c) CMV感染の脳腫瘍(GBM)
そのほか、海外のアカデミアで抗腫瘍効果に関する研究も進み始めている。具体的には、2021年9月にシンガポール国立がんセンター(以下、NCCS)と、EBウイルス(EBV)※陽性リンパ腫に対する抗腫瘍効果とその機序の探索に関する共同研究契約を締結した。
※EBVは、5歳児の約50%、成人の約95%近くに感染歴がある。EBV感染症のほとんどは無症状で、一部は血液がんや自己免疫疾患を発症する。通常、Bリンパ球に感染し、細胞の中で活動せずに潜伏しているが、何らかの環境の変化によって活性化する。
特に脳腫瘍のうち悪性度の高いGBM(神経膠芽腫)については、約半分がCMVに感染していることが明らかとなっている。CMVの再活性化によって細胞に炎症を起こし、低酸素状態を作ることで新生血管形成に係る増殖因子であるVEGFを増加させ、がん細胞の増殖を促進している可能性が指摘されている。
※GlobalData:Forecast of incident cases of GBM in US,5EU,China and Japan 2027より同社推定
同社は現在、米国の大学で進めている2件の前臨床試験の結果を見て、臨床試験に進むかどうか判断していくことにしている。前臨床試験の結果については2022年内には判明する見通しで、順調に進めば2023年内に第2相臨床試験を開始するものと予想される。
d) 多発性硬化症
BCVについては多発性硬化症治療薬として開発が進む可能性も出てきている。
治療薬としては抗CD20抗体であるオクレバスをはじめ複数品目が販売されており、売上規模は合計で1兆5千億円を超えている。ただ、発症原因が不明だったことから進行を抑制するための対症療法でしかなく、根治療薬はまだ開発されておらず、今なお多くの企業が開発を進めている状況にある。
2022年1月に米国ハーバード大学研究チームが発表した研究論文によると、1千万人を超える米軍兵役成人のうち多発性硬化症を発症した患者1千人のデータを分析したところ、EBV感染歴のある患者の発症リスクが格段に高く、EBVが多発性硬化症の主要発症因子であることを解明している。また、同年1月に米スタンフォード大学研究チームが発表した研究論文では、EBVの核抗原と脳のグリア細胞の抗原が似通っているために、EBV感染後に増幅したB細胞によって多発性硬化症が引き起こされるメカニズムであることを証明している。これは多発性硬化症発症後、速やかにEBVを駆除して治療することで、症状の進行を妨げる可能性があることを示唆している。
同社は、これらアカデミアの研究成果を基に多発性硬化症を対象とした開発も進めていく方針を表明しており、2022年内にも開発戦略を策定したい考えだ。既に、同分野で著名な医療機関と共同研究についての協議を進めている段階にある。多発性硬化症については患者数が多く、臨床試験の規模も大きくなることから、開発を進める場合は比較的早期の段階でパートナー契約を締結して共同で進めていくものと考えられる。
e) 国立感染症研究所との共同研究成果について
同社は2022年2月24日付で、BCVに関する国立感染症研究所との共同研究成果を論文発表した。要旨は、これまで応答性が不明であった17種類の血清型アデノウイルスに関して、BVCの抗ウイルス活性を検証した結果、いずれもCDVに比べて約200倍の抗ウイルス活性が確認できたというもの。特に国内において流行性角結膜炎あるいは造血幹細胞移植後の出血性膀胱炎の原因となっているD54型あるいはB11型等に対して優れた抗ウイルス活性を示すことが確認されている。アデノウイルス感染症治療薬はまだ承認された薬剤がないことから、今後、これら疾患を対象とした開発も進む可能性が出てきている。
f) BCVの潜在的市場価値について
なお、抗ウイルス治療薬としては武田薬品工業のマリバビル(Livtencity)が、臓器や造血幹細胞移植後の抵抗性・難治性CMV感染治療薬※として、2021年11月に米国で販売承認を取得している。
※4種類の抗ウイルス治療薬(ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネット、シドフォビル)に難治性や抵抗性を示したCMV感染症が対象。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)