レビュー
人類のほとんどが免疫を持っていない新種のウイルスが世界中に蔓延し、混乱が広がる。まるで現在の世界の様子を描いているかのようであるが、これはSFの大御所である著者・小松左京氏が1964年に発表した作品『復活の日』のあらすじだ。
著者の息子である実盛氏の解説によれば、第二次世界大戦の戦禍のなかで思春期を過ごした著者は、本土決戦で命を落とす覚悟をしていた。しかし思いがけず生き残り、終戦を見届けた著者を待ち受けていたのは、平和な時代ではなかった。第三次世界大戦が勃発すれば、今度こそ世界が滅んでしまうかもしれない。そうした危機感のなか、本作の執筆が決まった。それは奇しくも現在と同じように、東京オリンピックを翌年に控えた1963年のことである。
こうした流れを見ると、著者が現在のようなウイルスによる混乱を予見し、人類の未来を悲観していたように感じられるかもしれない。しかし本作はむしろ、人類が断崖に追い詰められた姿を描き出すことで、私たちが「理知的」にふるまうことを促そうとしている。作中の人類はほとんど滅びてしまうが、何かが少しでも違えば、誰かがもう少しだけ理知的にふるまっていれば、違った結末があったのではないかと思わされる。
今日の混乱のさなかにいる私たちは、はたして理知的にふるまえているだろうか。日本SFの金字塔と呼ぶにふさわしい名作である。
本書の要点
・イギリスの細菌戦研究所から非常に増殖力の強い新型ウイルスのサンプルが盗み出され、スパイの手に渡ってしまう。
・ウイルスは世界中に広がり、感染症や突然死が相次ぐ。有効な手立てもないまま、人類は南極調査で隔離されていた1万人を残すのみとなった。
・南極生活4年目、北米で起こると予想される地震を攻撃と勘違いした米ソの報復システムが、南極へミサイルを発射するという可能性が示唆される。
・報復システム停止のために決死隊がアメリカに向かうも、予想より早く地震に見舞われ、報復システムが作動してしまう。
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