新たな歴史の扉を開くことを期待したい。
2010年、Jリーグチェアマンが鬼武健二氏(第3代)から大東和美氏(第4代)に交代したタイミングで、J1クラブの中から8~10クラブを選抜することが検討されていると報じられた。また、2014年に第5代チェアマンに就任した村井満氏は、リーグの抜本的な改革を検討する「リプランニング推進サポートチーム」の中にプレミアリーグ構想を盛り込み、クラブ数を10~14とする案を示した。
これを引き継いだのが、2022年に就任した現在の第6代チェアマン野々村芳和氏だ。野々村氏は「本気で競争しないといけない時期に来ている」と語り、Jリーグが30年以上維持してきた「護送船団方式」からの脱却を示唆。また、現在はJリーグが試合の放映権を一括管理してるところ、各クラブがより積極的に収益を上げ、独自の戦略を立てられるようにする案なども検討される見通しだった。
ここでは、Jリーグにおけるプレミアリーグ構想の概要と、その核心となるクラブ選出の基準やプロセスについて示していきたい。

Jリーグプレミアリーグ構想の主な目的
1993年の開幕以来Jリーグは着実に成長を遂げ、2024年度のクラブ総売上高は過去最高の1,629億円を記録した。しかし、創設年がたった1年しか違わないイングランドのプレミアリーグの2022/23シーズンの総売上高は60億5800万ポンド(約1兆1,500億円)。実に10倍近くもの差だ。もちろん、英国民にとってフットボールとは国技であり、その人気やプレーレベルに圧倒的な差があることも理由の1つだろう。一方でJリーグは、国内はもちろん、海外(主に東南アジア諸国)向けにおいて、より魅力的なコンテンツを提供しファン層を拡大していく必要に迫られている。既に日本は人口減社会に突入し、内需拡大が見込めないとあればなおさらだ。
このような状況を打破し、Jリーグを世界で戦えるリーグへと押し上げるために浮上したのがプレミアリーグ構想と考えるならば、その主な目的は以下の通りだ。
- 競技レベルの向上:より厳選されたクラブによるハイレベルなリーグを形成することで、選手個々の能力向上とチーム戦術の高度化を促進する。
- 国際競争力の強化:ACL(AFCチャンピオンズリーグ)などの国際大会で上位に進出し、Jリーグのブランド価値を高める。
- 収益力の向上と経営安定化:リーグ全体の価値向上による放映権料やスポンサー収入の増加を目指し、各クラブの経営基盤を強化する。
- 魅力的なエンターテインメントの提供:質の高い試合を安定的に提供し、既存ファンの満足度向上と新規ファンの獲得を図る。
- 日本サッカー全体の底上げ:トップリーグの活性化が、J2、J3といった下位リーグや育成にも波及効果をもたらすことを期待できる。

プレミアリーグ
なぜプレミアリーグ構想が進まないか
ではなぜこのJリーグプレミアリーグ構想が進まないか。まず前提として、意図的に「ビッグクラブ」を作り資金力のないクラブが排除されることになるのは明らかであり、現在J1に属する20クラブの合意形成が非常に難しいのではないか。そもそも、イングランドで1992年にプレミアリーグが創設されたきっかけは、当時、放映権契約を結んでいたBBCとITVとの間でカルテルが結ばれていたことが発覚し、また放映権料の分配もリーグ全92チームに均等に行われていたため、人気・実力両面でリーグを引っ張っていた当時の「ビッグ5」(リバプール、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、トッテナム・ホットスパー、エバートン)が不公平感を抱き、リーグ脱退をチラつかせた上で、カルテルの廃止と放映権料の増収を図らせたことが引き金だった。
現在、Jリーグは放映権を一括管理し、DAZNとの契約金(2023年から2033年までの11年契約で総額約2,395億円)を各クラブに配分している。その配分は順位などによって変動するが、Jリーグにおける人気クラブとそうでないクラブの格差は、先んじてプレミアリーグを形にしたイングランドほどではない。
また、イングランドのプレミアリーグは従前のイングランド・フットボールリーグ(EFL)1部の22クラブが横滑りする形でスタートを切った(1995年に20クラブに削減)が、Jリーグで計画されているプレミアリーグ構想は、現在のJ1クラブをほぼ半減させ、国際的な競争力と上げようとする野心的な試みだ。
これが実行されれば当然、資金力や集客力で劣るクラブはこぼれ落ちることになり、この点こそが改革に踏み切れない大きな要因となっていると思われる。
Jリーグプレミアリーグ構想は、J1の20クラブから数を絞り込み、よりエリート主義的なリーグ構造を目指す可能性が高い。
開始時期については、2033年までDAZNとの放映権契約が残されていることから、それ以降となる公算が高い。それまで慎重な議論が続けられることになると思われる。

