1. 業界を取り巻く環境
アーバネットコーポレーション<3242>の基軸事業である都内の都市型賃貸マンションは、入居者及び投資家双方の堅調な需要に支えられて好調に推移している。東京都総務局「東京都の人口(推計)」によると、同社が供給エリアとしている東京23区の人口は、東京都への転入超過等を背景に増え続けてきた。
首都圏における投資用マンションの供給戸数は2007年の9,210戸をピークに、リーマンショックによる金融の引き締めや事業者の倒産・撤退、自治体のワンルームマンション建築規制(最低面積の規定、付帯設備の設置等)の強化などにより減少傾向をたどったが2010年に底を打ち、その後は金融機関のスタンスの変化や根強い需要に支えられて好調に推移してきた。2020年以降はコロナ禍の影響が懸念されたものの、投資用マンションの需給関係は安定している。ただ、足元では都心における用地取得が困難ななかで、供給戸数の減少や品薄感による販売価格の上昇傾向も見られる。また、川崎市や横浜市における供給戸数が高いシェアを占めるようになってきた。プレイヤーについては、販売だけを手掛ける会社が数多く見られるものの、同社のように設計・開発に特化する相当規模の同業他社(特に上場会社)は見当たらない。
2. 業界における課題
開発環境については、都心人気駅の駅近などで厳しい仕入環境が継続するものと見られる。また、土地価格の高騰及び工事原価の上昇による利益率低下、2024年問題※による建設工期の長期化、建設資材の供給不安といった問題もあり、さらには金利上昇による影響や景気減速に伴う金融機関の不動産融資厳格化の動きにも注意する必要が出てきた。
※ 働き方改革関連法により従業員の時間外労働に上限が課されることで生じる問題のこと。1人当たりの時間外労働時間が制限されることで、労働力が不足することから、工期の長期化等が懸念されている。
販売環境に目を向けると、首都圏の分譲用マンションは、強い需要により好立地物件を中心に価格上昇が継続し堅調に推移している。特に女性の社会進出の動きなどによりコンパクトマンションの需要が多く、供給不足の状態が続いている。都市型賃貸マンションについても、東京都では2035年まで若年層の流入による社会増が続くことに加え、高齢化の進行に伴い離別・死別等で75歳以上の後期高齢者を世帯主とする単独世帯の増加が見込まれ、市場は緩やかに拡大する見通しである。また、若年労働力確保や学生確保のための社員寮・学生寮ニーズの拡大も見込まれる。年金支給開始年齢の引き上げや支給額の減額などへの不安は潜在的に存在し、安定的な収益が期待できる都心の投資用不動産への需要も根強い。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)