選考クラブの人気を測る重要な指標
Jリーグプレミアリーグ構想を実現する上で、まずクリアすべき課題が参加クラブの選出方法だ。選出基準やプロセスが“ブラックボックス”では、構想そのものの信用性が担保できず、計画自体が頓挫しかねない。プレミアリーグに選出されたクラブは、Jリーグの顔として国内外にその価値を発信する役割を担うことになる。そのため、単に競技レベルが高いだけでなく、経営の安定性、集客力、施設、育成体制、地域貢献といった多角的な観点から、真にトップリーグにふさわしいクラブが選ばれる必要がある。選出基準として、主に以下の要素が複合的にかつ総合的に判断されるだろう。
過去の成績
過去の成績という面では、J1での優勝回数や順位、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)など国際大会での成績などが考慮される可能性がある。単に過去の栄光だけでなく、継続的な強さを維持してきたかどうかが問われるだろう。選考直前の数シーズンにおけるリーグ順位や勝ち点が重要な指標となる。よって、安定して高いパフォーマンスを発揮しているクラブが有利になる。この計画が秘密裏に進行しているとすれば、J2降格は致命傷となり得る。財務健全性
財務健全性は、クラブの“収益力”とも呼べるもので、スポンサー収入、入場料収入、グッズ収入など、クラブが自立して経営できるだけの収益基盤があるかどうかだ。具体的な売上規模の基準が設けられる可能性もある。健全な財務体質はリーグの安定運営に不可欠であり、債務超過が続いているクラブはここで撥ねられることは間違いない。Jリーグが導入しているクラブライセンス制度の財務基準が、より厳格な形で適用されるからだ。適切な情報開示やコンプライアンス体制が整備されているかどうかも重要なポイント。また、選手獲得や施設整備など、チーム強化や事業拡大に必要な投資を継続的に行える投資余力があるかどうかも見られるだろう。
スタジアム
プレミアリーグにふさわしいスタジアム規模も求められるだろう。現在のJ1スタジアム基準(収容人数15,000人以上・観客席の3分の1に屋根・天然芝)よりさらに厳しいAFC基準(観客席のうち10,000席以上が椅子席であることなど)が設定される可能性もある。さらに、VIPルームや記者席、バリアフリー設備、大型ビジョン、快適な観戦環境など、国際基準を満たすスタジアム設備が要求される。このスタジアム問題を放置し、AFC基準どころかJ1基準すら満たせていない柏レイソルや清水エスパルスなどは、J1に居続けることが出来たとしても注意が必要で、対策は急務だ。さらに、クラブがスタジアムを所有し、優先利用権を保有していることが望ましいことは言うまでもないだろう。
集客力
集客力(平均入場者数)も、クラブ人気を測る重要な指標だ。ファンクラブ会員数やSNSフォロワー数も考慮される可能性がある。ホームタウンでの認知度や地域住民との連携、社会貢献活動の実績なども含め、Jリーグの理念である「地域密着」を高いレベルで実践しているクラブが評価されるはずだ。効果的なプロモーション活動やファンサービスを通じて、新たなファンを獲得し、スタジアムを満員にするためのマーケティング能力も問われるだろう。育成組織の充実度
育成組織の充実度も重要だ。ユース(U-18)、ジュニアユース(U-15)、ジュニア(U-12)といった各年代のチーム編成、指導者の質、練習環境、スカウティング体制。トップチームへの選手輩出実績や、年代別代表への選出実績など。継続的に質の高い選手を育成できるシステムが構築されているかがポイントとなる。クラブ独自の育成方針や、長期的な視点での選手育成計画を有しているかどうかも評価されるだろう。

新たな歴史の扉を開くリーグに期待
Jリーグにおけるプレミアリーグ構想は、単なるリーグ再編に留まらない、日本サッカー界の将来像を左右する壮大なプロジェクトだ。成功すれば、リーグの国際競争力は高まり、より多くのファンを魅了し、ゆくゆくは日本代表の強化にも繋がるだろう。また、クラブ経営の安定化は、長期的な視点での選手育成や投資を可能にし、日本サッカーの持続的な発展を支える基盤となるだろう。しかし、その実現には多くの課題も存在する。最も大きな問題は合意形成の難しさに尽きる。全てのJ1クラブが納得する形での制度設計は容易ではない。特に、選考基準や分配金の配分については、慎重かつ丁寧な議論が求められる。また、プレミアリーグと下位リーグ間の経済的・戦力的な格差が生じ、リーグ全体の多様性や健全性が損なわれる格差拡大の懸念も考慮しなければならない。
選出されなかったクラブにとっては、リーグカテゴリーの変更(事実上の降格)やそれに伴う収益減などの大きな影響が予想される。これらのクラブへの配慮や、下位リーグの魅力向上策も同時に検討していくことが不可欠となる。
さらにはファンの理解と支持も不可欠だ。ただでさえ混乱が予想されるプレミアリーグへの移行に伴うスケジュール調整など、実務的な課題は山積みだ。Jリーグはプレミアリーグ構想の意義や目的をファンに丁寧に説明する責任が伴う。
選出基準の策定と選考プロセスにおいては最大限の透明性を確保し、全てのステークホルダーが納得できる形にしなければならない。そして選ばれたクラブは、日本サッカーの牽引役としての大きな責任を負うことになる。同時に、選ばれなかったクラブへの配慮と、Jリーグ全体の発展を見据えた施策も不可欠だ。
この構想が、日本サッカー界にとって真の「プレミア」な未来を切り拓くためのエポックメーキングな改革となることを、多くのサッカーファンが固唾を飲んで見守っている。Jリーグの英断とクラブの真摯な姿勢が、新たな歴史の扉を開くことを期待したい。
編集部おすすめ